異世界転移でも小説家になろう! ~変身魔法が俺の主人公に変えてしまう~

夕日ゆうや

第1話 小説家だった。

 俺は小説家だ。

 小説を書いていると、気分が晴れる。

 気持ちが落ち着くのだ。

「うーん。やっと書き終えた……」

 今まで作品にしてきた数は三十を超える。今書き終えたのが『異世界転生、やっぱりなろう系が最強!』だ。

 異世界転移・転生。俺TUEEE、ハーレム、チートが詰まったライトノベルだ。その前はラブコメ。その前はVRMMORPGゲーム。様々なものを書いてきたが、次作のダークファンタジーに熱をいれている。

 とはいえ、今晩は書き終えたばかり。

 少し外の空気でも吸うか、と思いジャージから洋服へと着替える。

 外に出てみるといろんな変化がある。吐く息が白い。冬だ。一面の銀世界。寒さの中、俺は街の中を散策してみる。雪がちらつく中、ギュギュッと新雪を踏みしめる音が耳朶を打つ。

 近くにコンビニができていたり、マンションの一階がピアノ教室から塾教室に変わっていたり、と。

 変わった風景を一望すると、コンビニで甘い物でも買っていこうか。そう思った矢先、雪にとらわれているトラックを見かける。滑って空回りしているようだ。

「手伝いましょうか?」

 俺は久々に発した言葉にかさつきを感じる。

「おう。手伝ってくれるのか。ありがてー」

 窓から顔を見せるのは四十代の運転手。タバコを無造作に灰皿に捨てると、フロアマットをとりだす。

「こいつを噛ませてくれ」

「分かりました」

 俺はフロアマットを受け取ると、空回りしているタイヤの下敷きにして、回転をうながす。

 ゆっくりと回転したタイヤを見つめていると、やがてもとの道に戻るのだった。

「おう。あんちゃんのお陰で助かったわ」

「いえいえ、困った時はお互い様ですから」

「そうかい。これは手伝ってくれたお礼だ。受け取りな」

 俺の手元にはミカンが残った。それをポケットにいれ、コンビニに向かう。

 コンビニで塩おにぎりと、桃の天然水、ミルクチョコレートを買う。

「甘いものは頭にきくね」

 俺はそう言いながら自宅へと戻る。

 草原の中を行く。

 鳥のさえずりが、セミの鳴き声が聞こえる。

「ん?」

 周囲を見わたすと草海原が延々と続いている。視界の端に動くものをとらえる。

「これは……」

 先ほどまで見ていた景色とは違う。コンクリートジャングルがいきなり草原に変わっていたのだ。

「まさか……」

 周囲に首を巡らせると、一呼吸おく。

「異世界転移って奴か……?」

 マジか。ここが異世界である証明はできないが、日当たりのある草原に転移していたのだ。気が狂ったかと思うが、それを証明できる術を持たない。

「どうしたものか……」

 俺はどうしたらいい? この世界で何をやればいいんだ?

「帰りたいな……」

 あのゲーミングチェアが愛おしい。立っているのにも疲れた。

 しかし、さっきまで白い雪景色の中にいたのに、急に草花に囲まれた世界なんだもんな。やはり狂ったのか?


「そこの者、何をしている?」

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