第18話 普通ということ
大学生くらいの時、とにかく普通でなければならないと、自分を戒めてきた。
それまではめちゃくちゃな生き方をしてきたから、ちゃんと大学を卒業して、ちゃんと就職しなければならない。そう考えていた。
働く意味も、生きる理由も、わかっちゃいなかった。
結婚して、家庭を持ち、子を育てる。
案外、皆んな仲間がそんなことのために卒業したらちゃんと就職して、働くのだということが分かったのは、随分年齢を経てからだ。
いや、働くのが当たり前だから働く。
そういう仲間もいたと思う。
それでやっていける仲間たちは幸せだったと思う。
私は、働く意味も、生きる理由もわからず、朝仕事に行く時緊張のため嘔吐し、何をやってもそんな具合で長続きしなかった。
そんな私が少しだけ変われたのは妻と出会ったことによる。
家庭を持つことになり、生きる意味や、働く意味が生まれた。
それでも零細企業か、せいぜい中小企業にしか勤められなかったが、それでも妻のために働くという理由は、私を力づけた。
子供は養う自信がなかったし、これからこの世の中に生まれてくる子供が幸せかどうか疑問を持っていたので、あまり欲しくなかった。
しかしひょんなことから生まれてみると、可愛いのなんのって、それが生きる原動力になった。
それからもう25年近く、ずっと働いているが、働くことに対する疑問は湧いてこない。
仲間たちは、どういうわけかこれが人生だ、人の生きる道だ、と、早くから悟っていたということだろう。
今でこそ、生き方は人により千差万別、結婚もしない人が多数だ。
しかし、私はそれが認められない、息苦しい時代に育った。
あと10年遅く生まれれば、また私は違う生き方をしていたかもしれない。
普通でなくとも良いのだと、自分をゆるしてやれたかもしれない。
普通でない人間が、なるべく普通に生きるのは、本当に辛いものだ。
自分の子供には、そういうことを強制したくないと思っている。
だから子供は、自分の納得のいくように生きている。
それはそれでいい。
結婚もしないと言っている。
私の、苦しみの多い血筋を絶やすのも、それはそれでいい。
自分で納得がいくこと、それが一番大切なのではないか?
私は、そう考えている。
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