祭りの前の……祭り?
「ふむ、荒療治の甲斐もなく余り伸びず、ギリギリ及第点というところであるか」
「ええ、ちょっと残念ねぇ」
二人の感想通り、残念な風呂オラさんの魔法は、子供レベルであった。今も子供といえば子供だが。
「ぐぬぬ……」
それでも他の属性の魔法を、光魔法が露見する恐れもなく、全力で取り組めるのは大きいだろう。
本来のルートであれば、主人公が持て余した光魔法を、クラインが何とか封じ込め、以後後見人のような立ち位置で見守り続ける、というものだった。更にイベントの数や喧嘩の数が恋愛ルートへと入るフラグとなっていたりするわけだが……、まぁそれは良いだろう。
「フローレンシア」
「……はい」
「今は秘匿するで良いとしても、卒業する頃には光魔法のことは届け出るように」
「……分かりました」
「よろしい。ではメアラ嬢、私はこれで失礼するのである」
「居残りはもう良いのかしら?」
「魔法は何とか使えるようにはなった。あとはフローレンシアの頑張り次第であろう? 私の関与する所ではない」
「あ、そ。じゃあね、クライン様」
「うむ」
やることは済んだとばかりにさっさとお姉様の部屋を辞するクライン先生。ゲームとは違って大分ドライのようだ。
(慮ってくれてるとも言えるんじゃないの?)
そうかもな。
「さぁって、フローラ、ちゃん?」
「ひぁいっ!?」
「聞いてないわよ?」
「言ってませんもの! ……隠しておきたいと言うか、目立ちたくなかったんですよ」
「暴力事件で目立っておいてそういうこと言う?」
「ううう、そろそろ許してくださいませんか……」
「だぁめ」
そういうメアラ女史は、いつもなら少々獰猛な、それでいて悪戯っぽい表情をしていたのだが、今日のそれはいつもと違い真剣な眼差しだった。
「メアラ先生……?」
「ね、答えて? 何で目立ちたくないの? 何で秘匿したの?」
「……未来に悪いことが待ってる、そういう夢を見たと言ったら先生は信じますか?」
「信じないわね。……貴女じゃなければ」
メアラ女史はふざけることなく、真摯な眼をフローラに向けてくる。
「バミーのことは置いといても……ええ、置いとくだけで、忘れも許しもしないけどね! ええ!」
「ヒィ!?」
「……それでも貴女は私の教え子であることに変わりはないのよ。少し位頼りなさいな」
「先生……ありがとうございます」
「今日はもう帰りなさい。色々あって疲れたでしょ」
「はい……失礼します」
こうしてフローラは、今日はいびられることもなく寮へと戻れたのだった。
(今日日いびるとか聞かねえよ)
今日日もな。
………
……
…
コンコン、ガチャ
「失礼するわよ?」
「どうぞ……とこちらが許可を出してから入るものではないのかな? メアラ嬢」
「嬢って年でもないのですけどねぇ? ……クライン卿」
「フローレンシアのことであるな?」
「どういうおつもりであるか聞かせて頂いても?」
「どうもこうも、今面倒というか厄介なことこの上ない案件があるのは知ってるのであるか?」
「面倒? ……あの眉唾的な噂、のことかしら?」
「噂……噂か。噂であればどれほど良かったか」
「え? 嘘、あれほんとなの??」
「『魔王復活』」
「……(ハァーー)」
メアラ女史は無言で大きくため息を吐く。その顔色は非常に悪い。
「そもそも光魔法等と言うものは、アレに対抗するために生み出される、ある種のシステムのようなものである。
少なくとも、あれ程の力の持ち主が現れた以上、復活は確実であろうな」
「じゃあ、モンスターが増えてるって噂も?」
「事実なのである」
「ああもう……最悪ね」
「幸いなことに、アレの復活に向け備えてきた今までの蓄えがある。先人達のお陰で、まだ帝国は優位ではあるがな」
「でも確か魔王って、その……」
「歴代の魔王達は行動的であったな。真っ先に自分の天敵を見定めて、確実に潰しに来る」
「あー……だからあの子のことも隠したかったのね?」
「うむ」
「じゃあ、あの子が目立ちたくないってのは渡りに船?」
「そういうことであるな。お前もアレの相談相手になってやってくれ。そのつもりであったのだろう?」
「貴方のそういう所苦手だわ」
「私はお前の懐の深い所はキライではないのである」
「はいはい。……ね、あの子未来を予知してるかも知れないわよ?」
「本人がそう言ったであるか?」
「ハッキリとは言ってないわね。夢で見た、としか」
「憂慮すべき問題かも知れぬな。情報提供感謝する」
「ね? 来週の古城訪問はキャンセルするの? 確か魔王とも縁の深い地よね?」
「いや、キャンセルは出来ないのである。アレもまた、備えとして有用であるが故に触れておく必要がある」
「そ。じゃあお姉様方に相談して万全を期しましょう」
その言葉を聞いたクラインは少し表情を歪めたものの、
「心、強い申し出であることよ、な」
何とか受け止めたのだった。
………
……
…
一方喪女さんは、
「メイリアー、今日もいびられたー」
「い、いび? ああ、フローラさんったら、もう。はいはい、大変でしたねー」
「あ、そうだベティ、貴女も余り魔法得意では無かったわよね? 一緒に練習しない?」
「うちは不得意なんじゃなくて、面倒だからやんないだけよ」
「まったまたー」
「いえ、本当ですよ? ベティってば凄い魔法使いなんですよ? 昔は魔法兵団にスカウトされてたとか」
「嘘っ!? すごい! ベティ!」
「うちはガチバトル派なんで、のーさんきゅー」
「勿体無い……」
「ほんとそうですわよね」
「ねえねえ、コーチしてくれない?」
「そのじかんが勿体無いわー」
「ひどっ」
「クスクス」
等と、仲間ときゃっきゃうふふしてたのである。大丈夫なのかお前さん?
(大丈夫、大丈夫。明日から頑張るわー)
と、頑張らないテンプレートでしたとさ。
………
……
…
「諸君、知っての通り4日後、エスペランサ交流会第一弾、ハルモニア古城の見学に行くことなっている。各自準備の方は整っているな?」
どこぞの軍曹様然とした態度で、オランジェ女史が生徒達を見渡す。
我らが主人公ですか?
(おっ城〜♪ おっ城〜♪ 交流会はともかく、お〜っ城〜♪ ふんふふーん♪)
超、浮かれきっております。ヨーロッパの古城……とはちょっと違うにしても、テンションアゲアゲなのです。
(なのです〜♪ ふふん〜♪)
「なお、今日行われるテストで結果のよろしくない者は、居残りを申し付ける」
(おし……な、ナンダッテー!?)
あーらら。
「由緒正しき史跡への見学に、最低限の学問も修められられぬ痴れ者は不要。心してかかるが良い!」
(いやあああああああ!!!)
ちなみにフローラのそのテストの成績は……語る必要も無いだろう。語るほどのこともない上に全滅だったしな。
現在先生方と軍曹ことオランジェ女史に囲まれてる、の図。ちなみに全員フローラの光魔法のことは伝わっている。
「あのークライン先生? その……私の事情をご存知であるのですから? 手心加えて頂くわけには……」
「ふむ、まず初めに、お前は誰が見ても魔法の拙い生徒であるな」
「うぐっ……」
「そのような生徒を、私に贔屓したと思わせろ、ということであるわけか?」
「すみません、良く考えもせず失言でした」
「分かれば良いのである」
「で、ですね。メアラ先生? 今回は及第点には届いている、と思うのですが……?」
「他の生徒の及第点は、10回やれば8回以上行けると確信しておりますのよ。対して貴女はどうかしら? 4回? それとも3回? いいえ、もう一度できたならば良い方、よね?」
「返す言葉もございません……。居残り頑張らせて頂きます」
「素直ですわね、よろしいことよ?」
「………………」
「おや? 私には聞いてくれないのですか?」
「ジュール先生……不出来な生徒でごめんなさい」
「……おお、素直に反省する姿。心につまされるものがございますね。私は手加減はして差し上げますのでがんばりましょう?」
「ありがとうございます……!」
(おお? やった……か!?)
「甘やかすな、ジュール」
「そうですわよ、この子のためになりませんわ」
「私も同意見だな。と言うか、座学こそが最も酷かったではないか」
小狡い芝居なんてするから……オランジェ女史まで敵に回っては逃げようがないですね喪女様。
(はぁう! ……うっさいやい)
この後の居残りは熾烈を極めたとかなんだとか。
座学→眠気を催す→軍曹の一喝!
魔法→疲労で倒れ→軍曹の活入れ!
教養→姿勢を崩す→軍曹の怒号!
ビバ! えんどれーす。
(いやああぁァァ………………)
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