1章

空腹コンビと魔法武器

朝になった。カナとシロウはテント道具を片付けて、さっそく牛の捜索に乗り出した。


「そういえば、なんでこのあたりに牛が来てるってわかったんですか?」


疑問に思ったシロウが聞く。


「あーそれはねぇー、足跡があったからー!見るー?」


いや、足跡が見つかってるならそれだけで十分なのだが…とも思いながら、シロウはその足跡を見に行った。そして、足跡のあった場所までたどり着いた。そして絶望した。


「あのー…カナさん…。」


「ん?なに?でっかい足跡だよねぇー!」


「そうじゃなくて…足跡のここ…苔が生えてる…。」


そういって、足跡の窪みの側面を指さす。確かに苔が生えている。


「あー、ほんとだ!じゃあもうこの足跡って、昔のなの?」


シロウは確信した。―――――この人、バカだ。それもかなりの。


「当たり前じゃないですか…この牛はもうとっくに旧市街をあとにしてますって…」


シロウは半ば呆れたようにそれを見上げる。天気は快晴。ただ、雨雲もちらほらと見えるので、近いうちに雨が降りそうではあった。


「ひとまず……この足跡が向かっている方に進んでみましょう…。なるべく午前中に移動しましょう。」


植物類の巨大生物たちは、太陽の光で1日活動する分のエネルギーを得ないといけないため、午前中は基本的に光合成に徹している。夜は土の中で眠っているとか。つまり、巨大生物がうろついているのは昼前から夜までの9時間ほどだ。なので午後に移動するにはリスクがかかる。午前中に移動、午後は食料調達とキャンプの用意。午前中に狩れば安全なのだが、食物達は活動時間外はなぜかどれだけ探しても見つからないのだ。まるで消えたみたいに。


「わかった!じゃあしゅっぱーつ!」


元気に腕を上げてカナは歩き出す。古い足跡しか情報が無い今、長い旅になるのかもなぁと思いながらシロウはカナの後ろをついていく。旧市街を抜け、もうボロボロになってしまったアスファルトの上を進む。

点々と続く足跡を追いながら、カナとシロウはこんな会話をした。


「そういえば、カナさんの持ってるそれ…」


「あぁ、これ?」


カナはすらりと担いでいた薙刀を見せる。


「何か力とかは無いんですか?」


「ちから…?」


え、この人そんなことも知らないのか。という顔でシロウはカナを見つめる。カナはシロウのあきれ顔に首をかしげるだけだ。シロウは諦めて説明に移る。


「魔素ってあるじゃないですか。この世界を造ってしまった原因でもあるあれです。あれって武器にも適用されるんですよ。武器を作った後に、魔力を注入するような形で。ですので基本的にこの世に現存する武器のほとんどには魔法が掛けられているはずなんですけど…。」


と言いながらカナの方を見る。まるで分っていないような顔だ。


「えーとつまり…私にも魔法が使えるってこと???」


「そうじゃなくて、魔法が使える武器を持ってるってことです。まさか本当に魔法無しで今まで…」


とここでシロウは自分が助けられた時の事を思い出した。あの時のカナの薙刀は確か…


「狩りをするときとかは、これが光るけど、それって魔法なの?」


「それですよ!やっぱり魔法打ち込み済みじゃないですか!!」


シロウは安心した。あの時のカナの身体能力は、人間の域を出ていた。おそらく、あの薙刀の力であろう。でも、身体能力を向上させる武器なんて…


「まさか、カナさんその武器って、『五…」


と言いかけたところでカナが叫ぶ。


「あ!シロウ見て見て!!なんか豆がいっぱい集まってる!!」


シロウもそこを見て見ると、確かに豆が集まっている。種類も様々だ。


「おぉ…凄いですね…!大豆とかは保存がきくので、是非とも狩っておきたいですね!」


そう言ってベルトから鬼砕を取り出す。カナもまた、自身の獲物を構える。


「どう狩りますか?」


シロウはカナに聞いた。


「え?どう狩るって…突っ込んで狩る?じゃないの?」


正気かこの人。とか言ってる間にカナは一人で駆け出した。止める暇もなくすごい勢いで突っ込んでいく。とりあえず、シロウは傍観に徹することにした。



カナはまず、シロウが欲しいと言っていた、大豆に切りかかったようだ。ただし、大豆は堅い。一回切り付けてはみたが、弾かれたようだ。大豆がカナの存在に気付く。ただし、カナは「???」といった感じで武器を見つめている。ちょっと待ってこれ結構まずいんじゃ…

予感的中。カナは後ろから他の豆の突進をくらって地面を転がった。武器の効果か知らないがカナは地面をすっ転がっているだけで別にどこか潰れたりちぎれたりはしていないようだ。そのままカナは囲まれる。


「あーもう…最悪ですよ…」


こうなってしまっては、シロウも参加せざるを得ない。豆たちに向かって走りながら…鬼砕の能力を発動させる。

シロウの手にした双槌そうづちは、最高級の品質故に、耐久力もすさまじく、普通は出来ないような魔法の吹き込み方をしていた。それは、

「生成!ウォルタル《水》!エレクト《電気》!!」

2つのハンマーにそれぞれ別の魔法をまとわせると言ったものである。今回は水と電気にさせて貰った。まずはシロウから見て一番奥にいる大豆から。ほかの豆の上を飛び越えるように大豆に接近する。大豆は堅い…だからこそ、カナの「切る」攻撃は効かない。だけど、堅いがゆえに「衝撃」には弱い。ハンマーは堅いものに衝撃を加えることに特化している。2つのハンマーを大豆に叩きつけると、大豆は打ち付けたところからバラバラになった。そしてもう一つ。大豆のところに向かうまですべての豆に水を撒いておいた。あとは電気をまとったほうのハンマーで軽く触れてやったら…

バチィッ!!という音とともに豆たちは感電して崩れ落ちた。結構あっさりいけたものだ。シロウはズボンとハンマーについた土ぼこりをポンポンとはたいて落とした。カナは吹き飛ばされた位置で座り込んでぽかーんとシロウを見ていた。


「カナさん、大丈夫でしたか…?」


「う、うん…。シロウって凄いんだね…!なんであの玉ネギにやられかけてたのか不思議。」


「いや…大型を相手にするのは苦手で…」


今回相手にした豆達は全て中型。大きさは大体2メートルほどだ。しかし………


「なんで多種類の豆がこんなところに集まっていたんでしょうか…」


普通はおかしい話なのだ。今のところ、一部の作物を除いた、集団性のある生物は発見例が無い。となると…


「(全員がどこからかやってきたってことか…じゃあ原因は…)」


『原因』はすぐに分かった。向こうからやってきたからである。

「ほわゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」


というカナの叫び。振り返るとそこには…


「カナさん!トウモロコシです!!一度逃げましょう!」


12メートルくらいのトウモロコシがこちらに向かって歩いていた。トウモロコシは捕り屋の間でもかなり危険と言われている食物だ。大型というのもあるが、一番の敵は…


「わぁっ!何!?それ飛んでくるの!?」


腕のような触腕から飛ばしてくるコーンである。破壊力は……まぁ人間がまともに受けたら普通に死ぬレベル。

カナとシロウは持てる分だけの豆とトウモロコシが飛ばしてきたコーンを一粒取って、逃げ帰った。幸いトウモロコシは鈍い。すぐに見えなくなった。




「はぁ…はぁ…。ここまで食物が大量発生するなんて…おかしいですよ…」


何とか安全な所まで逃げてきて2人は少し休憩を入れることにした。もう昼だ。これ以上進むのは諦めて、泊まる場所を探さなくてはならない。たまたま近くにあった広場にキャンプ道具を立てながら、シロウはカナに、先ほど言いかけたことをあらためて言うことにした。


「カナさん。その武器ってもしかすると『五光』かもしれません。」


「ふぇ?ごこう…?」


「そうです。基本的に僕たちが使っている武器は、吹き込まれた魔法の密度に応じて3つに分類されるんです。単純に武器の威力などをあげる『典型器てんけいき』、状況に応じて魔法が掛かる場所が変わる『発光器はっこうき』、持ち主の持つ力に応じて魔法の種類が変化する『変形器へんけいき』なんですが、それをも超越した力を持つ武器がこの世には5つほどあることが分かってるんです。それが『五光』なんですが…」

カナはよく分かっていないような顔をしている。


「じゃあ…シロウのそれは、魔法がたくさんかかるから、発光器…なの?」


「いえ、鬼砕はただ単純にハンマーに5つの魔法を重複させているだけなので、典型器です。」


「じゃあ私のは……あれ?どれも違うような…」


「そうなんです。五光は、武器ではなく、『武器を使用する人間』に魔法をかけるものなんです。」


「そうなの!?じゃあいっつも、これを構えた時に出てくる『ふわっ』て感覚は、私に魔法が掛かったってこと…?」


「おそらくは。」


カナは目をキラキラと輝かせた。その場で跳ねる。


「じゃあ私って、凄い武器持ってるんだねー!世界に5個しかないなんて!」


元気のいい人だ。ただ、その元気さにこっちも元気づけられるのも事実。シロウはそう感じていた。


「あ、でも、気を付けてください。五光はその力故に、欲しがっている人もたくさんいます。もしかすると、荒い人なら奪いに来るかもしれないので――――――」


とシロウがそこまで言いかけた時だった。


「その通り!!現に!俺はお前の五光を奪いに来た!!!」


空から


人が


振ってきた。



「「!?」」


2人はさすがに驚いた。そんなことお構いなしに男は名乗る。


「それが五光だな!ソイツをこっちに渡してもらおうか…ッ!」

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