第15話:四肢欠損に父親を
日ノ出キキから譲り受けた、誰にも使われることのないビルの空きオフィスに最上とソフィアは身を置く。元々何かの事務所だったらしく、ほこりを被ってはいる豪奢な机や、ふかふかのソファが残されていた。ソフィアの生命線とも言えるテレビもある。半透明のガラスの仕切りで区切られている中には水道と二つのガスコンロ、それに冷蔵庫まである。寝るにはソファを使えばいい。わがままを言わなければ生活できる環境だ。唯一風呂だけは外のシャワールームを使わなくてはいけない。
「ここも久しぶりだね」
そう言ったソフィアは、ほこりを払ってからソファに座った。
最上とソフィアがここに来たということは、つまるところファミリーにいるのを危険と判断したからだ。
(朧火には裏がありすぎる。とてもじゃないけど、信用できない)
それに加えて、朧火を中心にして進んでいるという化物プロジェクトの文章を見つけてしまったのだ。朧火が危険でないと判断するほうが無理だった。
だから最上は決断した。伊吹荘には帰らないと。
「また二人ぼっちだね」
ソフィアのつぶやきに、最上は肩をすくめる。
敵を警戒する生活を最上とソフィアは再開する。二日と半日たった。テレビ局が忙しいのはわかっているが、最上は仕事を休んでいる。秋月との直接的な接触は、念のためできるだけ避けたい。
(……一生こんな生活が続くのかな)
ファミリーに属する前だったら別になんとも思わなかった。普通の生活を知らなかったからだ。
ソフィアと一緒に何も考えずテレビを見るのも、西天が作った料理をみんなで囲って食べるのも、朧火と喧嘩するのも、振り返ってみれば嫌いではなかった。
(親が子の幸せを願うのは当然とか、とんでもないことを西天さんは言ってたけど)
ファミリーに誘うときに西天は、幸せな生活を約束すると言った。
(確かに、幸せだったかもしれないね。仮初でも、嘘でも)
少し悔しいけれど、きっとソフィアも同じことを考えていると思う。世界で一番大事な人はソフィア・クラウディであるのには変わりないが、二人だけで完結する世界は、それは意外と寂しいものだった。
事務所にあるテレビの音が流れるだけの日々は、空白の時間はすぐに壊された。
ソフィアはソファの上で丸くなって眠り、最上は座ったままいつでも起きれるような浅い眠りを繰り返していた。
それは、道路に走る車が一台もいなくなる深夜の出来事だった。このビルに出入りする他の人間は、深夜まで残らない。警備員の類は雇ってなく、夜の十一時には管理人がビルのドアをロックすることにしている。だから、みんなそれまでに出ていくのだ。
なのに、足音が廊下に響き渡る。
最上の意識が完全に覚醒する。その足音に耳を澄ますと、確実に最上達がいるところに向かってきていた。
豪華な机の引き出しが二重底になっていて、そこに年季が入った拳銃一丁と市販のスプレー缶のような形をしたスモークグレネードが仕込まれているのを最上は知っていた。これでも日ノ出キキがまともな人間でないのがわかる。
弾は合計八発。
(拳銃使ったことないけど、至近距離なら当てられるかな)
ここの居場所は誰も知らないはずなのに。ここ数日、外を出歩くことはあったけれど、尾行は絶対に確認していた。
(誰だ?)
出入り口のドアの傍の壁に、最上は背中を張り付けて外の様子をうかがう。拳銃の撃鉄を起こしておく。右手に拳銃を、左手にスモークグレネードを。拳銃を片手で扱えるくらいの筋力は、まだ残っているはずだ。足音はまさに最上のいるドアの前で止まった。
最上はドアを開け、目の前の人間の額に銃口を突きつける。シングルアクションの拳銃は、引き金が軽いので暴発の危険もあった。
「何の用だよ、朧火」
自分でも驚くくらいに声が熱さを纏っている。ドアの外に立っていたのは、黒ずくめの衣装を身にまとった朧火だった。
「何の用もって、お前らを迎えに来たんだよ。心がめちゃくちゃ心配してんだぞ」
「帰れるわけないでしょ!」
「……なにがあった?」
最上の強い拒絶に、朧火は想定していたより状況が深刻なのを感じ取ったらしい。
「朧火は化物プロジェクトの中心にいる人間なんだろ! そんなやつ信用できるかよ!」
唯一にして最大の疑念を朧火に突きつけた。
バカなやつ。そんなわけがないだろう。
そうやって朧火が最上の言葉を、いつものへらへらした笑みを否定してくれることを願っていた。
「ちょっと待て、最上。お前、それをどうやって知った」
「否定……しないんだ」
だが、朧火の反応は苦々しい物だった。
最上はためらわずスモークグレネードを使う。部屋に煙が溢れ、それに反応した火災ベルが鳴り響く。
「待て! 話を聞け!」
最上は拳銃をしまい、すでに起きていたソフィアを窓の傍まで誘導する。ここは三階。今の最上が飛び降りたら骨が折れるのはわかっていた。あらかじめ作っておいたカーテンのロープを使う。ソフィアが落ちないように最大の注意を払いながら、それを伝って降りた。
大通りを避けて、電灯がないトンネルの中のように真っ暗な小道を駆ける。
(……まだ隠れ家はあるけど、使えるんだろうか?)
朧火は数日とかからず最上の居場所を特定してきた。以前の隠れ家といい、今のビルといい、朧火はすぐに最上達の居場所を見つけてくる。
特定の場所に身をひそめない方が良いかもしれない。ネットカフェを転々とする方が安全そうだ。
(くそっ、なんで僕は引き金を引かなかったんだ! バカか! 一番大事なのはソフィアだろうが! 守るために引き金を引けよ!)
居酒屋の類がない夜のビル街はびっくりするほど人気がない。
「ちょ、ちょっと待ってかなた」
ぜぇぜぇと息を切らすソフィアに、最上は一度止まっていいと判断して足を止める。体力があまりない上に、服がゴシックロリータでとてつもなく走りにくいのだ。家出の期間、血も肉も口にしていない最上の弱体化は乗数的に進んだ。ソフィアを背負えればよかったが、今それをするとむしろ逃げる速さが遅くなるだろう。
「確定だよ畜生。朧火は研究の中心にいる」
明かりに乏しく足元が見えにくいが、ゴミが散らばっているのがわかる。今日は、夏にしては気温が低い。けれど、走ったせいで汗がにじんでいた。
(お先真っ暗だよ)
朧火が、虚構科学研究所が最上とソフィアを実験体として欲しているのか、邪魔者として殺そうとしているのかはわからない。けれども、どちらにせよ捕まったらおしまいだ。
日本全国探しても、最上とソフィアに逃げ場が見つかるか怪しい。
「かなた、ボク達、もうだめなのかな」
「……大丈夫、僕がいる」
人類最強でもない。敵に向けて引き金を引くことすらできなかった最上が。
(結局、朧火の手のひらで泳がされてたわけだ)
汚い大人の嘘なんて聞き飽きるほどに聞いてきたはずだ。なのに、信じてしまった。
(いよいよ人の肉を食べるしかないかな……。寿命なんて気にしてる場合じゃないよのかな)
……人並みでいいから生きたい。
そう思う気持ちが最上に人を襲うことを躊躇させた。
生きることはは意外と楽しい。最強であったが故に死を直視することがなかった最上だけれど、最近はそう思う。生きているのがどれだけかけがえないことか。死を知って人は産まれるのだ。
雲が隠していた月が顔を出し、路地の先を照らす。悪いことは連鎖するようで、そこに人影がぬっと現れた。
(まてまてまてまてまて、ここで君が出てきたらいけないでしょ!?)
動揺が隠せなかった。喉がからからに乾き、犬が舌を出して呼吸をするときのように息が荒くなる。路地の先に立っていたのは、四肢を切断し、心臓を抜き、脳みそを破壊し、肉塊にしたはずの新神定理だった。
「探したぞ。最上彼方」
女子にしては高いすらりとした体躯も、刃のような目も健在。何度殺そうとも、ことごとく生き返ってくる。
最上が銃口を新神の方に向けようとした頃には、懐に潜り込まれていた。最上には瞬間移動したように見えた。ちょうどへその部分に、熱い感触があった。
「カぱっ!?」
胃液と血が喉を逆流する。新神の腕が土から植物でも生えているように最上の腹に突き刺さっていた。がくんと体から力が抜ける。
「かなた! かなたぁ!」
「最上彼方、無力化完了」
崩れ去る最上に背を向けると、新神はソフィアの方に向かう。
「ま、て――」
最上の視界は赤く点滅し、ぐらぐら揺れていた。かろうじて新神のくるぶしを右手で掴む。ゴミを見るような目つきで新神が最上を見下ろした。
「ソフィアを、傷つける、な」
「それは私に言ってるのか?」
最上の右腕を、掴まれてない方の足で新神は踏みつけた。
「あぎッッ!? そう、だよ」
「人にお願いするときは、もっと媚びへつらうべきだろう」
「……」
「ほら、言え。お願いします、ソフィアを傷つけないでくださいって」
「お願いします……ソフィアを傷つけないでください」
新神の口元に三日月状の笑みが浮かぶ。
「次はそうだな、人類最強は新神定理ですと言え」
思い返せば、最上も自分の戦闘能力の高さにアイデンティティを持っていた。新神の人類最強にこだわる気持ちは少し理解できたが、同時に哀れに思った。腕っぷしの強さなんて、社会から見ればハリボテの強さだ。ファミリーや秋月と関わってきて、最上はそれを知った。現に、新神だって第三次世界大戦を一人で終わらせるほどの力を持っていながら、虚構科学研究所の言いなりだ。
「……新神定理が、人類最強だよ」
だが、ハリボテの力も人間関係を断ち切られ、助けを求める人間すら失った輩には効果的だ。
最上には新神に助けを請うことでしかソフィアを守れなかった。
「よく言えたなぁ」
ばぎんと最上の右手が音をたて、折れた割りばしのように折れ曲がる。
「あぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ」
「すっかり弱くなったな」
「やめて!」
ソフィアが最上から新神を引き離そうとするが、構わず左手、左足、右足と続け様に骨を折られる。脳内物質のためか、徐々に痛みに対する感覚が薄くなっていった。
「鬱陶しいな。ソフィア・クラウディは持ち運びやすいように手足をもいでおくことにしよう」
最上のお願いなんてなかったかのように、新神の目がソフィアを見下す。
(ダメ――)
新神の爪先がソフィアの肩に食い込む。新神にとって、ソフィアの腕を切り落とすのは、豆腐を真っ二つにするくらいたやすい。
「痛ッ――」
「やめ、やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
狙いを定めた手刀が振り上げられる。
その時だった――。
「人の話は最後まで聞けって、最上」
この時間帯にまず人が通ることのない路地に、新たな声が響く。ソフィアの肩から先を裂こうとしていた新神の手が止まる。
ここに来るだろう人間は限られていた。
「朧火……不死鳥の欠陥品か」
最上達を追っていた朧火がそれに該当する。
路地の先に肩で息をする朧火が立っていた。月が照らす中でも、朧火の黒装束は夜の陰そのものだ。
「新神ちゃん、うちの家族に手を出されては困るんだが」
ファミリーと虚構科学研究所が結んだ協定の話を新神は持ち出す。
(……けど、新神が朧火に対してその話を振るってのはどういうこと? 二人はグルじゃないの? 朧火は虚構科学研究所に属してないってこと? 新神と朧火が協力して僕とソフィアを殺すなり連れ去るなりすればいいのに。けど、朧火が化物プロジェクトの中心的人物なのは確かなんだ。わけがわからない)
「ふん、上はもう約束なんてどうでもいいらしいからな。この二人を捕まえて来いというのが命令だ」
ソフィアを放り捨て、新神は朧火の方に向いた。事態は一向に改善していない。ただ、無駄に死体が出来上がるだけだ。全盛期の最上と数十秒殴り合えるのが新神。稽古で朧火の実力を把握していた最上には彼が絶対に勝てないことがわかった。確かに知識や技術は最上が戦ってきたプロフェッショナルにも劣らなかったが、新神の戦闘力はそういうのが通用する次元ではない。
(なんとかしないと)
思いとは裏腹に最上の体は全く動かない。それどころかどんどん意識が遠のいていく。
「おいおい勘弁してくれよ。人類二番目なんて相手にしたくないぞ」
「その呼び方、腹が立つ」
新神が朧火に肉薄して拳を放った。最上ですらわずかにしか見えなかった顔面を狙った拳を、朧火は完全に予測していた。それは見えていたのでは絶対にない。新神の思考を読み切って、先に動いただけだ。
新神の拳の軌道上にあった顔を逸らし、代わりに右手を軌道上に置く。朧火の行動の意味が分からなかった。コンクリートすらやすやす砕くその拳の破壊力を朧火は知っているはずだ。案の定、朧火の手袋を付けた右手は血をまき散らしながら、さながらシャボン玉のようにはじけた。
勝負がついた、いや、はじめから決まっていたと言うべきか。
「なっ!?」
新神が声を上げる。
イレギュラーが発生した。
炎。
燃え盛る炎が朧火と新神の間に巻き起こる。それが新神の意識を朧火から逸らし、視界を遮った。朧火はそれを見逃さない。原型がわからないくらいぐちゃぐちゃになった拳を、新神の口の中にねじ込んだ。普通ならボクシングの達人が拳を放ったところで新神は全て見切ってかわしてしまうだろう。意識を逸らしたからこそ、朧火の行動が成立した。
「がぼぼっ!?」
「忘れたのかよ、俺の体質。まぁ、俺が不老のDマンだってことしか興味ないか」
朧火が新神の口から手を引き抜く。すると新神の口から、ドラゴンが口から炎を吐くかのように火があふれ出す。声も上げられず、新神がもだえ苦しむ。肺や喉、内臓を直接焼かれている。タンパク質が焼ける臭いが辺りに満ちた。
「忘れてるようなら思い出させてやるよ。俺の体は発火体質なんだよ。くそ重い耐火性の服着て、発火しやすい部分を出さないように生活しないといけないくそ面倒くさい体質だ畜生」
火はまったく消える気配がない。新神がソフィアの体を強引に抱え込んだ。そしてそのまま人間離れした跳躍力で空を飛ぶ。
朧火はソフィアがさらわれることまで予定調和であるかのように新神を見送り、最上の元にしゃがみこんだ。彼の原型がわからなくなってしまった右手は、自身の発火体質とやらのせいか燃え盛っている。
「ちょっとは頭が冷えたか」
「そ、フィアが――」
「わかってるよ。けど、俺の一部位と引き換えに一人守れたなら十分だろ」
確かにそうだ。普通のDマンが新神を相手にして命がある時点で奇跡に等しい。
「朧火、一体何者なの――」
「ここを離れながらそれを話す」
耐火性の高いと言っていたズボンのポケットに朧火は右手を入れて消火する。そして西天に携帯で連絡を入れてから、最上を背負いあげる。朧火は十分長身と言える体格で、反対に最上は身長が低いので背負うのは容易だった。
「どうせならソフィアちゃんを背負いたかった。まぁ最上も軽いだけましか」
最上はほとんどされるがままだった。ソフィアをさらった新神を追おうにも、両手両足の骨は折れているし、体力を消耗しきっていた。
人気のない道を選びながら、朧火は歩く。
「俺について話しておく。お前ら、さっきまでいた事務所に残してあった資料を見たんだな?」
朧火が化物プロジェクトの中心と書いてある例の紙だ。
そうだよ、と最上は返事したつもりだったが、かすれてほとんど声が出ない。
「俺が化物プロジェクトの中心だってのは本当だ。間違いない。そもそもあれは俺が存在したから故に立った計画なんだ。さかのぼれば三、四十年位前からあった計画になる」
おんぶになれているのか、朧火の背中には安定感があり、謎の安心感もあった。意識が飛びそうになるが、最上は何とか朧火の話に耳を傾ける。
「さっきも種明かししたが、実は俺はお前に嘘をついていたことがある。前に『不老なんて存在しない』とかほざいたことがあるが、嘘だ。すまん。他でもない俺自身が不老なんだ。かれこれ百二十七年生きてる。今まで不死なのを教えなかったのも、お前らから憎まれたら嫌だっていう俺のわがままだ」
(あぁ、そうか)
最上はなんの違和感もなくそれを受け入れた。今まで、そうでもないと説明がつかないことが多すぎた。朧火がバブルの時に稼いだと言っていたこと。朧火の異常ともいえる人脈の広さ。資金力。若者に厳しい古谷三蔵と親友と言えるほど仲がいいことなど。
「化物プロジェクトの中心ってのは、俺の遺伝子を中心に研究が進んでるってことだ。化物プロジェクトの目的は不老不死。神の領域が与えた俺の不老の遺伝子に、不死を付加してしまおうって計画だ。計画で産まれた子供は、不老じゃなくなるか、定義的には不十分な不死性で産まれる。お前の持つ完全と言っていい不死性は、レア中のレアだ」
「……もしかして、僕やソフィアは」
「まぁ、なんだ。見てくれはまったく違うけど、遺伝子的には俺の子供だな」
西天が出会った時に言っていた『私たちの子供』というのは、嘘ではなかった。朧火の子供である最上とソフィアは、朧火の妻である西天の子供でもある。
自分を背負う男が、遺伝子レベルの父親。最上は何とも言えない複雑な気分になった。
「一回しか言わないが……ソフィアちゃんは言うまでもなく、最上、お前にあーだこーだ言うが、実のところ死ぬほど可愛い俺の子供だと思ってる」
「鳥肌が立った」
「お前なぁ……。けどまぁ、安心しろ。俺と心が最上とソフィアちゃんを見放すことなんてない。ソフィアちゃんだってすぐに助けに行く。どんな手段を使っても助け出す」
「あと一つ、疑問があるんだ。どうして、僕とソフィアの居場所がわかったの?」
「それは簡単だ。俺が日ノ出キキだからだ。元日ノ出キキ、だな。二つめ……いや三つめの俺の名前だ。戸籍上ではもう完全に老いぼれじじいだから、日ノ出キキとして表で行動するのは不便なんだ。ヤクザを装ってたな。最上に依頼したことあったろ? 明らかに人間の死体が入ってそうな荷物を富士山に捨てて来いって。あれは隠れ家を与えるための口実で、中身はただの重りだ」
「……そうか」
朧火に対する疑念は、最上の中であらかた氷解していた。
「僕は……また間違ってたのか」
「いや、あんな資料見たんだ。ソフィアちゃんを守るためにした最上の対処は正しかった。今回は俺が悪い。俺がもっと俺自身のことを話しておけばよかった。後ろめたさとか、話したくないって思う俺自身の都合を優先してしまったんだ。すまない」
最上は意外に思った。いつもへらへら笑っていた朧火は、後ろめたさを覚えるタイプの人間ではないと思っていた。ただ、年を重ねて培った仮面が分厚くて本心が見えにくいだけなのかもしれない。
話すべきことは一通り話し終え、居心地の悪い恥ずかしさを最上は感じていた。
(ただ、回復するまでの間、もう少しおんぶされててもいいかな)
朧火にだけは自分から頼りにしたくないと思っていた最上だけれど、はじめてそう思えた。
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