チルリル、文武両道。

ねこのふでばこ

第1話 聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥

「ずっきゅーーーーーーーん!!」

 今日もチルリルの威勢の良い声で強敵を次々を倒していく。

 ルナティック後のチルリルに耐えられる敵なんていないよな、アルドはそんなことを思いながら戦いを終えた。その時である。


「じぎにひとしいのだわ!」

 時折聞く、チルリルの勝利宣言。

 ずっと気になってしょうがなかったこのセリフ。思い切って今日は聞いてみることにした。

「なあ、チルリル、今さ、何て言ったんだ?」

「はっ?!」

「えっと・・じぎ?にひとしい?って言ってるのか?」

「当たり前なのだわ。アルドったら何を今更言っているのだわ。」

 冷めた目でアルドを見つめるチルリル。

「ああ、ごめん。ずっとさ、気になってたんだけどさ、何て言ってるのか・・・どういう意味なのかわかんなくてさ。」


 チルリルの顔色がみるみるうちに赤く変わっていく。

「なんてことなのだわ!嘘でしょなのだわ!アルドったらそんなことも知らないのだわ!」

 アルドの顔は青ざめていく。

「ご、ごめん。でもオレだけじゃないと思うんだけど。」

「そんなはずないのだわ。おバカなアルドと違って他のみんなはわかってるはずなのだわ。」

 くるっと振り向き、パーティメンバーと目が合った。

 目を逸らす逸らす逸らす逸らす、4人全員。

「な、な、な、なんなのだわ。皆してわかってなかったのだわ?!」

 一同はきまりが悪そうな顔をして次々にうなだれる。


児戯じぎに等しいのだわ!なのだわ!!チルリルにとっては子供のお遊びのような、どうってことない簡単な敵だったのだわ!って言ってるのだわ!!」

「ああ、そうだったんだ。良かった、すっきりしたよ。」

 そうアルドが答え、他の仲間もうんうんと頷くが、チルリルが追い打ちをかける。

「まさか、他にも何て言ったのかわからなくて放置してたりするのだわ?」

「えっ、いやその、まあ。雰囲気でなんとかなったりするしな。」

「愚かなアルドなのだわ。助祭という高位神官のチルリルが特別に教えて差し上げるのだわ。何でも聞けばいいのだわ。」

 しまった。変なスイッチを押してしまった気がするぞ。

「いや、大丈夫だよ。チルリルだって忙しいだろ?悪かったよ、変なこと聞いて。」

「本当にそれでいいと思ってるのだわ?」

 怒りの形相でアルドを睨みつけるチルリル。

「あ、はい。お願いします。」

 もう、こう答えるしかない。

「よく言ったのだわ。アルド、仲間を全員集めるのだわ!今からチルリル先生の有難い講義が開講なのだわ!」

 やばい、これは厄介なことになってしまったぞ。アルドは仲間たちに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「ま、待てよ、チルリル。全員集めるとか無理だって。みんな各々の時代で生活してるんだから。無茶言うんじゃないよ。」

「何を言うのだわ。これからずっとみんな仲間なのに、『あいつ、いったい何て言ってんだ?』なんて誰一人として思って欲しくないのだわ。聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥なのだわ。今やらないでいつやるのだわ?今でしょだわ!」

 ああ、もうオレには止めることはできない。

「わかったよ・・・。じゃあバルオキー村に行って最初の講義をお願いするよ。」

 不安しかないアルドは一番身近な故郷の村に向かうことにした。

「チルリルにお任せなのだわ!さあ、モケも拾い食いなんてしてないで付いてくるのだわ!」

 白いモケーッとした小動物が嬉しそうに答える。

「きゅんきゅん!」


「お前はいつも楽しそうだな・・。羨ましいよ。」

 チルリルの後ろを飛び跳ねながらついて行く白い毛玉を見つめながら、アルドはとぼとぼと歩き出した。

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