外に出られました
「・・・そうだったのか」
穂花の言葉は衝撃だった。
確かに、それらしい雰囲気はあった。
何階層もあったし、下に行けば行くほど強いモンスターが出てくるし、お金がドロップするし、出口もないし。
(でも待てよ。出口がないのに2人はどうやってここに入って来たんだ?)
「ちなみに、2人はどうやってここに来たの? 入り口はないよね?」
「あぁ、それはな、ダンジョンに出入りするための専用の魔法があるんだよ。って魔法があるのは知ってるよな?」
俺の質問には暎斗が答えた。
俺は暎斗の言葉に頷く。
(なるほど、そんな魔法があったのか・・・ていうか、もし他に人が来なくて、俺もここがダンジョンだって気づかなかったら、一生ここで生きていくことになってたじゃん)
そのことに気づくと、途端にあの神を殺したくなってきた。
「ねぇ、3年間ずっとここのダンジョンの中にいたんだよね?」
俺が神に内心で憤怒の炎を燃やしていると、穂花が確認するように尋ねてきた。
「そうだね」
「どこまで行ったの?」
「何階層かってこと? それなら全階層制覇したよ」
「「・・・」」
俺が答えると今度は、死人でも見たかのような顔で驚かれた。
「えっ? なんで驚いてるの?」
「はぁ……ハルくん、ダンジョンってクリアできないようになってるんだよ?」
穂花は驚きを通り越して呆れたように、ため息を吐きながらそう口にした。
「クリアできない?」
俺はその意味を理解しかねていた。
それを察した暎斗が説明してくれる。
「そうだぜ、ダンジョンの奥には攻撃が効かないモンスターがいるんだ。いなかったか?」
俺は、それを聞いて納得した。
(あー、絶対無敵スキルのことか・・・あれは地球魔法が使えない人にはどうしようもないわな)
「なんか、やけにかたい敵がいたな・・・」
「倒したのか!?」
「魔法でなんとかね」
まあ、地球魔法だが、この2人にも魔法のことは言ってない。
昔、ある出来事で知られてしまったことがあるが、記憶をいじって忘れてもらった。
それによって、色々3人の関係がこじれてしまったのだが、この話は後にしよう。
「・・・ハルくんは私たちより強いかもね」
「そうだね。たぶん瞬殺できるよ」
「私たちの強さがわかるの?」
「まあ、なんとなくね。というか、2人はこの世界に来てから何してたんだ?」
俺は2人が異世界に来てからどうしていたのか気になって聞いてみた。
「いろいろありすぎて、長くなるけど―――」
そう言って穂花と暎斗は思い出すように確認し合いながら、今までのことを教えてくれた。
その話をまとめると、
2人はあの事故の直後、この世界に転移して、異世界の神を名乗る男に世界について説明されたらしい。
その時に最低限の言語や知識を魔法で覚えさせられた
と言っていた。
そして、多少のお金と物資を渡されて解放されたんだとか。
それは解放という名の放棄だったと、暎斗が苛立たしげに零していた。
解放された後は、2人は与えられた知識をもとに冒険者になって、生活費を稼いだみたいだ。
2人には冒険者の才能があったらしく、すぐに暎斗は剣、穂花は魔法と、それぞれの能力をメキメキ伸ばして実力をつけ、自分達は結構有名な冒険者になったと自慢していた。
F~Sランクまであって、2人はAランクだと言っていたから、かなり上位の実力なのだろう。
冒険者の仕事は主に、街周辺に現れる魔物の討伐と力仕事、そしてダンジョンの探索で、2人は依頼を受けてここの調査にきたのだそう。
それで、俺と出会ったという流れだった。
ちなみに、転移させられた日以降、異世界の神を名乗る男は一度も2人の前に姿を見せていないらしい。
図らずもこれで、俺をここに送った神の言葉の裏が取れた。
「これくらいだけど、聞きたいこととかある?」
穂花が話し終えて、そう尋ねてきた。
俺は「ないよ」と首を振って答えた。
ともかく、2人のことは分かった。
今度は俺がここに転生した理由を話すべきだろう。
「じゃあ、今度は俺がここに転生したわけについて話すよ。実は俺もあのバスの事故の時、バスにいたんだ」
「えっ? そうなの!?」
穂花は驚きの声をあげた。暎斗も声は出さなかったが、表情に驚愕の感情が見て取れた。
俺だって、あのバスに2人が乗っていたというのは、ニュースで見るまで知らなかったのだし、2人が驚くのも当然といえば当然だ。
そして、事故で生き延びたことや、地球の神みたいな男に会ったこと、姉さんを追ってここに来たことなどを地球の魔法のことをぼかして伝えた。
ここに来たから身の危険を案ずる必要はないのだが、いろいろ事情があって、魔法のことをいま教えるわけにはいかない。
話し終えると2人とも難しい顔をして、俯いた。
「そうか、そんなことが・・・それにしても春輝もあの事故の被害者だったとは驚いたぜ。でも、そういう事なら俺たちも、春輝のお姉さんを探すの協力するぞ、な? 穂花?」
少し暗い空気を破るように暎斗がそう提案してくれる。
「え? うん、もちろん、協力するけど・・・そっか、ここには、私たちじゃなくてお姉さんを追いかけてきたんだ・・・ふーん」
話を振られた穂花は少しびっくりした後、そう答えた。
俺の話を聞いてから、穂花の機嫌が少し悪い。
協力してくれるとは言ってくれているが、どこか不満げだ。
何に怒っているのかわからないが、姉さんだけを探してたわけじゃないことは伝えよう。
「姉さんを探してはいるけど、俺は2人もこの世界にいるって知っていたから、探そうと思ってたんだよ。早々に見つかってよかったと思ってるよ」
これは紛れもない本音だ。俺はこの2人を自分以上に大切に思っている節がある。
2人が死んでしまって、自殺しようと考えるくらいには、俺の中で大きな存在だったのだ。
「ハルくん・・・」
真剣さが伝わったのか、俺の言葉を聞いて、穂花が少し嬉しそうに、だけど少し照れ臭そうにはにかんだ。
「・・・それより、ここから出てみたいな」
また穂花の機嫌を損なわないように、話題を変える。
「おお、そうだな。春輝はまだ外に出たことないんだったな」
「楽しみ? 結構、私はいい世界だと思うよ。ハルくんも気に入ってくれると思う」
「それは、楽しみだね。あっ、それとこっちでは俺のことラウトって呼んでくれる? 転生して名前が変わったんだよ」
俺の言葉に2人は頷く。
そして2人は両手を広げて笑った。
「「ラウト、ようこそ異世界へ!!!
『ワープ』」」
すると俺たちは光に包まれて、少し浮遊感があった後、また地面に足がついた。
「ハル・・・じゃなくて、ラウト見てごらん。これが外の世界だよ」
穂花がそう言って指をさす。
「おおー! 外だ!! やっぱり気持ちいいね」
景色は似ているが、明らかに違う。
風がある。
身体を撫でるように風が吹いている。
生気が溢れている。
鳥のさえずりや、木々の葉が揺れる音、川のせせらぎ。
五感全てがこれぞ本物だと訴えている。
ようやく――3年かけてようやく俺はスタート地点に立った気がした。
いろいろあったが、それも含めてここにいられることが幸せだと感じる。
「「ラウト」」
俺が外の世界に感動していると、2人から声をかけられた。
そちらを見ると、と2人が手を差し伸べていた。
「また3人でいられるね」
「ラウトの姉さん、一緒に見つけようぜ」
俺は2人の手を取って、精一杯の気持ちを込めて答えた。
「ありがとう!!!」
――こうして3人の旅が始まった
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