エピソード51-37

インベントリ内 休憩所 VIP席――


「ただいまぁ~」


 プレイルームから帰って来た静流たちは、食堂に直行したブラム以外は、ソファーのあるVIP用休憩所に行った。

 そこには達也、蘭子、真琴、サラ、鳴海がいた。

 

「おぅ静流!もう終わったのか?」

「お疲れ。早かったね」

「お疲れ様……です」

「お疲れ様です、静流様」チャ


 ソファーに座っている四人から、労いの言葉が出た。 

 一人立ち上がって静流に向かって来た。


「お静! 無事か? 何もされて無いか?」


 蘭子は静流をあらゆる角度から凝視している。


「大丈夫だよお蘭さん。そんなに心配性だったっけ?」

「むぅ。そんな事より、アッチの部屋で何があったか話せ!」


 グイグイ来る蘭子に圧倒されながら、静流たちはソファーに座った。


 壁際の三人掛けソファーには静流を中央に、シズムと薫子が両脇に座った。

 両隣に置いてある一人掛けソファーは達也と鳴海が座り、コの字型に置いた二人掛けソファーには、カナメ・右京と、真琴・サラがそれぞれ座った。

 テーブルには大画面のモニターが置いてあり、外の様子がわかる様になっている。


「ココって、外より三倍時間が遅いらしいな?」

「うん。もっと遅くしたり、早くする事も出来るよ」

「それだと、外の様子はもっとスローモーになってもいんじゃね?」

「多分都合良く補正が掛かってるんだよ。その辺は僕もわからない。なんたって『神様のアイテム』だからね」


 みんな思い思いの飲み物を飲んでいる。静流は当然の様に二本目のドクポを飲んでいた。


「ふぅ。やっぱMPの消費が激しいのかな?」

「静流クン、 大丈夫ぅ?」

「大丈夫だよシズム、ちょっと疲れただけ……」


 シズムに心配されるが、問題無いと手を振る静流。


「落ち着いたな? さぁ、話してもらおうか?」ズイ


 蘭子が身を乗り出して静流に聞いて来た。


「グイグイ来るわね、この子。リナの後輩ちゃんだっけ?」


 リナの名前が出ると、ピクリと反応した蘭子。


「アネキは、来てないんスか?」

「来てない。人がウジャウジャいる所は好きじゃないって言ってたから、部屋でゲームでもしてるんじゃない?」

「……そうスか」


 蘭子は寂しそうな顔をしたが、直ぐに険しい顔に戻った。


「で? どうだったんだ?」

「聞いてくれる? それはもう大変だったんだから……」


 静流はこれまでに相手にしたユーザーたちの事を多少大袈裟に話した。


「今日だけで何人の耳を掃除したか……美千留にやらされてたのが今頃役に立ったよ……」

「あたしにはしてくれた事、ないよね?」じぃー

「別に幼馴染だからって、必ず起こるイベントじゃないでしょ?」

「むぅ……美千留ちゃんめぇ……」

 

 静流を邪険にしている様で、べったり甘えている美千留に、真琴は怒りを覚えた。

 そんなやり取りを見て、薫子は溜息混じりに言った。


「耳掃除くらいで済めば御の字よ。私なんか……変な性癖が開花しそうで」

「シズルー大尉だよね? 僕のイメージとはかけ離れてて、やりにくかったなぁ……」


 睦美の指示で、マンネリ化を防止する為、何巡目か毎に『シャッフル』を行っていたのだ。


「ホントに『ブヒー♡』って言うのよ? ドン引きものだから……」

「あそこまで陶酔出来るって、ある意味尊敬に値するかも……」

「『どーんと私に任せてっ』なんて言ってたのに、ゴメンね静流……」

「今まで我慢させちゃって、コッチこそごめんなさい……」


 その時の事を思い出し、がっくりとうなだれる二人。


「で、ココにいるって事は、全部終わったって事だな?」


 蘭子の問いに、モジモジしながら答える静流。


「う、うん。実はまだ残ってるんだよね……」

「何ぃぃ~!? まだやるのか?」

「まだお客さんいっぱい並んでた。でもね、もう大丈夫なんだ!」

「何が大丈夫なんだよ! ちゃんと説明しろ!」

「実はね……」


 静流は【複写レプリカ】を取得した事を蘭子たちに説明した。


「な、何だよそれ……忍者? 影武者?」

「影武者か……うん それイイね。冴えてるじゃんか達也!」

「記憶を共有って、学校とか、レプリカに行かせればイイって事?」

「ほぉ……そう言う手もあるのか。意外と使えそうだな。サンキュー真琴♪ クヒヒヒ」


 静流が悪戯を思いついた子供の様にニヤついている。

 真琴たちの呟きが、結果的に静流に入れ知恵している状態になってしまっていた。


「分身、コピー、レプリカ……荒唐無稽すぎて、ついていけませんね……ムヒヒ」

 

 耳を疑う様な内容に、右京は驚愕するばかりだった。

 サラが珍しく発言したと思ったら、とんでもない事を言い出した。


「あの、静流様、レプリカはテイクアウト可能……ですか?」


「「「はぁ~!?」」」


 一斉に睨まれ、たじろぐサラ。  


「ひぃっ、す、すいません……」

「アナタ、顔に似合わず良くそんな事思い付くわね? でかしたわ!」

「えっ!?」


 薫子はサラを叱るのではなく、褒め称えた。


「ち、ちょっと、薫子お姉様、本気じゃないよね?」

「どうかしらね……抱き枕には丁度イイと思うの。忍の分も作ってもらおうかしら? ムフ」


 薫子は天井近くを見ながら、興奮気味に妄想を始めた。


「私もさっき、同じような事を妄想してました。ムフフフ」


 右京も同じ様な仕草で興奮気味に妄想を始めた。


「流石はジン様のご親戚ですね。素晴らしい。仕事にも役に立ちそうですし……」ブツブツ…


 鳴海も同じ様な仕草でブツブツと何かつぶやいている。

 三人を面白半分に眺めていたカナメが、意地悪そうに言った。


「ま、具現化を魔力でやってる限り、そう都合よくは行かないやろ」

〈カナメの言う通り、今のままでは無理じゃな。諦めよ〉


「「「えぇ~!?」」」


 妄想から覚めた三人は、心底残念がった。


「当り前やろ? それより静流キュンの顔、見てみぃ?」

「え? うわ……」


 カナメの指摘で一同は静流の顔を見ると、明らかに不調そうに青ざめた静流がいた。

 静流はテーブルに置いてあった飲み物を手に取った。


「おいお前、それ三本目だろ? ドクポ」

「MPの消費が異常に早く感じるんだ。何かヤバいかも……」


 静流が三本目のドクポをぐいっと仰ぐと、顔色が若干良くなった。


「ふぅ……やっぱ効くなぁ」

「静流、ホントに大丈夫なの?」

「もう少し、もう少しで解放されるはず……」


 先ほどまではしゃいでいた薫子たちも、心配そうに静流をのぞきこんでいる。


「お前、そんなんで完走できるのか?」

「わかんない。でも、アイツらも頑張ってるんだ。僕も頑張らないと……」


 そう言って静流は、残りのドクポを一気に飲み干した。


「あちゃ~、こりゃアカンやっちゃな……」


 カナメは『オーマイガー』のポーズをとった。

 そうこうしていると、また一人VIP席に戻って来た者がいた。


「忍、お疲れ様」

「お疲れ。仮眠室の客は全部ハケたわ。大盛況だった」


 目線に静流が入った途端、忍は瞬間移動した。


「静流! どうしたの? 顔色が悪いわよ!?」

「し、忍ちゃん……あまり騒がないでくれる? 僕は大丈夫だから……」


 静流は動揺している忍を手で制し、落ち着かせようとした。


「薫子! アナタが付いていながら、何で静流がこんな目に遭ってるの!?」

「忍、落ち着いて。これにはちょっとしたワケがあるのよ」


 憤慨している忍に、これまでの経緯をかいつまんで説明する薫子たち。


「……【複写】を取得した、ですって?」

「さっき、初めて使ったの。一応成功したんだけど、全て終わってみないと結果はわからないのよ……」


 そう言って薫子は、ソファーに身を預け、ぐったりしている静流を見た。

 話を聞いた忍は、薫子に聞いた。


「複写した静流って、ウチに持って帰っちゃダメ?」

「「「えっ!?」」」


 それを聞いた全員が、残念な顔をした。


「忍お姉様、わざと言ってるんと違います?」

「うん? 何が? 私は大真面目だけど?」


 忍は腕を組み、首を傾げた。

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