5 覚醒

 目をつぶりたくなるほど放たれていた光は収まり、やがていつも通りの体に戻った。

 違和感があるけど…………見た感じ、外見は変わっていない。

 黙っていたナターシャは心配そうにこちらを見ていた。

 

 「スレイズ、大丈夫? どこも痛くない?」

 「…………ああ、痛くはないが…………なんか体に違和感があるというか。妙に体が軽くなったというか」

 「体が軽くなった?」

 「ああ。あと、異常なぐらい体の魔力をものすごく感じる。一体何が起きたんだ?」

 

 俺が身体の隅々まで確認しても、あざや傷などができた様子はなかった。

 

 「ねぇ、スレイズ。ステータスを確認してみて」

 「ステータス?」

 

 とナターシャに言われるままに、ステータスを確認する。

 そこには見たこともない数字があった。

 

 「レベル989!? はぁっ!?」

 

 俺のレベルは24。

 しかし、今のステータスにはレベル989の文字。

 本当に何があったんだ?

 と他のデータにも目を通していく。

 

 すると、その他の欄にこのような文章が。

 

 『ファーストキス覚醒によって限界突破、スキル解放、ステータスが上昇しました』

 

 「う、うそだろ…………」

 「覚醒って…………それもファーストキス覚醒」

 「俺、そんな覚醒、初めて聞いた」

 「私も…………」


 さらにファーストキス覚醒の詳細を見ていく。

 

 【ファーストキス覚醒】

  覚醒した本人のステータスを上昇

  ファーストキスをした相手のステータスを上昇

  スキル「信頼」のスキルアップ


 と書かれてあった。

 自分のステータスだけじゃなくて、ファーストキスした相手のまで上昇させるのか。

 てか、スキルアップって…………なんで?


 固有スキル「信頼」


 昔からこの固有スキルは持っていた。

 しかし、イマイチこのスキルの使いどころか分からず、俺は放置。


 エリィサは「そのスキル、いつかどっかで役に立つんじゃない?」と言っていたが…………。

 よく分からない固有スキルを持ってもな…………なんて思っていた。今もだけれど。

 そんなスキルがスキルアップ? 


 俺が熟考していると、自分のステータスを確認していたナターシャが「わぁっ」と声を上げた。


 「どうしたんだ?」

 「わ、わ、私のステータスも上がってる…………」

 「あ、それ俺の覚醒のせいかも」

 「そうなの? でも、ありえないぐらい上がってる」

 「マジか」


 ナターシャのステータスを見せてもらうと、異常なほど数値が上がっていた。

 ファーストキス覚醒って本当にすごいな。自分のだけじゃなくて、相手のもこんなに上昇させるなんて。

 すると、ナターシャが頬を赤く染めながら尋ねてきた。


 「スレイズのステータスには本当に『ファーストキス覚醒』って書いてあったんだよね?」

 「ああ」

 「ファーストキス覚醒…………ってことは…………さっきのはスレイズのファーストキス…………だった…………の?」

 「そういうことに…………なるな」

 「そ、そうなんだ」


 そういえば、ついさっきナターシャとキスしたんだ。

 そのことを意識し始めると、少し照れくさくなっていく。ナターシャもさらに頬を赤くし、耳までリンゴのように赤くなっていた。

 そんな雰囲気をいたたまれなくなったのか、彼女はコホンと咳払い。

 

 「と、ともかくスレイズは覚醒した。レベルも上がった…………それも平均以上に」

 「つまり俺は冒険者をもう一度できるということか?」

 

 このレベルなら冒険者として少数人数のパーティーでもやっていける。

 1人でもクエストをクリアできるかもしれない。

 だけれど、俺はパーティーを組んで冒険したいな。


 空を見上げると、静かに輝く月があった。

 隣をちらりと見る。横にいた少女も月を見上げていた。彼女の顔は月光に照らされ、普段よりも美しくみえた。

 

 「ねぇ、スレイズ」

 「ん?」

 「スレイズはもう一度冒険者としてやっていきたい?」

 

 せっかく作り直した畑のことが一瞬頭によぎったが、もう一度得れた冒険者の夢のチャンスは逃せなかった。


 一度は諦めていた自分の夢。

 冒険者になって、国中、いや世界中を回って、困っている人を助けて。


 そして、いつか————————魔王を倒す。


 冒険者になりたいと思う者なら、誰でも持っている夢。

 その夢を叶えるチャンスが今、目の前にあるような気がした。


 「————————ああ。もちろん」


 俺がそう答えると、ナターシャは俺の両手を取って、ニコッと笑った。


 「なら、私のパーティーに入って! 一緒に冒険しようよ!」

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