第17話 ギルドでの買取りです。お金持ちになったので異世界の風俗街に繰り出します。中編


「これで最後です。買い取り金額は全部でいくらになりますか?」

 そして、俺のその言葉を受けて「鬼獣王の角……SSランク……」と、受付嬢は白目を剥いて、そのままバタンと真後ろに向けて失神して倒れたのだった。

 しかし、毎度思うがこの世界の人間ってどうしてこんなに大袈裟なんだろう?

「大丈夫ですか?」

「あ、いや、その……失礼しました」

 俺の問いかけで受付嬢は気絶から目を覚ました。

 そして青ざめた表情で素材の買取計算を始めたのだ。

「しめて金貨5400枚となります。金貨では持ち運びが大変ですので、オリハルコン通貨54枚での決済ですね」

 確か街の衛兵さんの月給が金貨30枚くらいなので、ザクっと金貨一枚1万円くらいと計算して……。

 5400万円か。

 何というか震えのくる金額だな。

 ちなみに、買い取りの内訳はこんな感じだ。


 ・オーガキング:30枚×40体

 ・サンダーバード:300枚×4体

 ・鬼獣王:3000枚×1体


 いやー、すげえな。

 いきなりちょっとした金持ちじゃねえか。これは笑いが止まらんなと俺の頬はニヤけてしまう。

 と、その時、ギルドのドアから20人くらいの屈強な男たちが入ってきた。

「どうなってんだよ受付嬢! 新ダンジョンが死体だらけになってたぞ!?」

「え? 死体だらけになっていた?」

「しかも、鬼獣王の死体まであったぞ!? 帝都の冒険者ギルドからSランク級の連中にでも派遣要請してたんだったら、最初からそう言えよなっ!」

 で、受付嬢さんは「ひょっとして……」と俺たちに視線を向けてきた。

「貴方様たちが新ダンジョンの討伐を?」

 その言葉を受けて、討伐隊のリーダーと思わしき男が俺に詰め寄ってきた。

「おいおい、冗談よせよ? こんな普通っぽい兄ちゃんがオーガキングの集団をやったとでもいうのか、鬼獣王までいたんだぞ?」

 そこでエルフの受付嬢は恐る恐るという風に、先ほど買い取ってもらった鬼獣王の角をカウンターテーブルに差し置いたのだ。

「これは鬼獣王の討伐部位です。この方たちがここに持ち込んだもので……」

「ギョっ!」とした表情で全員がその場で固まり、「マジかよ……何者だこいつら……?」と、俺たちの顔をマジマジと眺めてくる。

「それじゃあ俺はこれで失礼しますね」

 と、面倒なことになる前に俺たちはその場からそそくさと退散したのだった。




 ☆★☆★☆★




「しかし、やはり旦那様は凄いですね。はじめて訪れた冒険者ギルドでいきなり全員に一目置かれてしまうなんて」

「いや、それはむしろ当たり前のことだぞエリス殿。なにせ、サトル殿は一撃でSSランクの鬼獣王を屠ってしまうような武人だからな」

 と、まあ、そんな感じで俺たちは今、串焼きを食べながら街を歩いているわけだ。

 昼飯を食ってなかったので、屋台なんかを巡りながらの食べ歩きってやつだな。

「旦那様。私……今から古本市場に行ってきても構いませんか?」

「古本市場?」

 そう尋ねると、エリスは申し訳なさそうにこんなことを言ったのだ。

「お料理の本を買って勉強したいのです」

 その言葉でアカネは「なるほど」と頷いた。

「ならば、私は家政婦の本だな。これから一緒に住むわけだし、せめて掃除や洗濯の基礎くらいはきちんと学びたい」

「いや、お前等は超一流の武芸者なのに、どうして家事を勉強するつもりなんだ?」

 そう言うと、エリスは軽く頬を染めた後、まつ毛を伏せてこう言った。

「あの……その……。私は旦那様に褒められたいのです。役に立ちたいのです。戦闘ではどれだけ頑張っても差があり過ぎて……お役に立てそうにありませんから」

「私も同じ考えです。武芸でかなわぬなら、せめて生活回りでサトル殿に勝てるようにならねば、いつまでたっても対等な夫婦とは言えないでしょう?」

「と、いうことで私はこれからアカネさんと一緒に古本市場に行きますが、旦那様はどうなされますか?」

「そうはいっても土地勘も無いしな。どこかに行くにしても何も思い当たらないよ」

「あら、そうだったのですか。それでは旦那様はアカネさんの従者さんたちと一緒にギルドの酒場などで時間を潰されてはどうでしょう?」

 提案を受けて、俺はアゴに手をやってしばし思案する。

 昼飲み……か。

「まあ、たまには昼から飲むのも悪くないかもな」

「じゃあ決まりですね、旦那様」

「それではサトル殿。2刻の後、夕方に宿で集合と言うことにしましょうか。その後はみんなで街の酒場に繰り出しましょう」

「いいですねアカネさん! 討伐成功の宴会ですね!」

「そういうことだエリス殿。ただし……鬼人族は酒が強いから付き合うのは大変だぞ?」

「ふふ、何を隠そう――私は父親譲りの酒豪なのです!」

「なら、飲み比べが楽しみだ!」

 うん。二人は何だかんだでウマが合いそうだな。

 この調子なら、これから一緒に住んでも問題なさそうだな。

 っていうか、この場合俺はどこに住むことになるんだろうか?

 猫耳族の族長の家? 

 あるいは鬼人族の里か?

 いや、せっかく金も手に入ったし、森に新居を建てるのも悪くないな。

 そんなことを考えていると、「それでは行こうか」とエリスとアカネは道の向こう側に歩き去っていった。

 で、残されたのは俺と鬼人族の男衆3人だ。

「それではサトル殿、こちらも行きましょうか?」

「そうですね、行きましょうか」

 正直、ギルドの酒場の昼飲みってのはずっと気になってたんだよな。

 なんせヨーロッパの下町っぽい雰囲気だしな。どんな酒やツマミを出すのか、すっごい興味がある。

 で、俺は三人に先導されてギルドへと向かうことになった。

 そして街の中央通りのギルドに差し掛かって――三人はそのままギルドの入口を通り過ぎたんだ。

「え? どういうことだ? ギルドの酒場はあっちだぞ?」

 そこで三人は振り返り、俺の顔を見てニヤリと笑った。

「私はこの街に詳しいんです。サトル殿、今からアッチ系に……行っちゃいませんか?」

「あっち系?」

 鬼人の男は小指を立たせて、俺にウインクをしてきた。

「昼からやってる風俗街ですよ。人種のるつぼで色んな種族の亜人がいます。兎耳から鳥人や人魚、果てにはスライム娘……全ての種族の綺麗どころが選り取り見取り、そんな夢の桃源郷です。サトル殿はご興味ありませんか?」

 まあ、そう尋ねられると仕方ないな。

 なので、俺は素直な気持ちでこう言った。

「全然興味あります」

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