第355話 策と策(その2)

「おい、一体どうするんだ?」

事態の急転に動揺したナーガ・リュウケイビッチに詰められたセイジア・タリウスは、

「どうするもこうするも」

いつになく厳しい表情で黙り込んでから、

「食い止めるしかないだろう」

決死の覚悟をにじませた声を漏らした。ジムニー・ファンタンゴが呼び寄せたマズカ帝国の軍勢はおそらく100人は下らないと推測され、黒鷲騎士団と現在交戦中の王立騎士団がそれに立ち向かうのが困難であるのはあまりにも明白だった。したがって、

「わたしがなんとかする」

セイジア・タリウスの辞書に「諦め」という単語は載っていない。助けを期待できない状況であっても、彼女は弱き者を守り悪しき敵と戦う使命を果たそうとしていた。かつての救国の乙女が故郷の危機に再び立ち上がろうとしているのに、

「おいおい、がしゃしゃり出てくるんじゃねえよ」

苦笑いしながら近づいてきたシーザー・レオンハルトが、

「今の王立騎士団のトップはおれなんだ。おまえだけにいい格好はさせねえ。っていうか、おれの下で働いてもらうぜ」

冗談めいた口調で女騎士とともに戦う意思を明確に表すと、

「もちろんぼくもご一緒させていただきます」

アリエル・フィッツシモンズも参戦を表明した。王立騎士団の団長と副長として外敵と対峙するのは当然であり、恋する女子が戦っているのを黙って見ていられるほど「アステラの若獅子」と「王国の鳳雛」の血は冷たくはなかった。さらに、

「わたしも手伝うぞ」

ナーガまで勢い込んで協力を申し出たのに、

「でも、きみは」

とセイは困惑した。アステラの危機に他国の娘を巻き込むのを躊躇したからだが、

「ここで踏ん張らないと世界全体が危なくなるんだ。じっとしてなどいられるものか」

蛇姫バジリスク」は余計な気遣いをした金髪の騎士を睨みつける。

(なんともありがたいことだ)

頼れる仲間たちの存在に「金色の戦乙女」は胸が熱くなるのを感じたが、脳髄は冷え切ったまま状況が一向に改善されていないことにも気づいていた。セイ、シーザー、アル、ナーガの4人はいずれも名だたる戦士であったが、だからといって百人以上の騎士団を撃退できる見込みは薄いと言わざるを得ない。10日ほど前に彼女はジンバ村で王国の国境警備隊と帝国の騎士団、合計200人近くの敵を壊滅させたが、それは周到な準備があったのに加えて相手方の油断に助けられた面もあった。今回も天に味方してもらえる、と思えるほどセイは楽天家ではなく、

(わたしたちだけならまだいいが、戦っているうちに一般市民に被害が及んでしまうかもしれない)

有利な点を見出そうとして別の不都合を見つけ出してしまう有様で、何処にも出口はなさそうだった。まさに衆寡敵せず、としか言いようのない苦境を抜け出す手立てを見出せずに、最強の女騎士の表情は翳りゆく一方であった。

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