第38話 綺麗な川で

「おお!綺麗な川だ!」


乗り物酔いでグロッキーなトールの存在を後ろに感じつつも、俺は休憩のために寄った場所にあった川に感動していた。


綺麗な川の中には、魚がチラホラ見えて、泳いでいる姿は中々に美しい。


いいなぁ……俺も泳ぎたいものだ。


そんなことを思いつつ、魔法で川を調べて問題なさそうだと判断すると俺は川の水を少し飲んでみる。


特に有害ではないようだが、さて味はどうか?


そんなことを思いながら一口。


「おお……これは中々……」


オアシスの水とは違った、味わいを感じつつも、冷たい川の水は喉を通るとスーッと溶けてくように俺の体に染み渡る。


前世ではこんな風に飲めないのだが、汚染が進んでないこちらではこんな風に飲めるのは中々素晴らしい。


やっぱり、文明が進むことだけが正解じゃないね。


ある程度自然に影響を与えない範囲での繁栄こそ、世界を見据えた者のやり方のように思える。


魔法という文明だからこそという気もするけど。


「わぁ!可愛いですね!これがお魚さんなんですね」


兄の方の看病も終わったようで、俺の隣に来て川を覗き込むと、魚を見て笑みを浮かべるアイリス。


自然に隣に居ると、なんか和む。


「私、初めて見ました」

「そういえば、俺もそうだね」


お忍びで出掛ける時も、魔法しか使えない俺は非力なので森に入るという危険はあまりおかさない。


本当は寄り道を凄くしたいのだが、グッと我慢してもう少し大きくなってからと決めていたのだ。


今ではトールという騎士が居るし、アイリスという同行者も居るが、まだもう少し先の話だと思っていたので、今回の旅行はやはりいい機会であった。


「これって、食べられるんですか?」

「うん、美味しいらしいよ」


図鑑を思い出しながら観察すると、鮎や岩魚などの川魚が泳いでいる。


寄生虫の問題もあるので、調理は焼くが最も適切になってしまうが、焼いた鮎や岩魚を想像すると中々美味しそうだ。


串で刺して焼いて、塩を振って豪快にガブリ……うむ、美味しいだろうなぁ。


魚と聞くと、刺身も思い出すが、川魚を刺身でというのはねぇ……


刺身は食べたいけど、やるなら海の魚でないと。


「とりあえず、何匹か取ってお昼にでも使おうか」

「はい!」


ピコピコと愛らしく耳を動かしながら頷くアイリス。


水面をジーッと見つめると、「えいっ!」と、素手で捕まえようとする。


「捕まえました!あっ……」


亜人ならではの、視力と反射で捕まえたはいいものの、滑って落ちて逃げていく鮎。


凄いな、流石亜人というか、素手で捕まえるのって結構難易度高そうに思えるけど……まあ、俺には出来ないので、得意の水魔法で魚の居る範囲を丸ごと隔離して浮かび上がらせる。


「わぁ!流石エル様です!」

「これくらいはね」


取れなくてショボンとしていたアイリスだったが、目の前で水の檻に捕らわれて、中で浮く魚には嬉しそうな表情を浮かべた。


アイリスとトールは沢山食べるだろうし、もう少し取るべきかな。


あまり自然の恵みは取りすぎてはいけないので、調節しつつも、少し氷魔法で凍らせて空間魔法でストックしておくことも忘れない。


場所は記憶したし、次から転移でもこの辺は来られるのだが……まあ、父様達に良いお土産にもなる。


川魚なんて、うちの国で食べるのはかなり困難なので、喜ばれるだろう。


かく言う俺も、凄く嬉しい。


他国との貿易もあって、砂漠とはいえあまり不自由せずに暮らせてはいても、やはり海から遠いと魚というものにはなかなかありつけない。


運ぶにしても、コスト的な問題もそうだが、鮮度を保ってわざわざ砂漠に運ぶというのは、中々に魔法に精通してないと難しいという現状もある。


俺が思っているより、魔法使いというのは少ないらしく、優秀な魔法使いはそんな割に合わない仕事をするよりも稼げる仕事に行くだろうし、商人としてもコスト的な部分を鑑みてもあまり割には合わないのだろう。


まあ、そもそも空間魔法自体かなりレアな魔法らしい。


全属性持ちの空間魔法所有者。


なるほど、神様は中々太っ腹らしい。


そして、それを知っても悪用しないで居てくれる今世の家族。


恐らく後者が俺は一番恵まれてる点だと思う。


「あ!出来たました!」


そんなことを考えていると、アイリスが俺の真似をして魚を魔法で捕まえていた。


「おお、随分と上手くなったね」

「そ、そうですか?」

「うん、日頃の努力の成果だね」


よしよしと、頭を撫でると嬉しそうに頬を緩めるアイリス。


ただ、それで気が抜けてしまったようで……


「あっ……!」

「あらぁ……」


魔法の制御が甘くなって、魚が解放されて逃げていく。


俺のせいでもあるが……次の課題は、魔法の常駐的な維持だな。


「まあ、うん。一緒に頑張ろうか」

「はい……」


落ち込むアイリスをフォローして、もう一度トライさせる。


にしても、本当にアイリスは魔法が上手くなったものだ。


これだけで、他の国でも食べて行けそうだが……アイリスもトールも手放したくないので、誰にも渡さないように俺も頑張らないとね。


















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