第70話・女神、応接室で一杯ひっかける【前編】

「うう、緊張するな。まさかテイさんの知り合いが女王様だなんて……。」


 俺は王都の中枢、俺たちは王城の応接室に通されている。


 目的は空魔将アンドリューの根城に潜入するため。


 根城は王都の裏の山脈にあると言う事で飛空挺を手に入れなくてならない。


「んぐんぐんっぐんっぐ、……ぷっはああああああああ!!」


 そして応接室で白昼堂々とビールを飲む駄々っ子女神。


 これは二日酔以上に頭が痛い……。


「ガイアちゃんばかりズルいです……、私もビールを飲みたいうううううう!!」


 げえ……、カンナが駄々をこね始めちゃったよ。


 ここは王城だぞ? 下手に粗相を働いたら捕まるんじゃないのか?


「な、ああ。ガイアもお城で酒は控えようよ?」


「へ? 大丈夫よ、ここの王族は私の正体を知ってるから。」


「……どう言う事?」


 ガイアは自信満々な様子で俺に答える。だが当の俺は意味を理解できないのだ。


「この国の王族はマザードラゴンと繋がりがあるから、私の事も知ってるのよ。」


 つまり知り合いの知り合いって事か?


 確かに良く見ると俺たちとガイアでは接客に差がある気がする。


 ガイアには高級ビールと唐揚げが出されているのに、俺たちには粗茶とタクアンだけ?


 納得いかねえ。


 どう考えても俺たちの方が世界に貢献してきたと思うんだけど?


 と、俺が頭を抱えていると応接室の扉が開く。


 扉の先から姿を現した人物とは……。


「おーっほっほっほっほっほっほ!! 女神ご一行様、寛いでらっしゃいまして!?」


 ツインドリルのお姉さんだった。


 金髪にツインドリルって、昭和のテニス漫画の登場人物みたいだな?


 この人から危険な香りを嗅ぎ取っているのは俺だけか?


「……初めまして。俺は丸木 汐、テイさんの紹介で来ました。まさか王族の方を紹介してもらえるなんて。」


「宜しくってよ!! それにリセさんの娘さんもいるのでしょう!? リセさんのためなら、私は何を差し置いてでも助力しますわ!!」


 リセさん。どうやら、この人もカンナのお母さんの知り合いでもあるらしい。


 レイさんから始まり、テイさんにマイさん。カンナのお母さんは色んな人から愛されているようだ。


 俺は思わず表情が綻んでしまった。


 しかし、この人は一段とキャラの濃い人だな。


 如何にもな、お嬢様キャラだと思う。年齢は……マイさんと同じくらいか?


 胸の大きさは…………うん。今まで出会った女性と比較にならない程にデカい。


 胸当てを装着しているからか若干控えめに見えるが、あれは凶器だ。


 およ? 横にいるパベルを見ると、彼女は自信でも無くしたかのように突っ伏している。


「ううう……、この差は抗えねえ。どうして世界は俺に試練を与えてきやがるんだ……。」


 彼女は精神崩壊を起こしてしまったらしい。今は、そっとしておこうか。


「カンナ、挨拶した方が良いんじゃないか?」


「あ、はい!! カンナです、初めまして!!」


「……リセさんに良く似ていますわね? テイやマイの血を受け継がなくて安心しました!!」


「テイさんとマイさんの血?」


 ツインドリルの人の動きが止まる。口に扇を当てながら、優雅な佇まいのままだ。


 そして、僅かに考えに耽る様子を見せる。


「……あなた、テイたちから何も聞かされてないのですか?」


「?」


 ツインドリルの人は眉を顰めて、ため息混じりに口を開いた。


「はあ……、テイも説明に手を抜きましたわね? あの二人はリセさんの腹違いの姉。つまりカンナさんの叔母にあたります。」


 マジか? カンナが二人の、特にマイさんの血を受け継がなくて良かった……。


 俺は安堵のため息を吐く。と言うか、そろそろツインドリルの人も名乗ってくれないかな?


 名前を教えてくれないのなら『ツインドリル姉さん』って勝手に呼ぶけど?


 さすがに王族に対してそれは失礼だとも思うわけで。


「そろそろツインドリル姉さんの名前を教えてくれない?」


 ガイアが言っちゃったよ!!


 俺はツインドリル姉さんがガイアの発言で気分を害していないか心配になってしまった。


 この人は曲がりなりにも王族なわけで。


 俺は恐る恐る視線を向ける。


「これは失礼しました!! 私とした事がガイア様に無礼を働くとは!! ……サウザンディ王国が現女王のヴィーナスめにございます、以後お見知り置きを」


 おお……、女王様がガイアに膝をついて挨拶をしている。


 俺は普段の駄々っ子女神を見ているからな。この光景は斬新としか言いようがない。


 ガイアは肩書きだけは女神なんだよね?ガイアって肩書きを中身で台無しにするタイプだから。


 例えツインドリル姉さんがガイアの正体を知っていたとしても心配がつきないのだ。


「ガイアって本当は偉いんだ?」


「汐おおおおおおおおお!! お願いだから私をペット扱いしないでよおおおおおお!!」


 はっ!? 俺は思わずポケットからお菓子を出してしまった。


 いつの間にか俺はガイアが餌をあげれば静かになる犬か猫だと思っていたらしい。


 だけどね……。

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