雨を待つ
宇土為 名
1
もうすぐバスが来る。
あと少しだけ、と自分に言い聞かせた。
あと5分。
それだけあったら、きっとなんだって出来る。世界を覆すことも──この、指先ひとつで。
「明日も雨か…」
隣に立つクラスメイトが、狭い傘の下から空を見上げて言った。昼から降り出した雨が暗い空からしとしとと降っている。今朝の天気予報では確かにそうなっていた。
明日も雨、その次も、今週はずっとそうだった。
梅雨明けはまだ先だ。
「止まねえな」
と言うと、クラスメイトは俺を振り仰いだ。
目が合う。
「明日こそちゃんと傘持ってこいよ」
「だよなあ」
「ったく、おれはおまえの傘係じゃないの」
本当は自転車通学だけれど、雨の日はこのクラスメイトと同じバスに切り替えていた。
傘を忘れたのはわざとだった。
雨が降るのをずっと待っていた。
「おまえがいるからさ、なんか忘れちゃうんだよなあ」
「なんだそれ」
クラスメイトは笑ってまた前を向いた。
「雨が降るたびにおまえと相合傘なんておれは嫌だね」
「だから俺がいつも差してるだろ」
「おれより背が高いんだから、そんなの当然だろ」
傘の柄を握り直す。
バスが来るまでもう少し。
誰も、今、通らない道沿い。
指先で差した傘を少しだけ傾けて、世界を覆い隠すと、クラスメイトの顔を俺は覗き込んだ。
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