第149話 嬉しい再会

「わ〜!お兄様お久しぶりです!レインさんもお元気そうで良かったです!」

「やあ、アマリリス。君も元気そうで良かったよ」

「お久しぶりです、姫様」


翌日、訪問の連絡をしてから、アクセル義兄様を連れて俺は故郷である、シンフォニア王国へと転移していた。


本日は、アマリリス義姉様をアクセル義兄様や父親である帝国の皇帝陛下に会わせるだけなので、護衛はトールしか連れてきてないが、トールとレインの2人だけでも相当に余剰の戦力と言えるので、問題なかろう。


久しぶりの再会に、テンションの上がるアマリリス義姉様は、アクセル義兄様とレインに実に嬉しそうに抱きついており、その様子を見ると連れてきて正解だったと言える気にはなれそうだ。


「わざわざごめんね、エル」

「いえ、この程度のことならいつでも大丈夫ですよ。マルクス兄様お仕事は大丈夫なんですか?」

「無理をすると、アマリリスに怒られるからね。それにエルと会う時間くらいなら、まだ王太子の僕なら大変でもないしね」


そう実にカッコよく微笑むのは我が兄であるマルクス兄様。


アマリリス義姉様の様子に微笑みつつ、邪魔をしないように一歩引いて、アマリリス義姉様が落ち着いてからアクセル義兄様と挨拶をしようとしているのは、流石と言えた。


やはり、年々イケメン度合いが高まってる我が兄は凄いよね。


「トールくんも、奥さんが増えるんだってね。おめでとう」

「……ありがとうございます」


何故もうそんな事を知っているのかと考えたのは恐らく一瞬。


俺に視線を向けた時点で答えは分かったようで、何とも言い難い表情を浮かべつつマルクス兄様に返事をするトール。


その表情はいかにも、『まだ奥さんではないのだが……』というような無駄な足掻きを飲み込んだようなそれであり、何とも奴らしい抵抗とも言えた。


言うまでもなく、報告したのは俺だ。


トールは、俺の騎士ということもあるが、同時に婚約者のアイリスの親族……実の兄だし、俺が連れ回せばそれだけ色々と面識も増えるわけで、まあ、要するにこの反応を見たかったのでついでにマルクス兄様に報告していたのだ。


「トールくんは、エルの親友でいつも仲良くしてくれてるからね。公にはお祝いは渡せないけど、エル経由で何か贈るよ」

「すみません。ありがとうございます」


シンフォニア王国の王太子であるマルクス兄様が、俺の騎士に公にお祝いを渡すのは、貴族の体裁的に何かしら面倒事もあるらしいので、俺を経由するのは順当だが……奴を面と向かって親友と呼ぶのは何だか照れくさくなる。


トールも何とも言えない表情をしてることから、俺と同意見のようだ。


とはいえ、王太子で俺の兄であるマルクス兄様に真っ向から意見なんて出来ないだろうし、間違ってないので頷く他ないのだろう。


それにしても、こういう事をさらりと言えてしまう辺り、やはりマルクス兄様は性格まで良いのだから、我が兄ながら恐ろしい。


「エルちゃん!お兄様とレインさんを連れてきてくれてありがとう!」


そんな事を思っていると、再会も一段落したのか、アマリリス義姉様が嬉しそうに俺に抱きついてきた。


家族……というか、義弟だからか、スキンシップが盛んだが、これがアマリリス義姉様の魅力というものなのかもしれないと思いつつ、俺は気が済むまでされるがままにされておく。


拒否する度胸もないしね。


「ようこそお越しくださいました。シンフォニア王国の第1王子で、王太子のマルクスです。ご成婚パーティー以来になりますか。お会いできて光栄です、アクセル殿」

「突然の来訪にも関わらず、丁重なおもてなしを感謝します。帝国第8王子のアクセルと申します……っと、そんな挨拶は固すぎでしょう。マルクス殿は我が妹のアマリリスの夫であり、我が義弟のエルの兄だ。そしてここでのことは秘密の密会。そうなれば……」

「……もう少し砕けても構わない……と?」

「如何ですか?」


マルクス兄様の思考はほんの一瞬。


その僅かの逡巡で答えは出のだろう。


肩の力を抜くと、どこか平常時に近い雰囲気に戻しつつ、探るように微笑む。


「では、お義兄さんと呼びしても?」

「じゃあ、こちらは義兄らしくマルクスくんと呼ぼうか。不敬と言うなら変えるが如何かな?」

「勿論構わないですよ。よろしくですお義兄さん」


私的な空間ということで、互いに砕けつつも、念の為の警戒は忘れない本能的なもの。


なるほど、これが他国の王子同士の正しい交流の光景なのかもしれない。


なんちゃって王子の俺が例外的なだけなのだろうが……にしても、互いに笑みが自然なのが凄いな。


「エル、帝国の皇帝陛下の所まで行くのにまだ少し時間あるんだよね?」

「ええ」


向こうのスケジュール調整と、こちらで話す時間を考えて少し余裕のあるスケジュールを昨日急遽組んだのだが、どうやら上手いことハマってくれたらしい。


「じゃあ、アマリリスとの再会をもう少し楽しんで頂くとの……義兄弟の絆も深めるとしましょうか」

「それはいいね。では、お言葉に甘えるとしようか」

「アマリリス、お茶を頼むよ」

「ええ、任せて」


俺を抱きしめつつ、頷くアマリリス義姉様。


言うまでもなく、今までのマルクス兄様とアクセル義兄様のやり取りを俺はアマリリス義姉様に抱きしめられて眺めていたのだが……我ながら、傍から見たら何とも言い難い絵面になってそうではあった。


気にしたら負けかな。


「姫様、お手伝い致します」

「ありがとう、レインさん」


楽しげにレインとお茶を用意することで、ようやく俺は解放されたが、義弟というのも中々大変なのかもしれないなぁと思いながら、そう悪くないともお思うのであった。


実の姉みたいな安心感もあるしね、アマリリス義姉様。


俺の今世の実の姉様達とは別方向だけど、流石はマルクス兄様の正妻さんだとしみじみ思った。








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