第14話 きっかけ ⑧
異変は次の日の学校で起きた(起きていた)。
前日の昼休み以降は
しかし、この日は教室に入るなりすでに何かがおかしかった……。
「へー、ササちゃんは
「なっ──」
まさかとは思ったけど金髪を見間違えるわけもなく、朝教室に行くと黒川さんが僕の席に座り、斜め後ろの席のクラスメイトと親しげに話していた。
とうとう僕に残された逃げ場が部室のみになった瞬間だった。
「く、黒川さん。ここで何してるの?」
「おはよう。何してるかって……情報収集?」
「情報、収集」
「そうそう。あっ、座る?」
不穏な言葉にしか聞こえなかった情報収集に戸惑っていると、黒川さんは僕の席から隣の
何の情報収集なのかとか、どうして情報収集なのかとか聞けるわけがなく、「どうしよう」とだけが頭の中を埋め尽くした。
「……(どうしよう)」
「一条、一条、ちょっと」
「……(どうしよう)」
「一条くん。ちょっときてくれるかな!」
自分が呼ばれていると気づき教室の入り口の方を見ると、僕を呼んでいたのはすでに登校していた友人A。
僕は黒川さんの周りしか見えてなくて、友人Aがいたことになどまったく気がつかなかった。
「──何?」
「何、じゃないだろ。あれが何だ!?」
「僕の方が聞きたいよ。黒川さんいつからいるの?」
「きた時にはもういたけど?」
友人Aは学校から一番家が近く、自転車で十分あれば学校までこられるのだから出かけるのが遅い。
とはいえ、友人Aは朝の予習を欠かさない男である。
朝が大変なので僕は普段は始業の二十分前くらいにしか学校にこないが、友人Aは僕より二十分は前に学校にきているだろう。
つまり黒川さんはすでに一時間近くは教室にいるということで、その間にどれだけ情報収集に成果があったのかなど怖くて聞けるわけがない。
それに、黒川さんが親しげに話していた女の子とは確かに中等部の頃からずっと同じクラスでよく知っているのだが。
彼女はあまり口数の多くない女の子のはずなのに、黒川さんとは親しげに話していた。
さぞ情報収集は捗ってしまったことだろう……。
「黒川さんはずっとあそこに?」
「いや、初めは後ろの方で違う女子と喋ってて、次に黒板のところで喋ってたのに混ざって、最後に今の位置だな」
黒川さんのあの積極的な感じは女の子相手にも十全に使えるらしく、黒川さんの交友関係はとても広い。
わずかな時間で誰とでも仲良くなれるのだ。
この日だけで話したクラスメイトたちとは親しくなっていて、以降は黒川さんがクラス内にいても誰も何も言わなくなる。
「──って、姫川さんに告白したんじゃなかったのか? それなのになんで
「それは……。事情は昼休みにいつものところででいい?」
「わかった。昨日の話じゃよくわからなくてさ」
「うん。僕もいっぱいいっぱいで連絡できなかった」
この時点で事情を知っていたのは昨日話した友人Cだけ。
僕はラブレターのところから友人Cに事情を話し、友人Cからは黒川さんについての話を聞いた。
そして友人Cには姫川さんとは別な意味で「黒川はやめておけ」と言われたんだ。
黒川さんは四月に一人と、五月に一人と、六月にも一人と付き合っていて、いずれも破局しているとからと。
男女共に友達も多いが評判は男関係で非常に悪く、ビッチと陰で言われている女の子だと聞いた。
そんなのと付き合うのはやめておけと言われた……。
僕は帰ってからビッチの意味を調べて、自分が知っただけのだが彼女と比べたり。
そんなふうに言われる彼女がどうしてまた自分に、「あーしと付き合わない?」なんて言ったのかと考えた。
「──あら、おはよう。こんなところでどうしたの?」
「姫川さん。
「本当だな。廊下でどうした?」
「いやー、なんていうか……」
教室から出てすぐのところで話していると、毎日男女のグループで登校してくる高木くんたちクラスの中心の人たちに声をかけられた。
突然のことに驚いたらしい友人Aは姫川さんに緊張しているのか黙ってしまったが、僕が姫川さんたちに挨拶をすると友人Aも挨拶を返し。
そのまま高木くんたちと一緒に教室に戻ろうとすると、先に教室に入ったはずの高木くんの前にいたクラスメイトが顔色を変えて引き返してきた。
「──何なんだ? 黒川がいる?」
「……えっ」
引き返してきた顔色が悪いクラスメイトから耳打ちされた高木くんがそう言い、姫川さんが一番早くそれに反応した。
二人は急ぎはしなかったが教室に入るなり情報収集を行う黒川さんに近寄り(姫川さんは自分の席にいっただけだけど)、姫川さんは珍しく(本当はいつも通り)不快そうに、高木くんは教室に入ってこない友達の方を見てから黒川さんに話しかけた。
「高木っちに
「その、なんだ……。お前に振られたヤツがバツが悪いとだな……」
「あー、そうなんだ。でももう終わったことだし。気にしないでいいよ。あーしもまったく気にしないし」
「いや、黒川が気にしなくてもだな……」
「
ただ間に入ることになっただけの高木くんに、今度は黒川さんが隠すことなく不快感を示す。
それまでの教室内の空気が一変しピリついたのを感じた。
高木くんもただ話しているだけの黒川さんにそれ以上は何も言えず、代わりに実害を受けている姫川さんが前に出た。
「黒川さん。そこ、私の席だからどいてくれる」
「……あー、なるほど。そうなんだ。それで美咲ちゃんね」
「美咲ちゃんはやめてって言ったでしょう。ちょっときて」
「あー、まだ話の途中だったのにー」
「彼女にも迷惑になってるから。ほら」
最後は姫川さんが黒川さんを引きずる形で退場させ、僕は二人が知り合いだったのだと知り。
この後も会話する二人を(主に姫川さんの席のあたりで)見かけるようになり、二人の仲がいいのだと僕は勘違いした。
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