How do you measure a year?

燈 歩(alum)

How do you measure a year?

☆ 大晦日なのに! また!! フラれたんですけど!!!


★ 声がでかい。


☆ なんなの? 初詣の予定とか立ててたくせに、年内でケリつけるとか年末調整なの? 大晦日に清算してんじゃねーよ。遅っせーんだよ!


★ だから声でかいって。


☆ 今年だけで3人目だよ? 愛されたいだけなのに、どうしてこうなっちゃうわけ。


★ 今までの名言は?


☆ 「俺よりもいい男と幸せになってね」。だから! あたしが欲しいのは、あんたからの愛だったんじゃ!


★ 別れる時言いがちなセリフランキングかよ。そういや郵便局の男もいたよな。


☆ なんで職業覚えてるの?


★ 珍しくミズナからフッた男だからよく覚えてる。


☆ 今でも申し訳なく思ってるよ。「あなたとの未来は考えられない」って言っちゃったし。


★ 俺、それ言われたら立ち直れないな……。


☆ しょーがないじゃん。あたしは昨日よりも今日、明日を生きていたいの。


★ あとなんだっけ。


☆ 「君の人生に、俺は不要だと思う」。ようやく未来をこの手で掴んだと思ったのに。あたしじゃなくて、あの人の人生にあたしが不要だったのね……。


★ 他人に未来を委ねてたんじゃねぇの? まぁまぁ。このジンでも飲んで落ち着きなさいな。


☆ ちょっと待って。なんであたしのご褒美酒、勝手に開けてるの?


★ いやぁ、ね。美味しそうだったから。トマトをつまみに飲むのたまんないぜ。


☆ 半額の3000円を請求します。てか、つまみにトマトってどうなの。揚げ物の方がマリアージュだわ。


★ 太るよ。え、ちょ、待って、これそんなにするの?


☆ そうだよ。ワンランク上の季の美ですから。なのにあたしより先に開けやがって。


★ どうりでお高い味がするわけだ。


☆ あんたがよく買う安いビールとは違うのよ。失恋で痛手を負って、ミズキにご褒美酒まで勝手に開けられて、もうほんと2020年いいことない……。早く夜明けがきてほしい……。


★ 俺は今年はコロナで仕事が大変だったわ。マスクは切れるし。


☆ マスクなんて必要なかったでしょ。在宅でゆっくりしてたじゃん。


★ その分、給料減った。


☆ そうだった。


★ 死活問題だよ。


☆ あたしが住んでてよかったね!


★ ミズナは早く住む家見つけろよ。いい加減、出てってくれ。


☆ 家賃半分と食費出してるじゃん。こんなご時世だもの、姉弟っていうものはこういう時に助け合わないと。


★ やかましいわ。前の男と別れて住む家なくなっただけじゃねぇか。


☆ 急だったんだもん、しょーがないでしょ。あの人があたしの希望だったのに。


★ 来年はひとりぐらししてください。


☆ 転職、上手くいかないのよ。


★ それな。でも、譲れねえ。それに俺、煙草嫌いだし。禁煙しろよ。


☆ 魔法が使えれば大好きなジャンプの中の世界へ入り込んで、遊んで暮らすのに。こんな世の中を恨むわ。


★ いい年してジャンプは卒業しろよ。俺の話、聞いてた? 俺は俺で大変なんだよ。


☆ 女に貢ぐの辞めれば、あんたはお金貯まるでしょ。


★ 貢いでねぇよ。好きな気持ちをプレゼントにして贈ってるだけだわ。


☆ 重っ。


★ なのに、なんで俺、フラれたの?


☆ あ、ミズキもフラれたの? 爆笑なんですけど。


★ ちゃんと「愛してる」も「好きだよ」も伝えてたのに。


☆ 時と場合というものがあってだね。


★ 好きだって言ってたブランドものとか、サプライズもめっちゃ気合い入れて色々仕掛けたのに。


☆ 重たいのよ。あと、自分に酔ってるからキモチワルがられんのよ。彼女に合わせるだけなんてつまんない男だね。


★ それ言うならミズナだっておんなじだろ。新しい男になるたび「この人が運命の人かも!」とか。一体お前いくつだよ。


☆ 29歳でーす☆


★ クソババァじゃねぇか。


☆ それならミズキもクソジジィじゃん。そのくらい、ちゃんと好きになりたいんだよ、こっちは! 好きにさせといて責任持たないとか、ホントなんなの? ちゃんとタマついてんの?


★ 多分、そういうとこだろ。


☆ あたしは性格悪くない。


★ 失恋に仕事にコロナにって大変だったのに、ミズナまでうちに転がり込んできて、めちゃくちゃな1年だったわ。


☆ あたしがいて助かったでしょ。お弁当も作ってあげたし。でも、本当にね。何年かかけて体験すべきことを、ぎゅーっと凝縮したみたいな濃い1年だったわ。


★ 男に作る料理の練習をしたかっただけだろ。ミズナはまだいいじゃん。仕事は給料変わらないし、恋愛だって数ヶ月で別れただけだろ? 俺なんか給料下がって、7年も付き合ってた彼女にフラれたんだぜ?


☆ まだ蒸し返すか。7年も付き合ってたのに、結婚まで持っていけなかったミズキの落ち度よ。それにあたしだって、数ヶ月っていう短い期間で、史上最高に幸せな瞬間と史上最低のどん底の瞬間を味わったのよ? わかる? この気持ち。


★ でも、すぐできてたじゃん。次が。


☆ どれだけ傷つけても傷ついても、誰かと関わらないで生きていくことは無理でしょ。ギアは一つじゃ回らないように、人間も一人じゃ存在できないのよ。何も恋愛じゃなくたって、他人がいないと自分の存在証明ができない欠陥品だもの、人間なんて。その中で、たまたま、なりゆきで、そうなったりするじゃん。


★ その切り替えの早さが信じられねぇんだよ。


☆ 分かってないね。全っっっ然分かってない。これっっっぽっちも、切り替えられてなんかいないわよ。引きずってんの。ずっと、ずーーーっと。だって好きになった人って、一生心に残るし。New Worldに転生して忘れられたらラクなのに。


★ それは分かる気がするけど。ミズナの方が重てぇぞ。


☆ は? 太ってないし。もう今年は色んなことが一気に起きすぎて、豆腐メンタル通り越して湯葉だわ。むしろ、豆乳。


★ 体重聞いてねぇわ。湯葉メンタルとか、お前、年いくつだよ。


☆ あんたと同じ年だよ。


★ 痛々しい。


☆ うっさいわねー。でももういいの。あと数時間で2020年も終わるし、来年こそは、あたしは1人で好き勝手に生きていくの。


★ とか言って、どうせ数ヶ月後には次の男ができてるんだろ。


☆ もうね、湯葉メンタルでいるのはしんどいのよ。ほどほどがいいわ。年ね。


★ 認めたな。


☆ 季の美が素晴らしく美味しいと思えるくらいには、ね。あたしはあたしの人生を進めなくちゃ。


★ なんか、厄落とし、しようぜ。


☆ 初詣でも行けば? あたしはこたつから出たくないし、あの神社は銀杏がいっぱい落ちてて嫌なのよ。季の美とよろしくやってるからお好きにどうぞ。


★ 銀杏なんてもう冬なんだからないだろ。だから、そういう感じじゃなくて。どーん!と何かを。


☆ なによ。じゃぁ、もちでもつく?


★ もち米もないのに?


☆ 今朝炊いたお米、残ってるでしょ。


★ 杵と臼は?


☆ そんなのあんたのDIY用工具箱に入ってるカナヅチに、ビニール袋でもかぶせたらいいでしょ。


★ 雑くね? もちにならなくね?


☆ 四の五のうるさいなー。そういうところよ。


★ 大事なところだろ、確認とか手順とか。


☆ それがみみっちいって言ってんの。男なら行動あるのみでしょうが。


★ その結果フラれたんですけど。


☆ ……あー、季の美美味しい。あたしの癒しはお酒だけ。この子たちがいれば、なんにもいらないわ。この香り、透き通ったゆらめく液体、個性的な瓶の形やラベルの印字、たまらないわ。


★ おい、聞こえないフリすんな。


☆ とにかく、案ずるより産むが易し、よ。で、工具箱、どこ?


★ ミズナのそういう雑さも、男は嫌になるんじゃねぇかな。


☆ なんか言った?


★ なんでもございません。道具出しますんで、お米の用意をお願いします。


☆ 御意。


★ 武士かよ。


☆ それにしても、もちつきなんて何年ぶり?


★ ばぁちゃんが生きてる頃だから、中学生とか?


☆ うわ、軽く15年前とか。現実見たくない。


★ ばぁちゃんちにさ、玄関にお手製のドライフラワー飾ってあったじゃん。あれ、ちっちゃい頃は嫌いだった。


☆ ミズキは虫だめだもんね。ピーピー泣いて、あの頃は可愛かったのに。


★ 誰のせいで虫が苦手になったと思ってやがる。


☆ ミズキを見てると鏡みたいで嫌だったのよ。自分とおんなじことするから。双子のサガね。


★ あの頃からミズナは全然中身変わってないよな。そういうところとか。


☆ ミズキも全然変わってないよ。見た目はおじさんになったけど。


★ 俺は社会人として、男として、ちゃんとしてるよ。


☆ ちゃんとしてたら、7年付き合った彼女とゴールインするんじゃないかしら。


★ 俺はそのつもりだったんだよ!


☆ まーね、タイミングって、あるらしいから。知らんけど。


★ お前東の人間だろ。


☆ 細かいこたぁいいんだよ。


★ なぁ、これ、本当にやるの?


☆ 実験みたいで楽しそうじゃない。


★ じゃあミズナがやってよ。


☆ ミズキが厄落とししたいって言ったんだから、あんたがやらなくてどーするの。


★ 面倒くさいこと押し付けやがって。


☆ 早くしてよ。ただのんの配信がそろそろ始まるんだから。


★ YouTuber?


☆ 違う。FORKていう配信アプリがあって、そこで最近お気に入りの配信者。ちょっと前までは大手だったけど、あたしは今の方が好き。


★ へぇ。


☆ カウントダウンライブに参加するんだから、ちゃっちゃとやっちゃって。


★ はいはい、わかりました。…………なんだろう、ものすごく、悪いことしてる気分。


☆ 最終的に完食すればOKよ。


★ こう、手から伝わる米の感触が気持ち悪い。


☆ 貴重な経験してるね。


★ ミズナもやってみろよ。


☆ んー。ゾンビをカナヅチで倒す時って、こんな感じかな?


★ これ、これから食うんだぜ?


☆ ゾンビの脳みそ風ライスケーキ。


★ どうかしてる。


☆ ハロウィンの料理にいいアイディアかも。


★ あのさ、これさ。


☆ うーん、そうね。


★ きりたんぽ、だよな。


☆ まぁ……、厳密には違うのかもしれないけど、そうなるよね。


★ どうすんのこれ。


☆ 秋田県の郷土料理に想いを馳せましょう。縁も所縁もないけど。……あ、ほら、学生アート見に行ったのとか、懐かしいじゃない。


★ あれ秋田だったっけ? 絵がどうのっていうのより、あの女子高生の経歴というか、サクセスストーリーはうらやましいわ。俺も高校生ぐらいからやり直したい。


☆ 今からだって直せるところとか、冒険できる余地はあるでしょ。あたしは過去は大事にとっておく派なの。戻れなくていいわ。


★ じゃあフラれたフラれたって騒ぐなよ。


☆ それとこれとは別じゃん。そんなことより、このゾンビケーキ食べようよ。


★ きりたんぽな。お吸い物にでも入れてみるか。いや、お茶漬けの素?


☆ 今朝の味噌汁に入れるのもアリじゃない?


★ 元は米だもんな。


☆ 甘い系はどうだろう。


★ え、ゲテモノ。


☆ はぁ? おはぎをなんだと思ってんの。おしるこ缶あったよね。あー、でもきな粉食べたいかも。


★ んなもんねぇよ。


☆ ミズキ、プロテインあったよね?


★ 馬鹿、やめろ。高いんだぞ。


☆ 今、あたしたちはこの地球上に生きる全人類の誰もやったことのない未知への挑戦をしているのかもしれない。


★ やるべきことでもないけどな。


☆ ……うん。プロテインはなしだわ。


★ お吸い物は安定です。


☆ つまんない男。


★ 美味しく食べれればいいじゃん。


☆ んー。鮭フレークは、ふつうにおにぎりだわ。


★ やらなくてもわかるよね、それ。


☆ こんぶも美味い。


★ だからおにぎり。


☆ たらこもいける。


★ 聞いてる?


☆ しらすまでは手が届かない。もうおなかいっぱい。


★ え、あとこれ俺一人で食うの?


☆ ミズキ、おにぎり好きじゃん。


★ もち要素、どこ行った?


☆ おなかいっぱいで幸せ。美味しいお酒を美味しいって飲めて幸せ。生きていくのに当たり前だけど、当たり前があることって大事よね。


★ なんだよ、急に。


☆ ウイスキーのように重ねた経験や、過ぎた時間が深みとなって、あたしを作ったらいいよね。


★ そこ、ジンじゃないんだ。


☆ 手の込んだフレンチのコースもいいけど、誰かが一生懸命作ってくれた不器用な料理に感動していたい。


★ 彼女が作ってくれたロールキャベツ、美味かったなぁ。


☆ 荒んでも、自暴自棄になっても、死にたくなっても、どれだけの深手を負っても、あたしは引き摺って、這いずってでも進む。


★ 来年はこんなきりたんぽもどきなんか作ることのない1年にしたい。


☆ ……ねぇ。


★ あ?


☆ 年、明けてる。


★ え、うそ。


☆ 3分前に。


★ 気付かなかった。


☆ ただのんのカウントライブがー!!!


★ 声でかいっての。


☆ なんてことだ。今日のモチベはただのんの配信だったのに。


★ それはそれでやばくね?


☆ ……やらかして明けた2021年だから、今後はもう上がっていくだけだ。首洗って待ってろよ、2021年。


★ 武士かよ。もう来てるって2021年。


☆ 事実に意味をつけるのはいつだって自分だからね、全部あたしの糧になれ。


★ ひとまず、明けましておめでとうございます。


☆ あけよろっ! しばらく住まわせてね!


★ ジン代、チャラにしてくれればしばらくは許可しよう。


☆ 背に腹はかえられぬ。


★ だから武士かよ。


☆ 本年は男なんぞにうつつを抜かさず、己が道を邁進したい所存で候。


★ がんばってください。


☆ 貴様に志はないのか。


★ めんどくせぇ酔い方すんのやめてくれ。


☆ 男に生まれたのに憐れよのう。嘆かわしい。嗚呼、嘆かわしい。


★ 某は、慎ましく、堅実に地に足つけて日々を丁寧に生きるでござる。


☆ さ、次は何飲もうかな。ワンランク上のシップスミスにしようかな。


★ 飽きてんじゃねぇよ! てか、どんだけ酒持ってんの。


☆ あたしの癒しだから。それにお酒はあたしを裏切らない。


★ 飲みすぎると簡単に手の平返されるけどな。


☆ それは言わないお約束。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る