第49話 卵というトレジャー

それから数日、隣国の国境を超えて、時にいくつかの村を通ってから目的地に向かっていると、俺はとある村でそれに出会った。


「コケコッコー!」


特徴的な鳴き声と、真っ白な見た目のその鳥は紛れもなく、鶏。


そして、鶏が居るということは当然……


「卵……卵だ!」


真っ白な卵は、紛れもなく前世において料理の基本とも言われていた卵そのもの。


卵と言えば、色んな料理が思い浮かぶ。


玉子焼き、目玉焼き、スクランブルエッグ、ゆで卵、オムレツなどなど。


これで、米とか醤油とかそちらの方面の食材も見つかれば、卵かけご飯とか、チャーハンとか、オムライスとか、親子丼とかも作れるようになる。


この世界に転生してから6年ほど、水アレルギーが無くなって素晴らしい人生を送っていたが、前世よりも食文化が発達してないのと、自国の環境によるものでなかなか食べたかったものが手に入りにくかったが、この前のチーズと牛乳といい、今回の卵といいやはりこの旅にて出会えたものは大きい。


「卵……赤ちゃんですか?」


村長や村人の人達と交渉して、卵の入手が可能になってホクホクしていると、鳥小屋を覗いていたアイリスが首を傾げる。


「うん、色んな料理に使えるんだよ」

「そうなんですか……でも、赤ちゃんを食べるのは少し躊躇っちゃうかもですね」


生きるために食べるというのが普通だし、それを分かっているアイリスだが、やはり白い卵と赤ちゃんという響きに少し複雑そうな表情をしていた。


まあ、気持ちは分かる。


その辺、現代日本の人達は深く考えずに受け入れることで割り切ってるが、そんな人達でもやはりそう思うことはあるだろう。


農業とか畜産の勉強が出来る学校だと、命に対してはやはりシビアになりつつも、感謝して受け入れるような感じにはなる。


人間が生きるには、他の生き物の命が必要だし、こればかりは、仕方ないとしか言えないが、その考え方が間違ってるとも言えないので、この手の話題は深くしない方がいいだろう。


結局は、各々の判断になるしね。


ただ、一つだけ言えるのは、貰った命は粗末にしてはいけないということだろう。


感謝して有難く糧にする。


それでいいのだ。


「ところで……この鳥は美味しいんですか?」

「それは今度のお楽しみかな」

「じゃあ、楽しみにしてます」


……まあ、こっちの世界の人達の方が生死には案外ドライなのかもしれないね。


魔物とか危険な生き物も前世より多いし、冒険者なんて職業とかになると、やはり自己責任が強くなる。


案外、現代日本よりもシンプルに考えていて俺としては好ましく思えるほどだ。


そして、お肉が好きなアイリスとしては、卵よりも鶏に興味が湧くのは自然と言えた。


……なんか、アイリスと話してると焼き鳥食べたくなるな。


何羽か買い取るか。


あ、でも、醤油ないからタレでは食べられないのか……塩とかでもいいけど、個人的にはタレが好きなのでやはり醤油を早めに発見したいものだ。


「ありゃ、結構柔いですね」


その声に振り返ると、卵を持ったトールが、力加減を誤ったようで卵にヒビを入れてしまっていた。


まあ、トール的にはそんなに力を入れてないだろうが……亜人でしかも鍛えてるトールの握力は日々強化されてるので、繊細さが必要な卵のような食材を持たせるのは危険だな。


「トールくんや、君は卵持っちゃダメね。持つなら専用のパック作るからそれで優しく持ち運んでおくれ」

「まあ、僕は料理しないのでいいですけど……本当にこれ食べられるんですか?」


隙間から出てきた白身を見て疑うような視線を向けてくるトール。


「トールは気に入るんじゃないかな?というか、俺の知る限り嫌いな人はあんまり居ないかな。食べられない人は居たけど」

「まあ、殿下が作るなら不味くはないんでしょうけど……」


食品のアレルギーというものがある。


卵、牛乳、そば、小麦、落花生、海老、カニ、甲殻類などが代表的だが、人によって食べるとアレルギー反応が出る食品のことを一般的には指す。


前世で俺を苦しめた水アレルギーよりもメジャーなそれらだが、好きでも食べれないというのは中々に辛いことだ。


卵や牛乳、小麦なんかは特に色んな食品に含まれてるし、それで食べられないのは本当に辛い。


水という必須なものが無理だった俺ですらこれなのだから、世の中のアレルギー持ちの方々は本当に苦労してると思う。


まあ、近年はある程度軽度なら、病院に通って徐々に治せるようになる人も居るらしいが、重い人は中々に治らない。


中には好き嫌いと混同して、食べれば治るとかほざく輩もいるらしいが……そんな根性論で治ったら俺は転生などしてないだろう。


そういう人達を見ると人類とはやはり滅びた方が良いのかもしれないと思うが……今世は楽しいし、家族も優しいので出来る限り守るつもりだ。


卵に対して疑惑の視線を向けるトールだったが、この後卵料理を食べさせると直ぐに納得したので中々に単純だ。


「んー、美味しいんです」


……まあ、大半はアイリスに食べられたけど。


相変わらず食べっぷりが見てて気持ちいいよね。


この子の食べ方は可愛いし、美味しそうに食べてくれるから好きです。














  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る