第7話 子ども部屋

兄のベッドは日当たりがいい。


二人も兄がいれば集まる漫画の量もそこそこある。


狭苦しい子ども部屋でそれはごろごろしながら漫画を読むのに最適だった。


ある日、うっかりうたた寝をしてしまっていると朧げな意識の中だった。


一番大きな兄がうっすらと見えた。


無言のまま”それ”をすりあてられることに、


いつもと違う雰囲気に


ただ何も言えず、なにもできなかった。


抵抗すべきことだったことさえも。


あまりにも無知過ぎた故に、そのときはなにもわからなかった。


だけど、のちに知ったのだ。


少なくともそれは兄妹間のすることではない。


きたない。


けがれてしまった。


両親になどいえるはずもない。


雑魚寝するリビングで寝るのが怖くて、誰かが起きている間に寝るのが怖く、寝てしまうことが怖い。


友達になどいえるはずもない。


それから過剰に怖くなった。


次第に兄も気まずさからか家を遠ざけるようになったが、今でも寝るときに自室に鍵をかける癖がやめられない。


「持病で倒れてたら心配だから鍵かけないで」


母に怒られた。


ごめんねってごまかした。


いまだに誰も知る由もない。



子どもを授かる大切な行為。


欲望とは裏腹に抱く、行為への虚無感


どれだけ尊いことだと言葉を尽くされても


おぞましい。生々しい。……こわい


美しいとは、思えない。


出会う人誰もがそれに見えて仕方ない。


どんなに優しい言葉をくれた人も


どんなにぬくもりをくれた人も、


「結局」それがすべてなのかと疑い続けることに疲弊した。





こんな胸がなければこんな目で見られないのか。


こんなカタチじゃなければこんな目にあわないのか。



だったらいっそ全部捨ててしまえればいいのに。


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