第82話 夢を見させてやるよ

 エリク王子の顔面に、両足でドロップキックを決める!


 ごきりとゆがむ感触が足で感じる。骨折魔法を使わなくても、鼻が折れたなこりゃ。


「ぐふっ。……ハハハ、うじ虫勇者! とうとう、ここまで来たな……こ、この僕には、今ベフニリウスがついているんだよ。貴様の喉を一度、掻き切った四天王だ!」


「ああ、そいつ。俺の方がいいってさ」


 俺のすぐ後ろからの「オ邪魔シマス」。同じく窓から入って、エリク王子に紳士的に歩み寄っていく。


「こ、こいつは僕の手下だ! 契約を忘れたのか!」


「契約……確カニシタナ」


 ベフニリウスが首を傾げている。悩むのか。ったくどっちの味方だ。


「そうだ! 僕の魂を売ってるんだよ! そんな大事なことも分からないのか!」


「エリク。見苦しいって。しかも、魂売っちゃったの? もったいないな。人間の魂の価値と、こいつらの考える魂の価値は違うぞ。それこそ、人間の魂なんて虫以下」


「……ムシ」


 ベフニリウスは王子の首に手をかける。




「馬鹿! やめろ! 僕はこの国の王子だぞ! 王子様なんだぞ! この国から僕がいなくなったら、それこそ終わりだ!」


「ははははは! 終わりって自分で認めてるのか王子様? 終わらせるのが楽しみだな! 待て待て、ベフニリウス。切断は俺の仕事。だから、こっちこい」


 ベフニリウスは俺の傍に瞬時に移動する。そして、エリク王子の姿になる。


「かわいそうにな。こいつ、宿主のお前のせいで本来の力の半分も発揮できてない。お前が弱いからだぞ? 本当は三メートルの巨漢なのに。お前が傍にいると、この姿だ」


「うじ虫がさっきからべらべらと! やれ、戦闘魔術師!」


 窓から戦闘魔術師も入ってきた。炎上魔法が飛んでくる。もう宮殿、燃やしちゃっていいの? 


 命令もしていないのに、ベフニリウスは戦闘魔術師の炎を爪で切り裂いた。ついでに、戦闘魔術師の首も順に斬り落としていく。


 王子の寝室、生首だらけになったな。こんな部屋で寝るのは、ごめんだろう?


 ベフニリウス、エリク王子の姿でも、少しは使えるな。


 王子に近づきすぎると本来の力を発揮できないって、こいつも契約する相手を間違ったよな。




「王子様? では、ベフニリウスの正しい使い方をお教え致しましょうか?」


「使ウ?」


「あ、ごめん、許して。冗談だっつの。これ終わったらお前、自由行動してくれていいから」そう言って、ベフニリウスに手を差し出す。


「竹の鞭を」


「タケ? タケッテ、コレノコトナノカ?」


 ベフニリウスの特技は、物理攻撃無効だけではない。ベフニリウスは俺の記憶を読み取って、エリク王子の愛用の鞭を生成する。


 こいつは、様々な武器に変形できるし、一時的に生み出すこともできる。




「そ、それは」


 ほら、このざらついた質感。これで叩かれたら、皮膚にささくれが刺さったまま残るぞ。


「見覚えがあるよな。俺の為だけに取り寄せたって言ってたっけ? あの竹の鞭そっくりそのままだろう? 本物は例の地下牢、拷問部屋だ。これはレプリカ。感じる痛みがどれぐらい本物に近いか楽しみだよな?」


 俺が一歩前に踏み出した瞬間、王子は腰を砕いてカーペットにへたり込む。何だ? これからはじまるんだぞ? 後ずさりか?


「ベフニリウス! 何故キーレなんかについた! そのうじ虫は魂を売ってないだろう!」




 俺はかわいそうなエリク王子をあやしてやる。


「はいはい王子様、泣かないでくだちゃいねぇ。俺は処刑に魂を売ってるんだ。ほら、喉から手が出るほど、お前の悲鳴が欲しい。そして、俺に泣きつけ。俺は優しい勇者様だから、許してやれるかもしれない」


「ひ、マ、マルセルゥゥゥ! まだか、雷は!」


 室内だというのに、風が吹き荒れた。廊下から雷が飛んでくる。お、マルセルのおでましかな? 


 あの、廊下。俺が捕まった懐かしい廊下じゃないか。あそこでマルセルを捕まえよう! 


 ちょっと早めに王子、処刑サクっときますか。

「骨折魔法」


 両手でつかんで、両足首を粉砕しておく。


「ぬぎゃああああああああああああああああああああ!」


「これで、逃げられない。終わりだなぁエリク」


 俺は、身をかがめて雷のわきを通り過ぎる。


「俺に雷を使うのはやめとけって。痺れて恋焦がれたらどうするんだ?」


 竹の鞭で、その貴婦人を打つのは気が引けたので、その美しい生足に骨折魔法をまとわせて蹴る。


 ボキボキボキィ!


「いびいぎゃああああああああああああああああああ」


 あれ、マルセルちょっと大人になってないか? 美しさがマシマシだな。


 そして、そのなまめかしい足。血だらけで骨も飛び出ちゃったけど、裸足ですか。


「俺が進軍してる間も、王子といちゃいちゃしてたの? なあ? どうなんだ? してたのか?」


「キ、キーレ。ふぅ……ふぅ。よ、よくも! あたしの新しい身体に!」


 座り込んだマルセル。こうして並ぶとお姉様になったなぁ。面影も残っていて、更に愛おしくなったな。


 愛嬌はなくなったけど。


 俺をどこまでも愛さないってそう書いてある、結ばれた唇とかこじ開けて、舌を忍ばせたくなるよな。


 ほんと、こいつって煽り上手で罪な奴だな。




「そうそう、大事なことを忘れてたな。メラニーの身体で痛めつけたから、褒めてやるのを忘れてた。おめでとう、とうとう本当に生き返ったんだな! ああ、マルセル!」


 俺がその両手を取ろうとすると、マルセルはきりっと睨んで手を上げた。その手にはあの呪われた指輪がはめられている。


 ほうほう、また俺に呪いでもかけますか? 俺は一度覚えた味は忘れないぞ。地面にひれ伏すのはお前だ。


 俺は意地悪く笑って、こいつにとっては最後の質問をする。


「俺との婚約を考えてくれたのか、お姫様? 血で血を洗う夫婦生活を堪能させてやれる。俺が味わわせてやろうかぁ」


「うるっさい! うじ虫! 死ねええええええええええ!」


 その指、白くて美しいな。斬り落とさせてもらう。とても小さな薬指が、指輪といっしょに床を転がる。


「っはぐあああああ! あだぢのゆびいいいい!」


 マルセルが叫び終わるまでに、そのみぞおちに拳をぶち込む。


「っはぐ」


 いい眠りだなぁ。血の味がするだろう? ちょっと本気で殴ったからな。


 俺は怒りに任せて殴るつもりはなかったんだけどな。お前の、その素足を見てると、どうしてもな。


 俺たちが戦ってる間、お前は王子といい夢見てたんだろ? で、俺が来たから慌てたか?


 俺も夢を見させてやるよ。お前に見せてやるのは、悪夢しかないけどなぁ。




 っくく、くはははははははは!



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