第9話 土地買収

 クレートの町の視察の後、ルークスとルビン会長はルークスの家、正確には指揮官の屋敷だが二人で会話というか交渉をしていた。


「ルビン会長。あぶみの売れ行きは好調だよな?」


「生産が追い付かないぐらいには注文入りそうですな」


「クレートの町近くの農地とその近くの倉庫を購入できる余裕はあるか?」


「クレートの町は最前線ですからね。値段は暴落気味ですし、十分に購入可能ですが」


「鐙の利益だけで購入可能か?」


「最終的な利益がまだ不明ですが、現状の売上が続くなら問題なく購入可能です。というかルークス様は調度品をいくつかお売り頂いているのでその分だけで十分に購入可能です」


「……とりあえず安いところだけでいい。最初の防衛に失敗したら、その土地は失う可能性が高いからな」


 最前線の町で防御に失敗したらその土地はゴルゴダルラ領土となるだろう。戦争とはそういうものだ。


「……防衛に失敗した場合ルークス様自身は命が危ういのでは?」


「ゴルゴダルラ軍の捕虜になっても怪しいし、逃げ切っても王都から責任追及される可能性高いからな。初陣でこの状況になっているのは他の人にはなかなかない体験だな」


「ルークス様。笑っている状況では……いえガチガチになって何もできないよりははるかにいい傾向ですが。なかなかないとおっしゃいましたが普通初陣で総司令になることはないかと」


「それはそうだが。今それを気にしてもな。できることをやるしかないからな」


 ルークスは苦笑した。


「おそらくだけど、防衛には成功すると思っている。ただ犠牲者の数はわからん。あまりに我々の犠牲者が多くなると第二次侵攻軍がが来る可能性もあるからな。逆に犠牲者が少なく圧勝できればしばらくは平穏になる……と思う」


「まぁそこは相手がいることですから、自棄になって突っ込んで来る人物だと……」


「その程度の人物なら楽に勝てそうでいいな。そう言えば攻めて来るという噂だけで誰がどれくらいの人数で来るとかの情報が少ないな。大軍とは聞いたけど……」


「ルークス様の父親が大軍とおっしゃったのなら少なくても一万以上の軍では?」


「少なくても一万なら三万ぐらいの軍を想定して動くか、この地に着いたばかりで、私が動かせるのは五千ぐらいなんだがなぁ。理想は相手の指揮官がわかることなんだが、名前だけわかっても性格が不明だと作戦に組み込めないからなぁ」


 愚痴を言っても状況は良くならない。そんなことはわかっている。


「てもルークス様自身は勝算がおありなんでしょう?先ほど防衛には成功するとご自身でおっしゃったのですから。しかも鐙を使わずに」


「騎兵同士の正面衝突になったら逆に勝ち目がないぞ。鐙を使ってもさすがに六倍の兵力はひっくり返らんだろうし。仮にひっくり返ってもそれを当てにするのは指揮官失格だ。それに鐙を除くと装備と錬度で劣る」


 相手が知らない道具がある。そしてその効果のほどを知っている。それ自体は有利に働く。しかし、それだけの戦術で戦略をひっくり返すのは不可能ではないが困難だ。


「そう考えると今回の状況は戦略的には不利な状況かもな?」


 予想では相手の動員できる兵力は六倍に近く。タイミングは攻撃側『今回はゴルゴダルラ軍』が自由に選べる。


「それに関してはルークス様の責任ではないでしょう。どちらかというと国の責任では?」


「まぁ今は責任追及している状況ではないな。仮に国の責任が明らかになっても何も利益はないだろうし、……農地と倉庫の件はいいとして。スコップとすきくわとクロスボウと長弓ロングボウをクレートの町に送っておいてくれ」


「前々から頼まれてましたから、明日にでもクレートの町に到着しますよ」


「それは良かった。ん?」


 使者が来ていた。


「あなたは?」


「シドル将軍の使者です」


「何の用で、ここに?」


「ゴルゴダルラ軍が約二万八千の兵力を率いて出陣したことをお知らせに来ました。詳しいことはシドル将軍に」


 三万人よりは少なかったか。それでも大軍には代わりない。


「どうやら時間がないらしいな」


「そのようですな。では私は農地買収を急ぎましょう」


「なぜだ?」


「だって防衛に成功したら値上がりするでしょう?」


「確かに、その可能性は否定できないな」


「まぁ最前線ですから暴騰とまではいかないでしょうが」


「まぁ暴騰したら、売りさばけばいいさ。さすがにそんなことはないだろうけど」


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