36 槍先の行方

 俺はスレイズ・クラン。


 「なぁ、ナターシャ」

 「何?」


 パーティーメンバーの1人メイヴが大悪魔の封印者ということで、悪魔祓い? をすることになりました。


 「本当にこんなところでいいのか?」

 

 ――――――――――――そのため、海の上にいます。


 泳いでる?

 いや、泳いではいないです。

 文字通り、海の上にいるんです。


 氷に覆われた海の上に。


 「大丈夫だよ。海なら、広いし、人はいない。ナアマを倒すにはもってこいの場所だよ!」

 「そうだけどさ……………………」


 海を凍らせたのは俺たちの計画の上でやったこと。

 全ての海を凍らせたわけではなく、海岸から離れた沖の一部だけである。

 その凍らせた海の上に俺たちはいるわけだ。


 見上げれば、鳥たちが飛んでいる。

 日も強く、少し強い風が吹いていた。

 

 俺とナターシャ、そして、シュナの3人は武器を持って構えていた。

 一方、俺たちの向かい立つメイヴは手ぶら。

 それもそう。これから、大悪魔ナアマの封印を解こうとしているのだ。

 

 「お前ら、いいか?」

 「うん!」「ええ」


 ナターシャとシュナはそう答え、頷く。

 

 「メイヴもいいな?」

 「うん…………ダメだと思ったら、すぐに封印してね」

 「分かった」

 

 「「「チェインカッター!」」」

 

 俺たちはその魔法を唱え、メイヴに当てる。

 封印解除後、一応メイヴも戦闘に加わることになっている。

 解除してすぐに倒れれば、俺たちが拾って、後方に下がってもらう。

 

 ちなみに解除後、ナアマに逃げられないように、バリア魔法を張っている。対悪魔なんてやったことがないから、なんともいえないが、ないよりはマシだろう。


 封印を解くと、メイヴが倒れ、隣に悪魔の姿が。

 黒い角に尻尾。人間の白目の部分は黒く、そして、瞳孔は血のように赤かった。

 俺にとっては初めてナアマの姿を目にした。


 本来の姿に戻ったナアマはニヤリと笑みを浮かべていた。


 「小僧、こんなにも早く貴様を殺せるとは思っていなかったよ」

 「お前に俺は殺せない」


 先日教えてもらった魔法を唱え、剣の先まで神経を集中させる。


 ――――――――――――今は白魔法を知っている。


 白魔法。

 これなら、光魔法よりも悪魔に効果的攻撃を当てることができる。

 さらに今は、メイヴの体のことを気にせず、攻撃できる。

 

 「我を拒んだのだ。貴様は絶対に殺してやるぞ!」


 一方、ナアマの方も力を溜めていた。この前のメイヴに乗っ取っていた時よりも、禍々しいオーラを感じた。


 俺は隣をちらりと見る。

 専門ではないが、白魔法を得意とするナターシャは今回は珍しく接近戦闘。宿近くの店で買った短剣を手にしていた。

 シュナはというと、光魔法や白魔法を得意としていないため、後方から戦うことに。

 

 アイコンタクトを取り、2人に合図する。

 そして、俺とナターシャは左右に分かれ、ナアマに向かって走っていく。

 その後ろを走るシュナは倒れたメイヴを回収。そして、俺たちの背後へ下がった。

 

 俺たちは、ナアマが俺たちと戦うと予想していた。

 しかし、彼女は俺たちに一切攻撃をしかけてこず、なぜかメイヴの方へ走り出す。

 

 「ちょ、スレイズ! ちゃんとナアマと戦いなさいよ! こっちに来させてどうするつもりよ!」

 「分かってるよ!」

 

 シュナが叫んでくる。

 分かってる。

 シュナが対悪魔戦は得意とはしていないことを。

 だからこそ、俺とナターシャでやらないといけない。


 しかし、ナアマの移動速度は早く、追いつかない。

 俺は移動魔法を使い、ナアマとシュナの間に移動。


 「その女には散々世話になったんでな。しっかりお礼をしてやらねばな!」


 正面のナアマはそんなことを言ってくる。

 お礼じゃないだろ? 仕返しだろ?


 「移動魔法を使えるのはお前だけじゃないぞ」


 そう言ってくるナアマ。

 え?

 その前方にいた大悪魔は消え、


 「!!」

 

 背後に移動していた。

 

 「我も少しは使えるんじゃよ」


 シュナはメイヴを守るように抱き着き、白魔法を展開。

 それでも、ナアマはメイヴに手を伸ばす。


 シュナの白魔法は弱い。俺はシュナに白魔法を付与する。

 しかし、ナアマはニヤリと笑い、そして、シュナの背後に移動。

 

 ――――――――――――ヤバい。


 その瞬間、地表に黒い影がよぎる。

 突如現れた小さな影。

 上を見上げると、かなり高いところから何か降ってきていた。


 「あれは…………女?」

 

 目を凝らすと、女が降ってきているのが見えた。

 長い赤髪に、エメラルドの瞳。

 女は白いTシャツにジーンズと、かなりラフな格好をしていた。


 そして、手には長い長い槍。

 その槍先はナアマの方を向いている。

 

 ――――――――――――あれは誰だ?

 俺は突然現れた女に、当然困惑。


 「悪魔、みぃっーけ!」


 女はそう叫び、ナアマの方へ落ちていく。


 「殺せる! やっと殺せる! アハハ!」


 赤髪の女は狂ったように笑っていた。

 なんでこんなところに人がいるんだ?

 なんで空から人が降ってきてんの?


 脳内に様々な疑問が生まれる。

 が、俺は瞬時に把握した。

 あの女の槍には白魔法と類似するものが付与されていることを。


 あの女、ナアマを殺そうとしている。

 つまり、俺たちと同じ目的。

 

 そう考えた俺は、赤髪の女に白魔法をかけ、支援する。

 

 「そこの少年、ありがとうよ! アハハ!」


 影に気が付いてからの、数秒のやり取りである。 


 「これは特注でね! 対悪魔の槍さ! 覚悟してね! クソ悪魔!」

 「ッ!!」


 赤髪の女が持っていた槍。

 それは残念ながら、ナアマの体を貫いていなかった。




 最悪なことに――――――――――――なぜかメイヴの体を貫いていた。




 「ぐ、はっ――――――」


 胸を貫かれたメイヴは血を吐きだしていた。


 「メイヴ!」

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