第7話 交換条件

 王子の出してきた交換条件など、何の役にも立たないはずだった。




 王子を拷問して一晩、二晩と過ぎた。エリク王子の色白の背中の肉を裂くのも飽きてきた。だから腹でも殴っておく。まぶたも腫れ上がってもう目は見えていないはずの王子が、俺を賢明に見つめてくる。



「ぼ、僕の命を諦めてくれたら……はぁ……はぁ……ほかにも生贄を、差し出す」


「ばーか。俺が処刑サクりたいのはお前だっつーの」


 ほら、あの懐かしい竹の鞭。まだ、俺の皮膚が黒ずんでするめみたいになってくっついてるじゃん。


 あのとき何度も肉がえぐれたのが、ここに残ってる。殴った次はこれを使うってのに。




「い、いただろ仲間が」




「はーん、なるほど、俺の元パーティーか」




 寝取られたマルセル以外にも俺の仲間はあっという間に手のひらを返して去って行った。


 そりゃ、勇者の仲間というだけで処刑されてしまう。




 でも、奴らはみんな正体を隠してこそこそ逃げるということをしなかった。勇者の仲間という能力を誇示してみせ、各国の要人の護衛などに雇われたと聞く。


 いさぎよすぎるだろ。


「ひ、一人この国で雇った。ほ、ほかも呼ぼうと、思えば……」


 エリク王子は血反吐の混じった咳をする。自分の膝に無様にかかってるぞ。潔癖症でも自分で洗いに行けなくて大変だな。


「悪くないか」




 二晩の拷問、よく耐えた方じゃないか? 


 だって、吊るした時点で失禁してたし。拷問前に掃除しろって、きれいにしてくれって泣きつかれてびびったっつーの。




「でも、解放ってのは気に入らないな。お前がまるで俺より地位が高いみたいな物言いだし。なぁ、その言い方、治らないのかよ?」




 俺の指はメスだから、どこをどうなぞっても、血が出る。


 もう血の出る場所なんてないぐらいに王子の胸元は骨まで露出して真っ赤だ。首筋にそっと手を伸ばす。




「っぅう」


 まだやってないのに、やっぱり期待させてくれる声を出すよな。そういうところ、俺達って似てるのかもな。なぁエリク王子。


「最後にもう一度。聞かせてくれよ。喉の奥から叫ぶ悲鳴」




 ふっくらとした輪郭の頬。ああ、王子様と言うだけあってなかなかの顔立ち。


 すでにある頬の傷の上から深く指でなぞる。より深く刻む。




「があぁああああああああ!」




 なぁ、俺を見ろよ。俺の歪んだ笑顔をよく見とけよ。エリクの半目を無理やり左手でこじ開ける。


 出血した目。ああ、俺を睨めよ。憎めよ。




「そこまでだ勇者!」


 え、聞き覚えのある女の声。幾多の戦闘を経験した厳格な声。



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