第5話
俺は、のえるちゃんを知ってしまった。だが、それは推さないという意味ではない。のえるちゃんはのえるちゃん。遥は遥だ。
「ていうか、いちずって押崎さんみたいな清楚系が好きなんだと思ってた。どう?性癖こじらせそう?」
「VはV。現実は現実だよ。お前、意地悪いぞ」
意地悪い笑顔はどことなく、のえるちゃんの笑顔と重なってしまった。うん、かわいい。いやいやいや! こいつは男ッ! 惚れちゃダメだ、惚れちゃダメだ惚れちゃダメだ......
「なんの話してるんですか?」
「うわぁ!! 押崎さん!?」
「なんです? そんなに驚いて......。というかそのままで」
もう隠さずに写真を取り出す始末。俺は彼女を止められない。遥にもやんわり彼女の推しが知れ渡り、それを俺と半分勘違いして推してることもばれてしまった。
「ちょっと面白いから黙ってたけど、ジン君とこいつ、どこが似てるの?」
「顔です! 声は本人の方が好きですが、供給が二倍になったのでなおヨシです」
「ていうか、反応を見る限り押崎さんてBL本とか精通してたりする?」
「な、なぜそれを!!」
「一ノ瀬ジンくんって男性Vと絡み多かったからそういう人たちがファンになりやすいなのかなって憶測だけど」
いや、おまえコラボしてるんだから知ってるだろ。と睨みつけてしまったが遥にも見つめ返されてしかもウィンクする始末なので本当にこいつは魔性のセンスがある。認めざるを得ない。
「実は......ごめんなさい! 二人の写真トレスしてオリジナルBL、SNSにアップしてました!!」
そういうとスマホのSNS画面を見せると確かに眼鏡の形しか合ってない美化された俺と美少年まんまの遥が名前を差し替えられてイチャイチャラブラブしてる。うーん、この......。複雑!!
「なるほどねぇ。絵うまいし、構成もしっかりしてる。俺らが題材だってことを除けば」
「ひぇ!! 美少年くんが褒めてくれるのは最高ですね!!」
「まあ、BL読んだことないけどいいんじゃない? 今時の尊いものって感じで」
「誉め言葉録音するんで、もう一度お願いします!!」
「二度は言わねえよ」
「ツン要素頂きました。ごちそうさまです」
はぁ......。ほんと、ブレないというか。でも俺のことは別に好きというわけじゃないんだよな。あくまで推しと似てるからの関係、ただそれだけ......。異性としては響くものがある。
「押崎さん! 今度一緒に」
「それは結構です。一緒にいるだけで何回倒れるかわからないんで」
「混濁してるなぁ」
「いや、分けたいって意味じゃない? お前も、分かるよな?」
間接的だが釘を刺された気がした。自分はのえるちゃんであってのえるちゃんではない。ただ一人の雲母遥だと念押ししているようにも聞こえた。それが何よりも今の彼との距離を遠くさせているようだった。
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