β

 好きなひとに逢える。それだけで、幸せだった。

 その人は、ここではないどこか、別の位相にいる。現実でも、夢でもない、どこか別の世界。眠っている間の、意識がここにない状態でしか出逢えない相手。

 それでも。たとえ、夢の中だけだとしても。逢えるのは、素晴らしくて、心躍る出来事だった。別な世界のあなたに。逢える。

 普通の恋愛と普通の恋人なら、起きている間一緒にいるだろうけど。仕事やら睡眠やらで、結局そこまでたくさん時間を共にするわけではない。

 でも、彼は。眠っている間の10時間を、まるごと彼と一緒に使える。24時間のうち、半分ぐらいを。彼と一緒にいられる。それだけで幸せ。

 もともとショートスリーパーで一日に5時間も寝られればいいほうだったけど、彼と出逢ってから、寝る時間を倍に増やした。彼との日々は、わたしにとって、すべて。

 だから、別れ際にそんな切ない顔をしないでよ。また明日、逢えるから。待っててね。今日も一日、がんばってね。応援してるから。

 そう伝えて。


「さあ」


 そろそろ起きなくっちゃ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る