age29 / 魔法と開眼

同じ向きで寝転び足元に湯たんぽを挟む。

あなたのうなじに額をつけて腰に手を回し、他愛もない話をしながら寝入るのが俺たちの冬のスタイル。

冷えた布団への俺の習慣が呆気なく却下されたあとも、まだまだ続けたくて仕方がない。

明日も仕事なんだけどね。


大笑いのあと、あなたが静かに続ける。

「少し重い話していい?」

「いいよ」

あなたが話してくれるのなら、全て聞くよ。

重ねた手をゆっくりさすりながら言葉を待つ。


「僕がうなされてる時の八割方って、大学生の時に受けた暴行が原因なんだ」

………え?

擦る指を思わず止める。

「性的の。あ、でもタケルが序盤で助けてくれたから、未遂?」

………どちらにせよ。

ぎゅっと強くあなたの手を握る。


周囲より数年早く履修を終えたあなた。

どうにも収まらない、脳内を駆け巡る『ボコる』とか『殺す』とかいう物騒な単語が口を衝くと、言葉を乱暴に扱うなと諭される。


「タケルにやめとけと言われたけど、いつも心配してくれるし、荷を軽くしたかったから話しちゃった、背負わせてゴメンね」

顔をこちらを向けてバツが悪そうに笑う。

「俺だってこれまでに散々背負ってもらったんだ、幾らでも乗せてよ」


少しずつ、知らない過去が明らかになる。

そして、今まで見せなかった弱さも。

もっと教えて欲しい、見せて欲しい、全部。


「きみはどう?」

あなたと居るおかげでうなされる頻度が確実に減りました。

「社会人パワハラよりも高校部活の体罰&モラハラが効いてるなぁ、殆どそれ」

イタイケな若者の心を踏みにじる。

何で痛みの判らない人が居るんだろうな。

八つ当たりはせめて無機質にと願いたい。


「痛みを知るだけに優しさを、と思いながらもたまに忘れることがあるから、鈍感にはならないようにしたいね」

「そうだね」

後ろからぎゅっと抱き締めれば、あなたの変わらぬ温もりが伝わってくる。


そうだ、いい事思いついた!

「嫌な思い出は魔法で封印しよう。

 おでこ貸して」

仰向けにし、頬を包んでこつんとつける。

「え~、むにゃむにゃ、ほげら、ぽこびんでぃ……」

くすくす笑うなよ、目を伏せなさい!

「……むん、ふん、ハイ~~ッッ!」

ぷっ、ぷぷぷ。

「ごめん、ちょっと……無理っ!」

はいはい、楽しんでいただけて光栄です。


ツボるあなたの顔をガッチリ押さえつけ、おでこに封印のキスをする。

「これで魘されずに済むね、ありがとう。

 ………って長くない?

 ちょっと待って、何で吸ってるの?

 そこ、ど真ん中なの判るよね、いや、跡、跡が残るからやめて……やめろってば!!」


◆ ◆ ◆


「どうしたの、そのおでこ?」

塾長が驚きの顔で尋ねる。

「頭突きはいいが中身は無事か?」

俺様棘々講師が人手不足を理由に心配する。


「何かね、第三の目が開きそう……」

大丈夫の言葉を信じたら見事に薄紅の跡。

仕方なく貼った絆創膏に一言。

「中二病…………」


憐れみの目で見ないで、ふたりとも!!


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