第44話 決戦決定!?【後編】


「じゃあモナのことはエリザベートさんにお任せしますね。ワタシは管理人さんを仕上げて見せますから!」

「おやーーーー!? ここは三人で結託する感じじゃないのー!?」

「なにを言ってるんですか? 目的はまあ、増えましたけど……元はと言えば管理人さんが売られた喧嘩を買ったからじゃないですか」

「うっ」


 ぐうの音も出ない真実。


「というわけで、管理人さんもドレスとか靴とかオーダーで作りましょうね」

「え、待って。ボク実家に仕送りしてるからそんなにお金ないよ」

「えっ! 管理人さん、その歳で実家に仕送りしてるんですか!?」

「うち貧乏なんだよ! 辺境伯が防衛費使っても足りないから、うちからお金借りてくんで……他にも親戚が毎月お金せびりにくるし、賭博しまくってた執事に騙されてお金横領されてたり」

「ッッッ……」


 だろう。

 言葉を失うだろう。

 これら、全部リズが六歳になる前に片づけた案件である。

 辺境伯の件は完全なる国費の横領。

 この件はすでに国に密告して辺境伯は解任。

 元々隣国との関係は良好であったため、現在はリズの実家、エーヴェルヴァイン伯爵家が土地の管理を任されている。

 このまま良好な結果であれば、辺境伯に任じられることもあるかもしれない。

 次に親戚の件。

 リズの母方の実家の息子……つまり母の弟が、浪費癖のある男だった。

 両親から働きもせず毎月小遣いばかり強請られて、歳も歳だから、と完全にお金をもらえなくなった母の弟が、あることないことを語ってリズの両親を騙して近くに家を建て住むようになっていたのだ。

 五歳になったリズが叔父のあれそれを調べ上げ、証拠を揃えて王都に伝手も作り、追い出した。

 そして最後は執事。

 家の金を横領し、叔父とともに散財していた。

 当然叔父の件の時に解雇である。

 しかし、時すでに遅し。

 エーヴェルヴァイン家は、王都の金貸しに莫大な借金をしていた。

 その上リズの両親は底抜けのお人好し。

 領地が飢饉になれば王都の金貸屋からら金を借りてでも領民を助けようとする。

 そんな両親を誇らしくも思うが、リズとアリアは物心ついた直後に悟った。


 ——この両親、経営向いてない。


 その瞬間姉妹は頷き合った。

 リズとアリアの前世の知識と魔力を使い、一年間で領地内を豊作に導き、他領へ出荷。

 交易により借金は半減。

 ……まだ半減である。

 さすがに毎年豊作続きでは他領だけでなく両親が王国に睨まれかねないので、リズは自らの前世の記憶を頼りに王都の学園に入学。

 首席卒業して、魔法騎士団に入団してお金を稼ぎ、仕送りするという手に出た。

 それがリズの八年間に起きた出来事である。


「ち、小さいうちからそんなにご苦労されてたなんて……!」

「いや、本当にね。……でもまあ、そういう両親だから好きなんだけどね。アリア……ボクの姉が側にいるから、さすがにもう借金増やしてないと思うし」

「必要なら、お母様に頼んでユスト家から援助いたしますか?」

「いらないいらない。そんなことしたら叔父が戻ってきかねないもの。うちは貧乏。まだまだ火の車。……じゃないとお人好しのうちの両親は叔父をまた甘やかしかねないよ」

「ま、まあ……」


 せめてリズとアリアがもう少し大きくなれば、権利関係でも口出しできるようになるのだが。

 どちらにしても家を継ぐのは長女の旦那。

 つまりアリアの選んだ男。

 シスコン気味なので「アリアに相応しい男かどうかは必ず確認するとして」、と前提はつくが、アリアなら変な男はきっと選ばないだろう。

 ……若干別な心配として、両親のようなお人好しぽやぽや夫婦にならないかが不安の種。

 そこは姉の成長と姉が選んだ男を見定めてからだが。


「なるほど。じゃあ管理人さんのドレスとかはワタシがお小遣いから出しますね!」

「え、い、いやいやいらないって。学園在学中の制服残ってるから、[修繕]魔法でそれっぽく直せば……」


 あとなにより、リズはドレスが苦手だ。

 中身が前世から男勝りなので、ヒラヒラしたスカートが鬱陶しくて仕方ない。

 魔導系補助効果のあるローブなら、防御力や魔法防御、魔力量捜査補助などの実用的な観点から、好んで身につけてはいたけれど。

 その下にズボンや厚手のタイツを履いているので、それらを着用できないドレスやワンピースは本当に苦手だった。

 ……わかりやすくいうと「なんであんな防御力の低いものを身につけなきゃいけないの」という、なんとも斜め下の方のアレだ。

 脳筋がすぎる。


「学園の制服!? お待ちなさい! 聞き捨てなりませんわよ!」

「わ、わー……」


 エリザベート、参戦。

 これは勝ち目がなくなった。

 なぜなら相手は公爵家のお嬢様だから。


「ヘルベルト、ロベルト! こうなったらわたくしたちが全員でこの喧嘩を勝利に導きますわよ!」

「君は本当になんでもかんでも……いや、まあいい。私も負けるのは嫌いだ」

「うんうん、頑張ろうね、エリー」

「ええ! たとえセジル殿下であろうとも、わたくしと管理人さんにこんな形で喧嘩を売ったことを後悔させて差し上げますわ! おーーーっほっほっほ!」

「…………」


 すわっ、と脳内にそのゼジルの婚約者、ラステラの顔が浮かんだが、エリザベートが怒りそうなので呑み込んだ。

 つい一言余計なことを言ってしまうリズも、これは言ったら自分の首を絞めると事前にわかったので。

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