第26話 強くおなりよ
「し、[身体強化]に、種類があるんですか?」
聞いたのはマルレーネ。
それにリズはケロリと「あるよ」という。
「[身体強化]は十段階まであるし、その上に個々の戦闘スタイルに合わせたタイプや、個人の[個体強化]という自分だけのものもある。そこまで覚えられれば別人のようになれるよ。今のキミたちは六人で揃ってボクと戦っても秒殺だよね。まあ、ボク転移魔法や召喚魔法とかも使えるから、やろうと思えばこの国と戦争もできるんだけど——」
「えっ」
「さすがにやらないよ。ボクの家族に手を出すのなら話は別だけど、ゼジル以外の王族はそこまで愚かではないだろうしね」
にっこり。
もちろん家族に——特に姉に手を出すやつは許さない。
姉が結婚する相手もリズより強い男、もしくは姉を誰より大切にしてくれる人でなければ。
そうでなければ許せない。
前世からずっと姉は可哀想だった。
今世では幸せになってほしい。
いや、リズは——自分がかかわった人にはみんな幸せになってほしいと思っている。
腹が立つ相手ではあるけれど、ゼジルにも。
悲しい世界は、前世で十分味わったから。
「管理人さんがワタシたちを教えてくれたりとか、しないんですか?」
「今言ったでしょ、ボク、教員免許持ってないの。年末の試験を受けて、免許取ってからなら教えてあげられるよ」
「ふ、ふん。しかし管理人殿は魔法使いだろう? 我々は武器を持って戦うのだぞ。しかも各々使う武器が違う。それでも我らを教えられるとでも?」
小首を傾げたマルレーネのかわいらしさに顔を赤くしながら言っても、なんとなく説得力的なものに欠けるぞヘルベルト。
と、思わないでもなく。
笑いを堪えるのに必死になりつつ、一度わざとらしく咳払いをする。
「それを極めるのは各々の努力でしょう? ボクはその手助けならできるよって話。まあ、少なくともキミらはまずもって実戦経験がなさすぎる。基礎鍛錬ばかりでは限界があるし、実戦を経てようやく基礎鍛錬の重要性も理解できるだろう。なにより、昨日自分の限界や弱い部分なども理解したんじゃない?」
「うっ」
「魔王が復活すれば、魔物の強さはあれより上だ。しかもボアは元々この世界にいた、一般的な魔物。魔王が連れてきた『異界の魔物』はあの比ではないし、グレートドラゴンの五十体分くらい強い魔物もいる。魔王はそれよりも強い。古の勇者たちが命を賭して封印するのが精一杯だったのは、それくらい強さに差があったからだろう」
さすがにヘルベルトも目を剥いて息を呑む。
リズは、平和ボケは悪いことではないと思っている。
でもそれも終わりが近い。
願わくば彼ら以外にも、頼れる実力の勇者たちが誕生しますように。
「魔王が復活したらもちろんボクも戦う。でもボク一人でも限界はあるよ。この国全土を覆う結界を作っても、四天王クラスが来たら長くは持たない。魔王の復活とは、世界そのものへ影響をもたらす。世界中の人が協力しあってようやく乗り越えられる天災なの。でも、今の時代の人はそれがわからないだろうね。古の手記には、それを案じたものが多かったな」
「管理人さんは、魔王が封印された時代のことを知ってるんですか?」
「本当に詳細なものは禁書庫とかにあるから読んでないけど、閲覧可能なものは読破済みだよ。それを踏まえて言ってるんだ」
表向きの情報だけでも、十分今の時代の戦力では“太刀打ちできない”。
そう言っている。
「空に現れた黒点は魔王が封じられた空間への出入り口。まだすべて開ききっていない。おそらく第一段階。読んだ資料には、五層の空間のずれで封じてあるらしいから、ゆっくりと黒点を軸にずれていた空間が
「え、ま、待ってけろ。んでは、ほんとの、ほんとに、魔王は復活するんけ?」
「する。あと五、六年の内に」
「っ——!」
「!」
「ッ」
「!!」
反応は各々だ。
だが、皆表情には焦りがある。
それでいい。
「その間に魔物は今日の比ではないほど強く強大になり、二、三年以内にこれまで存在しなかった魔物も現れ始めるだろう。たとえばデーモン系。これは魔法と物理を合わせなければ倒せない。ボクなら魔法で作り出した岩の槍とかで貫くけど、キミたちにそれと戦う
皆、押し黙る。ロベルトとエリザベート以外の。
「し、しかし、五、六年以内ということは……たとえば私やエリザベートは勇者特科を卒業しているぞ」
「それが? それで【勇者候補】の称号が消える?」
「うっ」
「世界中の【勇者候補】の称号を天啓で与えられた者たちは、あくまで候補でしかない。その中で勇者に至ることができる者は一握り。当然ボクはこの六人の中で一人もその領域に至れる者が出ない——とも思ってる」
「なっ!」
「そのくらい勇者の道は険しいよ」
少なくとも、あのボアたちに手こずるようでは。
そう、つけ足す。
「強くおなりよ。無理せず撤退するのも、逃げ方も、協力して戦い勝利するのも自由。それもすべて経験になる。残りの数ヶ月、強くおなり。せめてボクが鍛えるに相応しいところまで登っておいでよ」
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