十章 「変化と本音」
色々彼女とのことを何度考えても結局ここにたどり着く。
俺たち二人は本当に似ていない。
考え方も、価値観も、好きなことも、何から何まで全然違う。見た目も身長差があってでこぼこ、服装の好みも違う。
同じ人間でこんなに違うものかと驚くぐらいだ。
それなのに、毎日連絡を取り合っている。
これは傍から見れば仲がいいと呼ばれるだろう。
でも統計的にみれば、おかしなことだ。似たもの同士が仲良くなるのが大多数だ。
しかも自分が生きてきた中でも、自分と真逆の人と仲良くなったことがない。
そういう意味から、彼女は俺の中で異質だ。
だから今の自分の状況をどう捉えていいか戸惑っている。
彼女とどういう形になりたいのだろうか。
ただ流されてるだけ?それとも好意があるのか?
物事を難しく考えすぎてるのかもしれない。いつも考える癖が俺にはある。
そんな時はぼーっと星を眺めるのがいい。星はいつも輝いているから。季節によって星空も違った景色を見せる。
そういえば一つの変化があった。
それは最近「よく笑うようになったな」と友達に言われるようになったことだ。
前はそんなに笑っていなかった。
というか、他人に合わすことが多かった。
誰かが笑っていれば笑うし、はしゃいでいたらはしゃぐというようにその場に合わしていた。自分から笑うことはしなかった。
それは他人の目が気になるからでもある。
そんな俺が笑うようになった。自分でもびっくりだ。
彼女の笑顔が移ったのだろうか。
そんな考えが浮かんで、それも悪くないなと思った。
それにしても、最近よく彼女のことが頭に浮かぶ。
そして、「好きなことも」と俺は頭を抱えた。
また、やってしまったからだ。
俺は彼女に「映画好き?」と聞かれた時、好きでもないのに、「好き」と言ってしまった。
その後もメールで話題になれば相手に流され、しかも「映画を観に行こう」と言われて、「いいよ」とまで言ってしまった。
相手が喜ぶことを考えると違うと言えなかった。
いや、それは単なる言い訳だ。
ただ俺が弱いだけだ。
人と向き合うの恐くて、できない。
こんな自分は嫌だといつも思っている。
いつもならそのまま好きで通して相手に流されるのだけど、彼女に対してはこれ以上自分を偽ってはいけないと思った。
だからはっきり自分の本当の気持ちを言おうと思った。
「最低」と言われても仕方ない。それだけのことをした。
でも彼女に言われると悲しいなと思った。
映画当日。
待ち合わせ場所で俺はチラチラと時計を見ていた。
彼女を待っている時間が今日はすごく長く感じる。
一本のタンポポの花は、アスファルトの下から一生懸命花を咲かせている。
正直言うと恐い。逃げ出したいぐらいだ。タンポポのように強くなりたいと思う。春に強さを感じた。でもやはり春は別れの季節なんだろうかという考えが頭によぎった。
彼女がやってきた。今日もきれいめな服装だった。きれい系より俺は可愛い系の女性が好きだ。こんな時でもそんなことを考えてしまう自分がいた。やはり最近の俺はおかしい。
俺は彼女の前で頭を下げた。
人がたくさんいる駅前。いつも人の目が気になる。人がどう思ってるか気になる。でも今はそんなことどうでもよかった。ただ彼女に謝りたかった。
「ごめん。映画なんて本当は興味ないんだ。好きじゃない」
「えっ?」
彼女は驚いていたけど、それ以上は言葉にしなかった。
「聞かれて違うって言えなかった。周りに流されて、自分の意見を言わず相手に合わした。そんなことしても何もならないよね。意味わからないよね。でも小鳥遊さんには自分を隠しちゃダメだと思ったから本当のこと伝えた。今までだましていてごめんなさい」
沈黙が流れる。やはり呆れて怒っているのだろうか。背中から汗が流れる。
彼女は「じゃあ秋月さんは何が好きなの?正直に教えて。ゆっくりでもいいから。今日はそこに行こうよ」とそっと手を握ってくれた。
握られた手には温かさが伝わってきた。理想の形とは程遠いけど、初めて彼女と手を繋いだ。彼女ってこんなに温かかったんだと今気づいた。
俺は唾をゴクリと飲み込んで、言葉を思いっきり吐き出した。
「服が好きだ。服を買いに行きたい」
「服屋さんね、じゃあそうしましょう。私の服はもちろん秋月さんが買ってくれるのよね」
「それはもちろん。喜んで買わせていただきます」
「よし、じゃあいこー」とふふっと彼女が笑った。
その笑顔一つで、すごく心が落ち着いた。
話したことで心がすっきりして楽になった。話してよかったと思えた。彼女のその時の笑顔は妖精を思わせるものがあった。
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