第11話 戦闘開始
朝早くローラント地方軍とゴルゴダルラ軍が対峙している。もっともローラント地方軍のは両脇を川と山、背後にクレートの町。前方には柵と杭。そのさらに前方に多数の溝が掘ってあった。杭の後ろに弓兵、柵の後ろには剣兵と槍兵。
「背後にクレートの町とシドル将軍の騎兵がいるから背後からは攻められないはず。周辺も
ルークスは各将兵に命令した。
「一騎討ちは禁止とする。戦利品や捕虜を獲ろうとして隊列を乱した者は、縛り首で処刑する」
戦闘が始まった。お互いの弓兵の撃ち合いから始まった。この射撃戦は一方的な展開になった。まずローラント地方軍の方が高所にいる。加えて弓兵ならローラント地方軍の方が人数も多く錬度も高い。その上、掘られた溝が邪魔で足場が安定しない。次々とゴルゴダルラ軍の弓兵は犠牲になっていった。
その様子を見ていたゴルゴダルラ軍の騎兵は苛立った。そしてまもなく指示がないのに勝手に突撃を開始した。
ルークスは内心困惑した。
「ゴルゴダルラ軍の命令系統はどうなっているんだ?」
小声で呟いたので誰にも聞かれなかった。ルークスは次に目を疑った。ゴルゴダルラ軍が逃げ惑う弓兵が邪魔になったのか、馬で轢き殺すか、切り殺しながら斜面を進んできたからだ。
「自国の兵ではないのか?」
ルークスは疑問に思ったが、今考えることは勝利であって分析は後だ。
無秩序に突撃しているゴルゴダルラ軍騎兵。だけどその勢いは続かなかった。ローラント地方軍の前に足止めの溝が掘ってあったからだ。
「そう言えば夜に雨が降った形跡があるな」
ぬかるんだ地面に足をとられて重装備のゴルゴダルラ軍騎兵は身動きがとれなくなっていた。そこへローラント地方軍の弓兵は攻撃を集中した。中には溝を突破した騎兵もいたが、杭で守られた弓兵には攻撃できなかった。仕方なく中央の剣兵と槍兵の部隊に突入した。しかし、劣悪な地面、両側からの矢の雨のせいで肉薄する頃にはボロボロの有り様。騎馬突撃の衝撃力はもはやどこにもなかった。一方ローラント地方軍はそんな騎士を馬から引き摺り下ろし、作業のようにあの世へ出荷していった。
「この状況を見てどう動く?」
ゴルゴダルラ軍は騎兵突撃の第二波目を敢行した。結果はさっきと一緒であった。そして次に第三の突撃をしてきた。
「騎兵突撃こそが騎士の戦い方であり、また最上位の戦法だと信じている。……とは聞いていたがこれほどか。信用しているというよりは盲信しているという感じだな。おそらく今まで騎兵の突撃だけでなんとかなっていたのだろう」
ルークスはこの情報を聞いた時に今回の作戦を考えた。
ゴルゴダルラ軍は失敗する突撃を四回、五回、六回とやってきた。
「さすがに何か策を考えると思ったが……。今までの成功で新しい作戦を考えられない状態か」
突撃の回数は十回に達した。結果はもちろん第一回からの繰り返し。
十六回目の突撃に失敗した時に変化が起こった。ついにゴルゴダルラ軍が退却を開始した。
「追撃部隊!ゴルゴダルラ軍を追撃開始。ただし伏兵には注意だ。それと討伐よりは、武器や食糧の回収を目的にせよ」
ルークスは追撃の命令を出した。
「我が軍の犠牲者は?」
「約千名ほど。内訳は死者数と負傷者で半々です」
「ゴルゴダルラ軍は?」
「暫定ですが死傷者一万八千、逃亡三千、退却七千」
キルレシオに換算したら一対二十近いな。一応快勝かな?それがルークスの感想だった。
「回収部隊、死体から武器や防具。それとフリーになっている馬を回収だ」
「は」
「味方はともかく敵兵の死体は一ヵ所にまとめて焼き払うか」
放置したら病気の元だ。戦後処理が一通り終わる。
「みんな良く戦ってくれた。今日はもう大丈夫だろう」
ワインを振る舞うことを告げるとルークスの発言に兵士が歓声を挙げた。
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