第54話 神への冒涜
「罠?」
ラグンヒルは、真っ先に宝石箱を開けて双子と自分の心臓が、三つそろっていることを確認するだろう。実際そうした。だが、何も気づかずに再び宝石箱を閉じた。
「奴を捕らえよ」
マルク参謀様の命令により、グールが俺にタックルをかける形で束縛魔法をかけてくる。別に捕まってもどうってことないので好きにさせておいた。お楽しみはここからだからな。
「っふ。随分あっけなかったな。元勇者よ。貴様はこれから首をはねられることになる。裁判などなしでな」
たとえ裁判があったとしても俺は有罪だし、逃げ切る自信もあるから。
「まだ気づかないか」
俺は切断魔法で、束縛魔法を早速振りほどく。ラグンヒルに本物の心臓を見せびらかす。
その、怒りの籠る眼差しと同様して震える唇。母親も情熱的で美しいな。
その顔を今から苦痛で
「お次は、双子たちで」
どっちがどっちの心臓だったかな。まあ、どっちもいっしょなので仲良く握りつぶす。
「ぶうわあああああああああ」
「ぎぃあああああああああああああ」
どっちもいい悲鳴だな。
「貴様、心臓をすり替えたのか!」
「マルク参謀様には関係がない話なのでは?」と、俺は上目遣いにマントで身を包んでお辞儀する。
「それでは、今宵はこれで」
「待て、ではあの宝石箱の中身の心臓は誰の心臓だ」
「それは、こいつら食人グールどもがよく知ってるだろ。俺はこいつらが殺した人間の心臓を借りただけだ」
「貴様には死者を敬う気持ちがないのか!」
俺は呆れて手を投げ出すようにして振った。
「俺の町娘とかにも手を出してくれてるんだもんな。人殺しはどっちだ? ま、今日はこれから心臓でもてあそぶことにしてやるから。眠れない夜にしてやるよ」
「待て!」
俺を追ってきても全然駄目だなこいつら。元勇者討伐隊参謀とは、名ばかり。俺が本気で殺しに来てたら誰一人として太刀打ちできてないぞ。
屋敷から離れた距離の教会に来ると、屋敷がよく見渡せる
さあ、神への冒涜のはじまりだ。
三つの心臓を強く握りつぶす。ここからでも聞こえる、ラグンヒル婦人と娘の双子の悲鳴。
とてもいい味。他人の不幸の味だ。蜜の味だ!
「さぁ、俺のためだけにもっと泣き叫べ!」
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