【発売記念SS】痴話喧嘩①
僕と師匠は仲良しだ。
いや、仲が良いなんてレベルで治まらない。
なぜなら僕たちは恋人同士で婚約者。
つまりは愛し合っているのだから。
僕たちはいつだってラブラブで、どんな時も互いを思い合っている。
そこに他者が介在する余地はない。
僕にとって師匠が何より大切なように、師匠にとって僕は掛け替えのない存在になった。
と、僕は思えるようになった。
少し長くなってしまったが、伝えたかったのは僕たちが愛し合っているいうことで。
僕たちの仲は自他ともに認めている。
それはとても良いことだ。
だけど、互いに互いを思い合っているからこそ、行違うことだってある。
例えば今……。
「だーかーらー! 今日のデートはフレイが行きたい所に行けば良いんだよ!」
「それじゃ駄目だって言ってるじゃないですか! 僕は師匠に楽しんでほしいんです。師匠が行きたい場所を回ったほうが絶対にいい!」
「私だってフレイに楽しんでほしいんだよ! それにいっつも私が行きたい所を優先するから今日はそっちが決めて!」
「ならまず師匠の希望を言ってください」
「それを言ったら君の選択肢が一つになっちゃうだろ!」
とまぁ、普段とは別の意味で熱々だ。
僕たちは今、今までにないくらい互いの意見をぶつけ合っている。
普段ならどちらかが折れるのだけど、今回ばかりは一方通行で終わらない。
かれこれ三十分この状態だ。
いい加減出発しないと、大事な休日を無駄に消費してしまう。
とは言え今の雰囲気はよろしくない。
そしてついに、怒ってしまった師匠が言う。
「もーいいよ! 今日のデートはなし! こんな状態じゃ楽しめないから!」
「っ……そうですね。じゃあ今日はお互いに自由行動ということで」
「うんそうしよう! 偶には一人になりたい時もあるんだよ! じゃあ出かけてくるから!」
「わかりました。僕も一人で出かけてきます」
◇◇◇
一時間後。
僕は学園の図書館に足を運んだ。
暇になったので読書でもするため……ではもちろんない。
「はぁ……」
「落ち込むくらいなら喧嘩などしなければ良かったのではないか?」
「そんな簡単じゃないんだよ」
「ふむ、そうか。僕にはよくわからんな」
図書館の端っこの席に座り、エヴァンに相談した。
というより愚痴を聞いてもらっている。
「しかしなんとも微笑ましい喧嘩だな」
「どこがだよ」
「どちらも互いを思っての意見だったのだろう? ならばこれは痴話喧嘩というやつだ。飛び切り仲がいい者同士だけの特権だぞ」
「特権……か」
そう言われると、なんだか今の状況も悪くない気がしてきた。
「ただ一点、僕から君にアドバイスをしよう」
「ん? なんだ?」
「君は彼女のことを思って意見したようだね? 君のことだから本心だろう。だけど、それって本当に彼女のためになっているのかな?」
「それは……どういう意味だ?」
僕が問い返すと、エヴァンはやれやれと首を振る。
わからないのかと呆れているようだ。
「いいかいフレイ。彼女を楽しませたい。それは君の欲だろう?」
「――ああ」
そういうことか。
今の一言で理解した。
僕は師匠の幸せを願っているし、そのためにすべきことを考えている。
デートの時だってそうだった。
だけどそれは、僕の考えの押し付けでしかなかった。
師匠も言っていたじゃないか。
僕にも楽しんでほしいって。
その気持ちを疎かにして、僕は僕の考えを押し通そうと……。
「はぁ……くそ、最低だ」
「はっはっはっ! そこまで落ち込むことでもないさ! 純粋に、誰より想っているからこそ、深く這い込んでしまうのだろう」
「そうだな、うん。そうだと思う」
こいつは単純な癖して偶に悟ったようなことを言う。
まさか師匠のことでエヴァンに気付かされるなんてな。
「悪い。助かった」
「はーっはっ! 気にするな我が友よ! まぁここで頭を冷やすといい。君たちならすぐ仲直り出来るだろう」
「……だと良いなぁ」
師匠は今頃どうしてるかな?
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【あとがき】
ちょっとしたおまけエピソードですが楽しんで頂けたら幸いです!
今回が前後編の前編になります。
それから新作もご一緒にどうでしょう!
『学園一のイケメン王子様な女の子が、俺の前ではとにかくカワイイ』
https://kakuyomu.jp/works/16816927859959844445
『魔剣鍛冶師の魔術道』
https://kakuyomu.jp/works/16816927860342867342
ぜひぜひ読んでみてくださいねー
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