イブとヤエ~かの館で主を守れ!
一陽吉
第1話 開夜
「お客様のようね、イブ」
「そのようね、ヤエ」
感情のない淡々とした口調で言う二人の少女。
声と同様に、表情にもそれは感じられなかった。
イブと呼ばれた少女は
ヤエと呼ばれた少女は
年は十歳ほどに見え、双子といってよいほど容姿も似ている。
お互い、黒を基調としたゴシックロリィタの衣装を身につけ、小さな魔女といった印象があった。
二人が居るのは、屋内、エントランス。
内装は中世ヨーロッパを思わせる作りで、窓に夜空を表したステンドグラスがあるため、教会のような雰囲気がある。
その中心で、黒塗りされた木製のイスに座り、同じ仕様のテーブルをはさんでティータイムをしていた二人。
すっと立ち上がり、外界への出入り口である扉の方へ注目する。
バーン! と乱暴に開かれた扉から現れたのは、巨大な金属の葉であった。
一般的に葉と聞いて想像できる、広葉樹の葉の形をした鉄色のもの。
葉頂から葉基まで二メートル、幅は一メートル弱ほどで、厚さは二センチていど。
鉄色の葉は葉基を頭にして、空中に浮かびながら中へ入ってきた。
「ここへ何の御用かしら」
「まずはそれを聞かせていただこうかしら」
イブとヤエが来訪者に訊いた。
「我は力を求めるもの。この先に力があるのだろう。それをもらい受けにきた」
中年男性のような低い声で鉄色の葉が答えた。
この先、つまりエントランスの奥の方だが、そこには確かに厳かな感じの木製扉があった。
「残念ながらそれはできないわ」
「ええ、お引き取りを」
動じる様子もなく静かに言う二人。
しかし鉄色の葉は少女の言葉に
「従わなければ強制退去」
「もしくは排除、消滅よ」
イブとヤエが、それぞれ右手を突き出すのと同時に、銀の装飾が施された銃身六十センチほどのクラシック銃が現れ、その手に握られた。
その銃口は鉄色の葉に向けられている。
「おもしろい。できるものなら止めてみせるがいい、小娘!」
鉄色の葉が声を強くして言うと、分身たるもう一枚の葉が本体から勢いよく飛び出した。
分身は葉身で切りつけるべく横に回転しながら二人に襲いかかった。
だが、二人は視線をそらさず、必要最小限の動作で
扉は木製のはずだが、突き刺さることもなく跳ね返され、葉の分身は大理石の床に転がった。
「むう?」
そのことに驚く鉄色の葉。
硬度によって物理的にではなく、魔力の壁で弾かれた感じだった。
「どうやら消滅がお望みのようね、イブ」
「そのようね、ヤエ」
それに見向きもせず静かに言う二人。
すると、床に倒れていた分身がふわりと浮き上がり、再び二人に襲いかかろうとした。
それを察知し、二人は本体を見据えたまま銃だけ分身に向け、引き金を引いた。
二射、同時の発砲音。
「ふ、そんなもので────」
言いかけて、存在しない目を丸くする鉄色の葉。
本体と同じく
銃声はまさしく火薬が燃焼して鉛玉を放つ、それであり、散弾特有のものだった。
しかし実際に放たれたのは、金属ではなかった。
「魔法……。その銃、スピールか!」
「そのとおりよ」
「正解」
既存の銃で魔法を使用できるように改造したり、機構をもたせた物の総称、スピール。
そのスピールの中でも二人の持つクラシック銃は一つの魔法使用に特化したものであった。
しかもその魔法は燃焼であり、神々でさえ無傷ではいられない、最上級に部類される神火。
少々、力をもった程度の者であれば抵抗もできずに焼き尽くされてしまう。
「く、小娘……、見た目どおりの魔女であったか!」
怒鳴るようにして言うと、鉄色の葉は分身を次々と生み出し、四方八方から一斉に仕掛けた。
十二体からなる、上下前後左右、全方位からの同時攻撃である。
「小娘、これでは対処できまい」
自信をにじませる鉄色の葉。
だが、二人はヌンチャクのようにクラシック銃を振り回し、的確に分身へ射撃。
バンバンバンバンバンバンバンバンと、連続した心地よい銃声を響かせながら、瞬く間に分身たちを焼き払っていく。
「楽勝ね、イブ」
「そうね、ヤエ」
顔色一つ変えず話す二人に、啞然とする鉄色の葉。
「いかん、このままでは────」
逃走を考えた瞬間、鉄色の葉は被弾し、倒れた。
「うう……」
さすがに本体だけあって風穴は開かなかったが、被弾部は大きく凹み真っ黒に焦げていた。
「これで終わり」
「チェックメイト」
「!」
床から五センチほど浮いたところで二つの銃口を突きつけられる鉄色の葉。
ダメージは瀕死レベルで至近距離での攻撃もできない。
「ま、待て、話せば分かる。我は────」
言い終えるより早く、二人は引き金を引いた。
四つの銃声とともに鉄色の葉・本体は、真紅の炎に包まれて焼かれ、完全消滅した。
「完了ね、イブ」
「そうね、ヤエ」
それを最後まで見届け呟くように言う二人。
残されたのは二人の少女と、ティーカップがのせられたテーブル、そしてイス。
切断されたイスは重症を訴えているように思えた。
「あれは館が直すからいいわね」
「ええ、放っておきましょう」
一瞥をやって向き直ると、二人はエントランス最奥の扉へ歩き出した。
「さすがに汗をかいたわね、イブ」
「そうね、ヤエ」
表情こそないが、二人とも大粒の汗をかき、
運動に加え、強力な魔法の使用による疲労だった。
「こういう時は入浴と食事ね、イブ」
「もちろんよ、ヤエ」
扉の前に立つと、二人は、左右それぞれのドアノブを握った。
鉄色の葉では跳ね返した扉だが、二人には簡単に開放された。
中からエントランスへ白い光が放たれる。
二人は光の中へ入っていった。
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