少年期:壱~確かな成長と運命の交差~

第14話 魔獣狩り行こうぜ!①



季節は秋。北の帝都の短い夏は去り、今は涼しい風が吹いている。


エリーとの文通は今に至るまで途切れることなく続いていた。

まだ夏が残るヘリオス領ではこの間海で遊んだらしい。

エリーの水着姿が見れないのが悔やまれる。

手紙には水着のことは一切書かれていなかった。くそ、これもエリーの策略か?ボクはますますエリーのことを考えてしまうじゃないか。

エリーに似合うのは白...かな。いや青もいい。待て、黒も捨てがたい。いややっぱり白か...?


そんな妄想もほどほどに、ボクはガレインと共に訓練場へと来ていた。

訓練用の剣を持ち、ガレインと対峙する。


「ではケント殿下、いつでもどうぞ。」

ボクは一つ深呼吸して、ガレインを見据える。


そして魔力を体に行きわたらせ、”身体強化”を発動した。

「フッ!」

ボクは正面から剣を振る。

ガレインはしっかり受け止める。

「良い身体強化ですな!なかなか重い!」

それから何合も打ち合う。

しかし決着は突然だった。

ボクは剣を袈裟懸けにふるう。

ガレインは受け止めると見せかけ、剣を滑らせて受け流す。

バランスが崩れ、隙だらけのボクに剣を突き付けた。


「私の勝ち、ですな」


ボクは身体強化を解きその場に座り込む。

「あぁ!何回やっても勝てない!強すぎだよ~!」

「お褒めにあずかり光栄です。ですがそろそろ私も軽く”身体強化”を掛けなければならなくなってきました。今の”身体強化”は今までで最高でしたね。おそらく現在の殿下の体では最も効率がいいのではないでしょうか。」

そう、この人は素で戦っていたのだ。やはり”位階”の差は大きい。”身体強化”の上限がまだ低い子供であってもボクはまだ強い方なのに...。


「ありがと。いつかガレインに勝てるようになるかな?」

「ハハハ。殿下が成人なさるまでは負けませぬ。そうでないと師としての面目が立ちませんからな。」

「なら成人する前にガレインに勝つことを目標に頑張るよ。」

「殿下の成長が楽しみです。では剣の稽古はこのあたりにしておきましょう。お疲れ様でございました。」

「今日もありがとう。お疲れ様。」



ボクは剣の稽古を終え、昼食を食べに行った。

食卓にはイルシア姉様とマルク兄様がいた。

「あっ、ケント!お疲れ様!」

「やあ、ケント。さっきまで見てたよ。なかなかやるじゃないか、”身体強化”。」

「あ、ありがとうございます!マルク兄様は今日はアイリ姉様と一緒じゃないんですね。」

「アイリは今頃ミリーと一緒に森のなかさ。学校で組んだパーティで魔獣狩りだって。」

その言葉に黙々と食べていたイルシア姉様が反応した。

「そういえばケントはまだ行ったことないよね、魔獣狩り。」

「あ、はい。というか城壁の外にすら出たことがないです。」

するとイルシア姉様がにっこり笑って言った。

「じゃあ行こっか!魔獣狩り!」

え、なにその一狩り行こうぜみたいなノリ。

そんな簡単に行けるの?

「あ、えっと許可が出れば行ってみたいです。」

「なら僕も行くよ。ケントに解体の仕方も教えたいし。」

マルク兄様も乗り気だ。

「じゃあお父様に聞いておくね!ケントは午後は魔法でしょ?頑張ってね!」



昼食を終え、ボクは魔法用の訓練場へと向かう。

今日は1週間に一回だけの魔法の訓練だ。

魔法は学ぶことが剣と違い少ないので、1週間に一回の訓練になっている。

そこにはすでにティリアさんが待っていた。


「こんにちは、ケント殿下。今日は何をしましょうか。」

そうティリアさんが聞いてくる。

「えっと...そうだ!シルフィと魔法対決なんてどうでしょう」

我ながら名案だと思い、ティリアさんを見ると、若干あきれたような目線を向けてきている。

「そんなのが成立するのは無属性に加え聖属性を操るケント殿下とシルフィちゃんだけですよ...。はあ、なぜこんな無敵魔法士がいるんでしょうか。私の教えることなんて魔力効率くらいのものですよ...はあ。まあそれにしましょうか。シルフィちゃんを読んでいただけます?」

2回ため息ついた。2回も。

まあいいや、シルフィ呼ぼうっと。

『シルフィ!来て!』

頭の中でシルフィに呼びかける。


するとすぐに城の方からシルフィが飛んできた。

ボクの腕に止まったシルフィは”なにするの?”とボクの顔をのぞき込んでくる。

「今日はね~、ボクとシルフィで魔法対決しようと思うんだ!交互に魔法を打っていって、まねできなかった方が負け。」

シルフィは”了解!”という風に片翼を上げ、一声鳴いた。


「ではあちらの的に向かって打ってください。上級に相当する魔法は禁止します。ではどうぞ。」

よーし。まずは小手調べだ。

「”火球”!」

手のひらの上に生まれた火の玉がが的にぶつかる。

シルフィはあっさりまねして見せた。

「次はシルフィの番だよ。」

シルフィは飛び上がり、翼をはばたかせて風の刃を放った。

なるほど。”風刃”ね。

ボクも同じように風の刃を放つ。


こうして対決が続き、まあまあ時間がたった。そしてボクはほぼネタ切れだった。

頑張ってひねり出した魔法もあっさりまねをされてしまう。

逆にシルフィは様々な魔法を使用してきて、まねはできるものの自分の番に悩むという感じになっていた。


そして何十回目かのシルフィの番。シルフィはをした。

”ピュゥゥ!”と鳴いたシルフィの姿が消えた。

え?と思っている間にボクの後ろにいる。

「ねえ、ティリア。今のって”転移魔法”?」

「は、はい、そのようですね。まさか使えるなんて...」

ボクを見上げるシルフィは早よやれやという目で見てくる。

「負けました。ボクまだ転移魔法使えません。」

負けた。完膚なきまでに。これからシルフィのことは魔法マスターと呼ぼう。ウンソウシヨウ。


そして、転移魔法ともう一つ確認したいことがある。

「シルフィ、重力魔法って使える?石浮かせたりするやつ」

するとシルフィは”こう?”という風に5個くらいの石を体の周りに浮かせた。

マジかよ!ボク以上にチートだ、この精霊獣!

「け、ケント殿下...とんでもないですね、シルフィちゃんは。」

「うん、本当にすごい。すごすぎるよ!」

それを聞いたシルフィは得意げに翼を広げるのだった。

なんだか可愛くてついいいお肉をあげてしまった。



その日の夕食、家族全員がそろい、テーブルに着く。


「エルヴァ、執務は覚えたか?」

「ええ、ほぼすべてできます。それと父様、カルマ連峰に発生した迷宮のことですが...」


「エファ姉様、今度の縁談も断ったって本当ですか?」

「ええ、本当よ、アイリ。何度も言ってるけど私は結婚はしないの。」

「エファはほんとに頑固ねえ。市井に好きな殿方でもいるの?」

「いませんよ。私はどこかの誰かと一緒になるよりも大好きな家族と過ごす方がいいんです。今はケントもいるんですからなおさら結婚なんてしたくないわ。」

まーた蹴ったのかよ。もう立派ないきおく...ヒッ!エファ姉様の鋭い視線がこっちに飛んだような...。気のせいかな?


「あっ、ケント!魔獣狩りの許可もらったよ!3日後に行くことになったから!」

イルシア姉様がそう言った途端、雰囲気が変わり、父様とマルク兄様以外の家族が一斉にこっちを向いた。

「えっと、どうしたんですか?」


「ケントが魔獣狩りですって?あなた、私は聞いてないわよ、どういうこと?」

母様が父様に詰め寄る。今まで聞いたことのない声色だ。超怖い。顔は見えないけど。

「そうよ、お父様。どういうことでしょう?ケントに何かあったらどうするつもりですか?」

エファ姉様もかなり鋭い声で話している。いつもの優しい目つきは消えていた。

「これから説明しようと思っていたところだ。」

「なら早くしなさい、あなた。」「納得のいく説明をしてくれませんと絶対に認めませんわ」

こ、怖えぇ!いつもの優しい母様と姉様はどこ行ったんだ?ボクは絶対怒らせないようにしよう、ゼッタイ、ゼッタイに!ゼッタイです!!



詰め寄られた父様は、ふうと息をついて話し出した。


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