王道バトル ~強めの平民が名門魔術学園に入学したけど楽勝だったのは初めだけじゃねえか~

早見ロキ

プロローグ

 お外は危ないから出ちゃいけない。

 大人達がどうしてそんな事を言うのか解らなかった。


(だって魔王とかいう悪者はずっと昔に倒されたんじゃなかったの?)


 『チキュウ』って名前の異界から来た四人の勇者様。

 その人達のお陰で世界が平和になったなんて誰でも知ってるのに。


「グルルルル――」


 でも、ようやく解った。

 モヤみたい物の中から、突然それが出てきた時、どうしてお外に出たいなんて言うとあんなに怒られるのか解っちゃった。


(私、食べられちゃうんだ……)


 怖い唸り声や危なそうな牙。


 それよりもっともっと怖くて震えちゃう魔力を感じたら、不思議とこれが私を食べるものなんだって解っちゃった。


「や、やだ。来ないで……」


 これが魔獣とかいうものなんだと思うよりも先に、身体が逃げ出そうとする。


「ガァッ!」


 けど、そんなお願いなんて聞いてくれないみたい。


 私の方に飛び掛かってきて――


「きゃあ!」

(食べるなら痛くしないで!)


 思わず目を瞑る。


 すると、大きな音が響いた。


 お腹にずしんと響く本当に大きな音だったけど。


(痛く、ない?)


 私のお願いを聞いてくれたのかな?


 そう思って私が目を開けると――


「ったく。子どもが結界の外うろついてるなんて、村じゃあ考えられんぞ」


 男の人が立っていた。

 大人の人って言うほどじゃない、お兄さんみたいな感じの男の人。


「あー、くそ。獰猛猪は肉も毛皮もかさ張るし、魔核以外置いてくしかねえな……」


 いつの間にか引っ繰り返ってた怖いのを見下ろしていたかと思うと。

 お兄さんは、動かなくなったそれに手を突っ込んで何かを取っていた。


「あ、あの……」

「と、スマン。怪我とかないか?」


 私がお礼を言うよりも早く、お兄さんはしゃがみ込んで私と目を合わせてくれる。


「だ、大丈夫……」


「そいつは何よりだ」


 そう言うなり、お兄さんは私に手を伸ばしてきて――


「ちょっと失礼するぞ」


 軽々と私を抱え上げてしまった。


「あ、あの……」


 私はどこに連れて行かれちゃうんだろう。


 お父さん達の言いつけを守らない悪い子だし、悪龍の巣に捨てられちゃうのかな?


「瘴気は感じないし暫くは大丈夫だろうが、どうせ魔獣なんてすぐ湧くからな。悪いが急いで街まで送らせてもらうぞ」


 要らない心配だったみたい。


 お兄さんは私に軽く笑い掛けて、家まで送ってくれると言ってきた。


「ちょっとだけ大人しくしてろよ」


 私をしっかり抱きかかえると、お兄さんが物凄い速さで走り出す。


「すごい!」


 すると、景色がどんどん流れていって。

 あっという間に街の門に着いちゃいました。


「スマン。街の外に居た子なんだが、これから急ぎの用があってな。保護とか任せていいか?」


 私を下ろすなり、お兄さんは見張りの人へ私を預けて。

 再び走り出そうとしてます。


「あ、あの!」


 お礼を言わないといけない。

 そう思った筈なのに。


「お名前を教えてください!」


 どうしてなのか。


 私の口からは、そんな言葉が出ていました。


「ジンク。ジンク・ガンホック」


 するとお兄さんは不思議な顔で笑ったかと思うと――


 まるでこれから悪戯するような男の子みたいな顔で言いました。


「オルビス魔術学園に挑む、名もない村出身の平民だ」

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