第32話 愛
「……痛い。……苦しい」
うなされたように声を出して
ずっと腹からどす黒い血が止まらないまま、だらだらと流れている。
マルセルの毒で泣いているのではない。マルセルに会えたみたいで嬉しくて泣いていた。
この苦しみはマルセルが俺を抱きしめてくれているからに違いない。毒という形で俺はマルセルと再会したんだ!
これは、これは――。
「本物の愛だ!」
リディ、睨むなって。
「はいはい、おおげさにやりました。今から一つ、道端でゲロを吐いてきます」
一通り胃の中のものとか、血反吐を吐き終わって、俺はまた道端で伸びた。服をはだけて傷口を見てみると、やはり早期治療が必要ですね。でも、これは愛だからしっかり受け止めないとな。
「リディ、回復魔法そろそろかな」
寝転んでいると隣にマルセルがいる気がする。マルセル。お前が毒なんか使うような女だったなんてな。
お前も何か考えが変わったのか? というより、生きているのか? なぁマルセル。
俺の知っているあいつは、本当は無邪気なじゃじゃ馬娘。戦闘に突っ走っていく俺に、負けじと隣に飛び出てきた。背中を預けてかばいあって戦ったこともあったっけ。
でも、全部、今は幻なんだよな。
リディはまた、本日二度目の回復魔法の中級をかけてくれる。
癒されるけど、回復するとマルセルがいなくなる気がする。変な感じ。
「俺のこと変な奴だって思ってるんだろ」
俺はリディの指を小突いた。だって、俺は飢えているんだ。色々なものに。
「勇者なんか、本当はなりたくなかったってのにさ」
いや、嬉しかったよ。学校行っても目立たないモブの俺がさ。運動神経ないのに、こっちの世界のファントアじゃオリンピック選手並みに動けるしさ。
でも、俺の周りって基本友達が少ないのはこっちの世界でも変わらなかったんだよな。
だから、パーティーってのを組んで、魔王討伐するんだけど。
だって、嬉しかったんだ。みんなが俺のことを世界でただ一人の有名人「勇者様」と呼んでくれて。期待に応えたかったんだ。
誰かに応援されるのって、本当にはじめてだったんだ。運動会とかの見せかけの声援じゃない。親の声援でもない。形じゃなくて本物の声援だった。
俺、色んな人と仲良くしていたつもりでいたのに、こんなに嫌われてる。
それでも、頑張って魔王を倒した。褒美が処刑されて、マルセルを寝取られるってどうなの。
俺の腹筋にリディが口づけしてくれた。え、何今の? 恋? これが新たな恋の芽生え?
「リディ」
久しぶりに感じる俺の恥じらい精神。こんな気持ちにさせられるのは何だかしゃくなので、こっちから上体を起こして、リディに覆いかぶさる。
その頬を指でそっと
「結婚しよう」
リディはそっぽを向いて今のは、なかったことにするような顔でチョーカーの宝石に帰った。
「いいって、いいって。お前も俺を嫌ってくれてていいよ。無理すんなって」
次の処刑リストは竜騎士ヴァレリー。仲間で唯一の男。
でも、こいつを
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