第7話 鬼狩りと、お股の治水工事をしましょう 前編


※ ニコニコ漫画さんでコミック連載中です。   小説版・コミック版共に白石が書いてますが、あっちはコミックとしての面白さを追求した脚本にしているので内容は大きく異なります。



 エリスと初夜を過ごしてから1週間がたった。

 覚えたてというのは怖いものだ。

 俺もエリスも昼と言わず夜と言わず……暇さえあればお互いの体を貪りあっている感じになっている。

 スキあらばちゅっちゅして、スキあらばギシギシアンアンしている。

 しかし、体を重ねるごとに愛着が湧いてくるから不思議なもんだ。

 と、まあ今の俺の状態は一言で言えば、幸せだという言葉あたりに落ち着くだろう。

「おはようございます。私の旦那様」

「ああ、おはようエリス」

 と、いつものどおりに「おはよう」のキスと共に目覚める。

 ベッドから抜け出して俺が身支度を整えている間に、エリスは一足先に降りてキッチンへ向かった。

 ちなみに、俺の嫁になってからは彼女は片乳はちゃんと隠している。

 しばらくすると1階から良い香りが漂ってきたので、俺も階下に降りることにした。




 今日の朝食は焼いたパンにベーコン、そして目玉焼きとサラダというオーソドックスなものだった。

 もちろん、このメニューで不味いわけがなく普通にめちゃくちゃ美味しい。

 エリスは基本的に料理上手でそこは本当にありがたい。

 いや、あるいは別に料理上手というわけでもなく、愛情という調味料が料理を美味しくしているのかもしれない……なーんちゃってな。

 と、ノロケついでに更にエリスの自慢をしよう。

 エリスは家事全般上手なんだ。

 部屋もいつも綺麗だし、俺が脱ぎ散らかした服もいつの間にか洗濯済みで綺麗に畳まれていたりする。

 と、それはさておき、実は俺の食べているこのメニューってこの世界では相当に豪華なシロモノである。

 目玉焼きには胡椒も使われているし、そもそもここでは白パンと玉子が高価な食材なのだ。

「ところでエリス。俺は毎日こんな贅沢なもんを食って良いのか? 俺はブラックドラゴンの一件からほとんど働いていないぞ?」

 実際、本当にあれから俺は一切働いていない。

 ここ最近の俺の一日の生活言えばこんな感じだ。


・朝起きてはセックス

・飯を食ってはセックス

・昼寝してはセックス

・風呂に入ってはセックス

・寝る前はもちろんセックス


 こんな感じで体中にキスマークをこさえるような生活しかしていない。

 と、そんなことを思っていると、先ほどの俺の問いかけにエリスは「あはは」と笑ってこう応じた。

「ブラックドラゴンの亡骸を売却する予定ですからね。何度も言ってますがあれだけで一財産なんですよ?」

「って言われてもなァ……何が仕事はないの?」

 何もしてないのは気が引けるんだよ。

 農作業の手伝いをするって言っても族長に止められるし。

「旦那様に下働きみたいなことをさせることは恐れ多いですよ。むしろ、ブラックドラゴン素材の売却益から私たちの里に復興支援をしてもらって本当に良いのかってみんな言ってますから」

「まあ、そこは手間賃ってことで」

 復興支援&俺の当分の生活費という意味合いも込めて、5割の手数料を族長に渡すことで話はついているわけだ。

 なんせ、嫁の住む里の復興の話だからな。

 ブラックドラゴンの解体から売却手続きから、何から何まで猫耳族がやってくれるってのもあるのも本当のところだ。

 で、それを聞いた里のみんなが毎日毎日俺にお礼を言いに来ているのが現在の状況だ。

 俺は今ちょっとしたヒーローみたいになってて困っているというのが正直な感想でもあるんだけど。

「エリス。少し話があるんだが」

「どうしたんですか改まって?」

「……夜の話だ。いや、昼夜関係ない状態ではあるんだが。さすがに俺は睡眠不足で最近疲れてきていてな」

「あ、それ分かります。実は私もそうですから」

 はにかむエリスはとても可愛い笑顔を浮かべていた。

 でも、やっぱりちょっと疲れたというかやつれた感じが出ている風にも見える。

 いや、でもそりゃあそうだよなー。

 ぶっちゃけるまでもなく俺たちはお猿さんと化しているんだもん。

 それはもう寝る間も惜しんで朝昼晩と励んでいるわけだ。

 で、それが1週間連続だ。

 童貞捨てると猿化するって話は聞いていたが、これほど強烈なものだとは思いもしなかった。

 エリスは処女だったし、そこについては一緒なんだろう。

「ぶっちゃけ疲れのピークで限界が近いんだ。今日くらいはちょっと控えて別々に寝ようか?」

「……うぅ。少し寂しいですけど、睡眠も大事ですもんね」

 と、その時、エリスの祖母である族長がリビングにやってきた。

「おはようございますじゃ、婿殿」

「ええ、おはようございます」

 婿殿という呼称には最初は戸惑ったが、さすがに毎日言われると慣れてくる。

 と、そこで族長が深いため息をついた。

「どうかしたんですか?」

「婿殿もご存じのとおり、この大森林を治める魔獣人王から受けた指令の件なのじゃが……いやはや頭を悩ませておりましての」

 この森には獣人の村が多数存在している。

 例えば、猫耳族の他に犬耳、他にも兎耳族なんかの獣人の集落が点在しているんだよな。

 で、それを治めるのが魔獣人王という、そのまんまな感じの名前の奴らしいんだ。

「えーっと……。確かオーガを50体狩るってやつですよね?」

「そのとおりじゃ。しかし、ご存じのとおりにこの里には男がおらんでのう……困ったもんですじゃ」

 オーガは知能を持たない魔物で、獣人たちとは違って亜人としては分類されていない。

 つまりは普通に危険な害獣と分類されている。

 その性質は粗暴そのもので、亜人族全体に対する脅威となっているらしい。

 と、まあそういった理由で魔獣人王の命令の下、獣人族のそれぞれの集落は定期的にオーガの駆除の仕事を持ち回りでやっているらしいんだ。

 それが今回は猫耳族の里にお鉢が回ってきたって話だな。

 で、間が悪いことにブラックドラゴンの被害で、この里には男手がない。

「ちなみに駆除できなかったらどうなるんですか?」

「他の種族の里に頭を下げて代わりに狩ってもらうことになるの。対価として相当な金銭や品物も要求もされるし、里としての序列も下がる。そして何より――」

「何より?」

「森に暮らす部族の仲間として、名誉を失うじゃろう」

「名誉ってそんなに大事なんですか?」

「獣人族全般は力こそが正義じゃからな。我らにとっては名誉は何よりも優先されるものじゃよ」

 ふーむ。

 まあ、猫耳族が脳筋なのは前回で十分知ってるしな。他の部族もそんな感じだってことだろう。

「それでオーガ狩りの状況はどうなってるんです?」

「芳しくないのじゃ。納期は3日後じゃが、まだオーガの角は20しか集まっておらぬ。本来であれば100は狩って、我が里の権勢を誇示せねばならんのじゃが……50というノルマすら無理じゃな」

 と、そこまで言って、族長は暗い顔で俯いた。

「おばあ様。森の警備任務の未達成となれば末代までの恥になりますよ?」

「分かっておるわエリス」

「それに未達成となれば責任問題となりますよね? そうなれば、おばあ様は族長の座から追いやられてしまうかもしれません」

「そうなるじゃろうな」

 さて、ここまで来たらもう仕方ないな。

「その仕事、俺がやりましょうか?」

「いや、それはなりませぬ。婿殿は猫耳族ではありませんし、ブラックドラゴンを討伐してもらった上、これ以上の恩を貰ってもお返しできませぬ」

「いやいや。エリスと俺は結婚式は挙げてませんが、事実上の婚姻状態みたいなもんですし。恩を返すとか返さないって話じゃないでしょう?」

 そこまで言うと、エリスは不安げな表情で俺に尋ねかけてきた。

「でも、やっぱり猫耳族でもない方に危険な任務をお願いするのは気が引けますよ。サトルさんが怪我でもしたら大変なことになります」

「任せとけって。いざとなったら、ブラックドラゴンを倒した魔法でドカーンだしな」


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