内情と恋心
ロイスは思わず声を上げた。
黒髪に鮮やかなグリーンの瞳。本物よりだいぶ劣化版だが、なるほどレイだ。
記事の題はこうだ。
【勇者レイ。魔王を後一歩のところまで追い詰めるが、仲間の裏切りによって失敗。裏切り者は現在逃亡中のため、指名手配中】
「なんつー嘘つきだ」
そして現在、同タイミングで指名手配を出された者がその裏切り者だとだれもが思うだろう。つまりロイスが。
「最低だな……」
「なんでも勇者様のせいにするのはどうかと思う」
「あいつ嫌いなんだよ」
「その割には、勇者様の心配してたじゃない」
いつのことだ。と思うが、彼を気遣った覚えがあまりない。
首を傾げるとカレンが苦笑した。
「勇者様の怪我の心配するような感じだったよ、あのとき。無意識かぁ」
──あのときとは、魔王と勇者と三つ巴になったあの時か。そんなことあっただろうか。あったかもしれないな。どうだったか。というか。
「おい、 なんであいつのこと様付けなんだ?」
思わず不貞腐れたような声が出てしまった。
「碌でもないぞあいつは」
「もう、ロイスこそ、なんでそんなに勇者様を毛嫌いするの?」
そのセリフに違和感を抱きつつも、ロイスは
そもそも勇者がもつ聖剣とは教会が所持する伝説の剣だ。
その剣は、神々の時代に人間に与えられた神の力そのものと言われる。魔を祓い、世界を光で満たす
この聖剣の所持者のことを通常勇者と呼ぶ。
では勇者は誰がどのように選定するのかと言えば、それは神でもなんでもない。教会が提示した試練をこえた者の中で最も信仰心の厚い者から選ばれる。
「つまり、勇者様って信仰心がすごくある人ってこと?」
「そう」
当然、魔術師に対しても良い感情をいだいていない勇者は、ロイスの仲間入りも渋った。
そういえば、とロイスが思い出してみると、一緒に行動していたエスターに対しても、ミランダに対する対応より辛辣だった気はしないでもない。
しかし確か彼女は、信心深い人間のように思えた。
──もしや、彼女が教会お抱えの魔術師というやつだったのだろうか。
治療魔術を会得している魔術師だ。教会としてもいて助かるだろう。
情報伝達が早いのも、彼女が教会のお抱えで、何かしら伝達方法があると考えた方が色々と合致するきがする。
「よく一緒に行動してたわね、教会嫌いのくせに」
そう言われると返す言葉もない。
なぜ行動していたのか。ロイスも今思えば不思議な話だ。
「頼まれたんだよ。どうしても一緒にきてくれって」
単純に移動手段として欲していただけなのだろうが「ついでだからいいか」と思ってしまったのは、やはり「困っている」「助けてほしい」そう言われたからなのだ。
素直にそれをカレンに伝えるのはなんとなく
そんなロイスの機微に気付いたかのように、くすくすとカレンが笑う。
「うるさい」
──鈍感なくせに。
思わず唇を尖らせるロイスだった。
「でもさ」
カレンが妙に嬉しそうに言う。
「勇者様から見たら私はロイスに誘拐されたように見えたわけよね。だからロイスは誘拐犯になってるわけだし」
ロイスは無言で頷く。本当に面倒なことをしてくれた。つまり指名手配されたわけだ。これではどの街にいっても追われるだけ。なんとか カレンが魔王の娘だと伝えて誤解を解かねばなるまい。
──いや、それ以前の問題だ。
レイがロイスを指名手配するように指示したとするなら、カレン誘拐というのは、あくまでも罪状の追加のためだ。本当の目的は不明だが、裏切り者として裁きたいのだろう。本気でロイスを裏切り者と思っている節があるし、とロイスは思う。
再会したとき、ひとりで逃げたと罵られたわけだし。
誘拐の疑惑も、詐欺の疑惑もどちらも晴らしたところで、追われるのは必至。
──これは本当に、厄介なことになったぞ。
不機嫌になるロイスの隣にいるカレンはというと、やけに嬉しそうだ。声音が明るい。
「じゃさ、もしかして勇者様ってば、私を助けにきてくれたりするのかな!」
「かもな」
なんでもなく答えて、しかしロイスはすぐに首を傾げた。
なんだか妙な言葉を聞いたきがする。
「ちょっとまて。さっきから何か言ってることおかし……」
「ああっ勇者様!」
その声に驚いて、言葉を途中で切って思わず横を見たロイスは、かさねて驚いた。
頬をそめ、レイの似顔絵に釘付けになっている少女、カレン。
手は胸の前で手を組み。目を輝かせるカレン。
唖然となってロイスはカレンの横顔をみつめた。
「……お前、いつのまにそうなった……」
いつのまにか勇者に惚れ込んだ?
──あの時か。
勇者に庇われたときか。それで「パパなんて大嫌い」がでたのか。惚れた男を傷つけられて、思わず父親に「大嫌い」という攻撃をかましたと言うのだろうか。
あれで隙ができたからこそ逃げられたといえど、さらに恨まれてしまった感が否めないロイスは、複雑な心境になった。
掲示板の自分の似顔絵を見て、レイの記事に視線を移し、今度はカレンをみやる。
ひたすら目を輝かせるカレンをじっと見つめて、ロイスは思った。
──馬鹿親子だったか。
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