第10話 冒険者のお仕事をしよう!【後編】


「アースホール!」


 まずスピードのあるストルスのパーティーの盗賊シーフが素早さでボアの群れを引きつける。

 怒り狂ったボアの群れが突進を始めたら、その前方に落とし穴をいくつも作り出す。

 突進を始めたボアの群れは、急に止まることはできないのでその穴にまとめて落下する。

 上がってくるボアを仕留め、大型個体に[追跡]魔法をかけて放ち——。


「よし、終わりだ! 解体したボアの肉、素材を売って今日は解散!」

「ではあとは頼むよ、ストルス。門限は廃止したけど仕事を始めたばかりで留守にしがち、ってのはまずいしね」

「ああ。しかし、例の『勇者特科』学生寮管理人とは……。お前なら冒険者クランで引く手数多だろうに」

「冒険者は給料が安定しないからイヤ! ボクは堅実に稼ぎたいの!」

「そ、そうか」


 [追跡]魔法をかけた大型ボアを放ったのを見届けて、リズはフリードリヒとモナと共に冒険者教会の建物へと戻る。

 二人は道中溌剌とした笑顔で話し込んでおり、どことなく声をかけるのを躊躇うほど盛り上がっていた。

 話の内容は今日の仕事の話。

 魔物が襲ってくるのを避けて、うまく引き寄せたシーフがすごかった。

 リズが魔法で作った落とし穴もたくさんあったし大きかった。

 それに迷うことなく突っ込んでいくボアの群れの勢いや、地響き。

 落とし穴をも突き抜けて、こちらに突進してくるのではないかとドキドキした。

 そのあと穴を抜け出そうと上がってくるボアも、そのボアに容赦なく刃を向けなければならないのは少しつらく、心苦しかった。


「でも、でも、なんか、こう……こう……すごかったよな!」

「うん! 田舎の村さいた頃は、男衆がやってた狩り……あんな感じなんだな。うち、王都さきてから普通に出される飯、ただ美味い美味いって食ってたけんども……ああして生き物を殺して食ってるんだ。ちゃんと感謝して飯、食わねぇとだめだべっちゃなぁ!」

「んだなあ!」

「…………(フリードリヒ、訛りがうつってる)」


 微笑ましい空気。

 興奮冷めやらない二人とリズが受付嬢に呼び出されたのはその直後。

 今日の分の報酬を受け取り、山分けして帰路についた。——のだが。


「あの、あの、管理人さん」

「なんだ、モナ」

「うち、実はお金もらったの初めてなんだ。っていうか、お金、見たのも初めてで……これ、どうしたらえんだ?」

「おぉん?」


 思わず変な顔で聞き返してしまった。

 お金を見たのが、初めてだと?


「だって村にいた頃はお金なんかなくても生きてこれたから」

「おれっちも! おれっちも! お金、もらったことない!」

「な、なるほどな? では簡単に説明する。まず金の種類は五種類だ。一番位の小さい石貨いしか。これが十個でこの銅貨一枚分の価値になる。そして銅貨が十枚で銀貨一枚分。銀貨十枚で金貨一枚分。金貨十枚で、白金貨はくきんか一枚分、となる」

「ほうほう」


 一番価値の高いのが白金貨。

 今回の報酬は銀貨五十枚。

 金貨でいえば五枚分だ。

 だが、使い勝手のよさを考えて銀貨にしてもらった。


「ちなみに白金貨の上に白金貨十枚分で一枚の金棒かなぼう金棒十本分の金剛珠こんごうだまなどもあるが……普通に生きててお目にかかれるものではないから、そういうものがある、程度に記憶しておくといい。お金は欲しいものがあれば店で品物と交換できる」

「ほえー」

「王都ではあまりないが、他の町や村は“値切り”というのをやるのが常識だ。値切りをやらないとぼったくられたりするから気をつけるんだぞ」

「ほほー!」


 ふふん、と胸を張って得意げに説明する。

 思えば彼らはあの場所に軟禁されて二十歳まで出られない。

 衣食住の生活は保証されているし、生きるための不自由はないだろうがこういった弊害もあるのだ。

 これは、これまでの勇者候補たちも本来なら知っていて当然のことを学んでこれずに苦労しただろうな、と目を細める。


「よし、帰ったら他の者たちにも金のことは説明しなければいけないな」

「え? なんでだ?」

「決まっているだろう、外で生活するには金がいるんだ。お金の稼ぎ方はもちろん使い方も分からなくて、どうやって生活するんだ。勇者特科の施設内にいる間はいいが、卒業したあと恥かくぞ」

「「はっ!」」


 言われてみれば、みたいな顔をする二人に溜め息が出そうになる。

 思ったよりも——いや、思った以上にあの場所は問題が多いようだ。

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