幕間《魔女》

マスターシーン。魔女の独白となる。



10年より前のことはあまり覚えていない。

記憶の断片にあるのは、散らかった部屋、怒声、暴力。

そういう家庭だったのだろう。

名前で呼ばれることのない生活だったので、自分に親が付けた名前すら覚えていない。


10年前に"シーカー"がわたしを誘拐してからは、少しマシな生活になった。

実験室と無味乾燥な個室を行き来する以外の自由は無かったけど、肉体の苦痛からは遠ざかった。

だけど、その「実験」でわたしは視てしまった。

──『自分の死』という悪夢を。


わたしはだれからも愛されることはない。

わたしはだれも愛することはない。

わたしの人生はここで行き止まりで、

わたしの意味はきっとどこにもない。


2年間、暗闇の中でそう思っていた。



けれど、その果てに───星を視た。



いつか来る光景。

わたしが、笑っていた。

まるで普通の女の子みたいに。

隣にいる誰かと笑い、遊んでいる。


まだ出会ってもいない、名前も知らない彼。

だけど、彼の存在が闇夜にただ1つの星を灯す。


わたしの人生にも幸せに笑える日があるんだ。

こんな風に過ごせる日が、たった一日でもあるのなら…………


わたしにとっては、それが希望だ。

たとえどんな苦しみを背負っても、最後に死が待っていようとも。



───わたしは未来の星に恋をする。

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