第51話、元魔王の右腕エメラルド

 そこにはつい十日程前に会った、雌のオークのエメラルドの姿があった。


「何故、あなたがこんな所にい、おら、おられるのですか?」


 俺は率直な疑問を口にした。雌のオークに若干の苦手意識があるせいか、かなりへりくだった感じの言葉遣いになってしまった。


「やぁねぇ、そんな言葉遣いじゃなくて、もっと普通でいいわよぉ。」

「……何であんたがここにいるんだ?」

「んー、特に深い理由とかは、ないんだけどぉ、何となくあなた達の事が気になったのよねぇ。それでちょっとこの辺まで様子を見に来たらぁ、見知った顔がいたからちょっとねぇ。」


 エメラルドはそう言うと、トワイマライトに目線を移した。この二人、二匹? 一人と一匹? ……二人は知り合いなのだろうか。


「久しぶりねぇ、トワイマライトぉ。元気にしてたかしらぁ?」

「……まさかこんな所で昔の知り合いに会うとは思いもしませんでしたよ。エメラルド。」

「私もぉ、まさかあなたがぁ、こんな所まで来てるとは思わなかったわぁ。魔王様は元気にしてるかしらぁ?」

「……えぇ、元気ですよ。」

「そう? それはよかったわぁ。」

「……それよりも、どういう事ですか? あの斧は。魔王様の”元右腕”であったあなたが、何故私の邪魔をするのですか? 返答次第では例えあなたでも容赦はしませんよ?」


 え? 魔王の元右腕? 村の男の男性器を使って、趣味の悪いオブジェを作っていたエメラルドが?


「別にぃ、深い理由はないわよぉ。ただその子達とは一応知り合いだからねぇ。目の前で死なれるのは寝覚めが悪いのよねぇ。」

「……そんな理由で私の邪魔をしたとい言うのですか……? この彼はとても危険な存在です。特に私のようなアンデット種には天敵と言ってもいい。それを貴様は、そんな理由で邪魔をしたというのか?」


 ……トワイマライトの口調が変わり、さらにとてつもなく禍々しいオーラを放ち出した。いや魔力か? どっちでもいい。とにかくこれはかなり不味い雰囲気だ。


「口調が変わったわよぉ、トワイマライトぉ。」

「……貴様はいつもそうだった。そうやって適当にのらりくらりと過ごし、あろう事か人間の男性器を味わいたいからと言うふざけた理由で、我らの軍を抜けたな。魔王様に拾っていただいた恩も忘れ……貴様は、貴様はァ!!」

「んー、魔王様には多少は感謝してるけどぉ、あそこにいる連中のちんぽってどれも退屈なのよねぇ。どいつもこいつも数cm程度しかないしぃ、それならまだ向こうの世界の男の方がまだ楽しめたわぁ。」

「……私は前から貴様の事が嫌いだった! その適当過ぎる正確も! 雌のオークの分際で魔王様の右腕として認められた所も! その気の抜ける話し方も! 全てが癇に障る! 丁度いい機会だ、今ここで! 貴様を殺す!!」

「……やれるものならぁ……やってみなさぁい?」

「エメラルドォ!!!」


 ……何か知らんが、目の前でトワイマライトとエメラルドのバトルが始まってしまった。立石たていしの時も大概だったが、これはそれ以上に訳分からん。何がどうなったらそうなるんだ。


 周りを見渡して見ても、全員俺と同じ様に驚いているようだった。まぁ、そらそうだわな。


「……ホント、あんたと居ると退屈しないわね、マサヨシ。どうやったら私達、というよりもあんたを始末しに来た魔王の側近が、急に現れた雌のオークと戦う展開になるわけ?」

「……私も、この状況は全く理解できません……」

「むしろ俺が聞きたいくらいだ。」


 とりあえず俺の命の危険は去った、と言う事になるのだろうか。エメラルド次第ではあるが、彼女がもしもトワイマライトを倒してくれるようなら、俺達としてもありがたい。あいつ強すぎるしな。


 真珠しずく立石たていしの戦いも大概だったが、あっちは更に別次元の戦いだな。トワイマライトがスピードタイプで、エメラルドがパワータイプといった印象だが、決してエメラルドがトワイマライトのスピードに負けているという感じでもない。


 正直今どういう戦況なのか一割も理解できないが、二人の力はほぼ互角といった所なのだろうか。いや、若干エメラルドが押している……ような気がしなくもない。真珠しずく達のはギリギリ半分程度は目で追えたが、こっちはもう何も分からない。D○の戦いを間近で見ている、ちょっとだけ戦える武闘家等もこんな感じの気持なのだろうか。


 今の内に逃げられるのなら逃げたい所ではあるが、もしもエメラルドが負けた場合、トワイマライトは俺達を追ってくるだろう。そしてトワイマライトから逃げられる気はしない。


 ここはエメラルドが勝つ事を祈りつつ、とばっちりだけには気を付けて観戦を決め込むとしよう。

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