第19話 ルビン会長 side

 私の名前はベン・ルビン。一応ルビン商会の会長でもある。国内では一二を争う規模の商会でもある。過去を詳しく調べたわけではないがアトカーシャ家とは少なくとも先代から取引を続けている。そのアトカーシャ家の長男であるルークス様は我が商会のお得意様である。正確にはルークス様だけではなく家族ぐるみでの取引ではあるが。まぁ学園に通っている学生で16歳になったばかりのルークス様が1人で商会のお得意様になるのは無理があるだろうが。


 しかし、そのルークス様が最近お人が変わられたようだ。特に学園追放になってからはまるで別人だ。確かにショックを受けて別人のようになるケースはある。ただルークス様の性格的に学園追放でショックを受ける?それに学園追放後の様子を見る限りショックを受けたような感じはしない。仮にある程度のショックを受けているとしてもローラント地方の防衛に成功し、その功績で領主になり、あぶみとリバーシを開発し、今は牛肉のワイン煮込みという料理を我々に紹介している。ルークス様が料理をするなんてアトカーシャ家でも聞いたことがない。学園にいた頃の性格なら料理なんてするように見えなかった。



「ルビン商会は王都でもローラント地方でもレストランを経営しているだろ。まぁ他の地方でもあるだろうけど」


「それはそうですが……」


 ルークス様は何をおっしゃりたいのだろう?


「貿易都市オルファネスに出店して欲しい」


「貿易都市オルファネスは半径が20kmほどの島ですが。独自の通貨や法律がある実質国ですよ」


「……今後、ゴルゴダルラ王国と戦争に必要なものがすべて国内で調達できると思うか?」


「それは……」


 私は言葉に詰まった。


「仮に調達可能だとしても商品が希薄きはくになったら値上がりは必須だろう?その対策には流通経路確保と外貨獲得は必要だ」


「一応ルビン商会はすでに出店していますが」


 これでも国内なら一二を争う規模の商会だ貿易都市オルファネスに出店ぐらいはしている。ただ……


「ルークス様の希望を考えるに今の出店の規模では不足でしょう」


「まぁ、規模は任せる。ただ土地は確保しておいて欲しい。土地ははオルファネスに限ったことじゃなくてトリスタニア国の主要都市の商店と農地の確保」


「この国の主要都市の農地を確保?」


 ルビン商会はある程度は農家と契約している。ルークス様の狙いはなんだ?


「商店はともかく、農地は安い所でかまわないから主要都市というか各都市だな。というかこの国の基準だと小麦栽培に適した場所が高く、水路から遠いと安い傾向にある。ジャガイモとトマトとトウモロコシは小麦よりは水が少なくて済むだろう?」


「なるほど」


「後は、保険だな」


「保険?」


「私の学園での評判は最悪だからな、何か一つ失敗したら地位と財産はそれを理由に取り上げられるかもしれない」


「そんなことは……」


「無いと、言いきれるか?」


「ルークス様はローラント地方の防衛に一度とはいえ成功しました。そのルークス様を少しの失敗で左遷するようならこの国に未来は無いでしょう」


「その辺は学園での悪評とローラント地方での功績を王都がどう判断するかだな。ただ王都の判断を抜きにしても食糧生産は安定させるべきだし、各都市にそれぞれ確保した土地があれば取り上げるのも難しくなる。理想は諸外国にもある程度の土地を確保だ」


「金銀財宝の形では財産を所有しないので?」


「最低限は確保するが、私に恨みがある人物が徴税に来ると難癖で取り上げられるかもしれないからな」


 ルークス様が保険?学園にいる時からそのように考慮して行動していたのなら、学園追放はありえないと思う。……王都の政治絡みならわからないが、聞いている理由は婚約者だったラファ嬢との関係悪化だ。 それとも何かのカムフラージュか? いや、よそう。ルークス様のカムフラージュを考えても無駄だ。仮に本当なら私はここまで何もわからなかったことになるし、カムフラージュでないなら偶然だ。それに私が優先すべきは商会の利益だ。王都の政治ではない。


「この国に未来はない……か、その言葉が真実になった場合はやはり諸外国に連絡する手段は必要だな」

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