第34話 マルセル再会
「マルセル!」
どこにいる? 早くその小さくて美しく姿を見せてくれよ。全く見えないぞ。こんな狭くて薄暗くて松明だけの地下牢の通路じゃ。
「こっち」
「はーい!」と、返事をしてみたもののどこにいるのか分からないぞ、マルセル。かくれんぼでもはじめるのか?
「生きていてくれるのって嬉しいな。ほんと」
心の底から言える。これが罠だろうが何だろうが、マルセルが生きているならば、もう一度俺の願いを叶えられる。
マルセルは一度殺したぐらいじゃ物足りないんだ。何度でも
俺を捨ててエリク王子を愛したことを後悔するその日まで、俺はお前を殺して愛す。
「ふふっ。オペラ座のときもそうだったけど、気配を消すのが本当に下手なんだから」
地下牢通路の柱の陰に、足をそろえて小さなフランス人形が躍り出た。
ここ、フランスじゃないけど。でも、たぶん一番フランス人形に近いな。
でも、それが緑の瞳をしていたので俺にはすぐにマルセルだと分かった。
飛びつきそうになるぐらい嬉しかった。でも、そうしなかったのは、マルセルがよからぬことを企んでいるのが丸見えだから。
まあ、罠に飛び込むのも楽しくて好きだけどさ。
「また、小さくなったな。その姿もかわいいなぁ。その姿じゃ、エリク王子も寝取るのに苦労しそうだな。王子の温もりはその肌で感じられるのか?」
「やだ、キーレったら。嫉妬心丸出しじゃない」
彼女の人形の瞳はガラスでできている。だから瞳孔が開いたり閉じたりしないのだが、感情の
もっと、俺をよく見てくれよと俺は手を広げて見せる。
「ああ、嫉妬や妬みなんて丸出しさ。みっとっもないか? 違うな。俺はお前を
「性の間違いじゃないの?」
マルセルも俺のせいで下品になったな。
「ま、あんたには、この人形になったあたしの苦しみなんて分からないわね。そう、あたし、この姿じゃ、何も感じないわ。温もりも、空腹になっても何も食べられないしね」
お、マルセルが随分素直になったなと思った。自由を制限されると人間、優しくなるものなのかもな。
「でも、一つ強く感じるのよ。あたしの肉体をあんな風に殺したあんただけは、全身の肉をそぎ取って、あたしが口にしてやるって!」
「俺を食べるって、まあ斬新な発想。これは拍手ものだな」
俺だって
ところが、マルセルは小さな手に握っていた小瓶を投げつけてきた。
これは解毒剤? 随分あっさり渡すんだな。
「飲みなさい」
「いいのか? 俺、毒が消えたらお前のこと忘れちまうかもな」
「ふふ。忘れられないくせによく言うわね。でも、早く飲むことをおすすめするわ。だって、今からあんたには毒以上に長く辛い作業をしてもらうんだから」
「え、何その強制労働みたいなの」
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