エピソード51-35

インベントリ内 医務室――


 静流が【複写】を取得する為、医務室に主要メンバーを揃え、薫子たちには休憩を取らせている。

 静流は変身を解いており、ロディもデフォルトの豹に戻っていた。

 ノートPCの画面には、メルクが事の成り行きを見守っていた。

 

「あと10分足らずで休憩が終わる。早速取り掛かってくれ」

「わかりました」


 前もってメルク及びロディと段取りを確認し、周囲の目ともしもの時に備え、医務室で行う事となった。


〈おい静流、その魔道具は外せ。術式の妨げになるやも知れん〉

「サチウスの腕輪? すいません、預かってもらえますか?」


 メルクの指示でサチウスの腕輪を外す静流。


「ちょっと待ってくれ……オーケー。預かろう」


 静流に言われ、睦美は皮手袋をはめ、腕輪を受け取ったのち皮袋にしまった。

 この腕輪は、着ける者のオーラに反比例し、『凶悪』を『幸運』に反転させる能力がある。

 この能力を逆手に取り、目立ち過ぎる静流を目立たなくさせる事に成功したのだ。


 カチュアは、急な招集に少しイラついている。


「今から魔法の実験? どうでもイイけど、早く済ませて頂戴」

「直ぐ済みます。イイですか先生? 指示があるまで、何があっても手出し無用ですからね?」

「わ、わかってるわよ……何なのよ、もう」


 睦美がカチュアに念を押すと、カチュアは怪訝そうな顔になった。


「先ずは術式の【ロード】から。ロディ、頼む」

「御意。では静流様、そこに寝て、目を閉じて下さい」


 ロディに言われるまま、ベッドに仰向けになり目を閉じる静流。


「ロディ、これでイイ?」


 静流が目を閉じたのを確認し、ロディはデフォルトの豹から、何を考えたのかほぼ全裸のアンナ・ミラーズに変身した。


「な、何であの子に変身するのよ!?」

「まぁまぁ、落ち着いて下さい」


 アンナに変身したロディが静流の上に乗り、顔を近づけた。


「では、失礼します。むちゅ」


 ロディは静流の唇に軽くキスをしたあと、静流の手を自分の胸に導いた。

 驚いて目を開くと、目の前にアンナの顔があった。


「ア、アンナ!? 何で!?」

「魔法には、『リビドー』が必要なのです。さぁ、遠慮なく揉みしだいて下さい!」


 前にアマンダが、純粋な『魔素』とは、性欲が根源だと言っていた事をふと思い出した静流。

 静流は言われた通り、アンナの豊満なバストを揉み始めた。


「これって、ホントに【ロード】に必要なの?」むにゅぅ

「あふぅ、何でしたら、胸から【ロード】しますか? んふぅ」

「流石に、赤ちゃんプレイは止めとくよ……」

 

 暫くこの状態が続き、アンナの身体は紅潮し、苦悶の表情を浮かべるロディ。


「はぁぁん……イイです。その調子です」


 ベッドでの乳繰り合いをまじまじと見せられ、カチュアはブチ切れた。


「アナタが感じてたんじゃ、意味ないじゃない!」

「感じてはいません。演技ですので」


 ブチ切れたカチュアを見たロディが、真顔でしれっと言った。

 そして静流に向き合うと、また淫靡な表情に戻った。


「し、静流様……興奮してきましたぁ?……ふぁぅ」

「ど、どうかな? 変な気分ではあると思うけど……」


 ロディは次の行動に移った。


「頃合いでしょうか……失礼します! はむぅ」

「んぐっ、んむぅ!」


 ロディが再び静流の唇を奪うと、口元が淡い光に包まれた。



 【ロード】パァァ



 静流の頭をがっちり固定し、ロディは静流の唇をこじ開け、舌をねじ込んだ。

 数十秒続いたのち、淡い光が消えた。


「ちゅぽん。 ふぅ……ロード完了です。むふぅ」


 ロディは唇を離し、満足げにそう言うと、デフォルトの豹に戻った。

 それを見ていたカチュアは、イライラがついに爆発していた。


「これ以上イチャイチャするんだったら、他でやって頂戴!」

「まぁまぁ先生、これからが見ものですよ?」


 ベッドから起きた静流は、額を押さえながらうめいた。


「うっ、イメージが一気に入って来た……」

「静流様、大丈夫ですか?」

「へ、平気……【複製】と【融合】? 成程、そう言う事か……」

〈もう理解したか。やはり静流は魔法の才能が秀でておる〉


 静流の頭の中で、入って来た情報とイメージが定着し、完全に理解した静流。


「睦美先輩、術式の概要は理解しました。これならイケそうです」

「そうか。早速試してみてくれ」

「わかりました。それで、何体【複製】を作ればイイんです?」

「希望は四体だな。そうすればキミも休めるだろう?」

「ですよね。了解しました」


 静流は一度深呼吸をしてから目を閉じ、忍者が術を使う際の様に、九字印の『臨』の印を結んだ。

 そして、目を開くと呪文を唱えた。



「行きます!【複製レプリカ】!!」ポォォ



 静流の身体全体が赤く輝き、左右に影が二体現れ、それが分裂して合計四体の影が現れた。

 四体の影たちの頭上から、レーザー光線の様なものがゆっくりと下に下りて来て、徐々に形がはっきりして来た。


「へぇ。見事なもんね」

「脳内のイメージが鮮明であればあるほど、再現率は高くなります」


 カチュアは感心し、ロディが補足した。


〈しかし、術を発動する時にやる無意味な動作はなんじゃ?〉

「メルク殿、それは聞かないでやって下さい。武士の情けです」


 画面の中のメルクが首を傾げているのを、睦美は苦笑いでごまかした。


「イイんじゃないの? 形から入るのもイメージ力を高める効果はあると思うわ」


 影の具現化が完了し、印を解いた静流は、ため息をついた。


「ふぅ……こんなもんかな?」


 静流の前には、ノーマル・シズルー・シズベール・シズミのS4が、衣装込みで立っていた。

 【複製】で生み出された静流のレプリカたち四体が、オリジナルの静流とシンクロして自分の手や体を見て、睦美に話しかけた。



「「「「フム……どうやら成功みたいです。睦美先輩!」」」」パァァ



「くっ! 五人同時だと、凄い圧だな……」

「レプリカそれぞれが自分の意思を持っています。今はオリジナルの静流様とリンクしている状態です」

〈静流、レプリカとのリンクを切ってみろ〉

「ん? こうかな?」プチ


 メルクに言われ、静流はレヴィたちとのリンクを切った。


「うわぁ……まともに見るとシズルーってかなりイタいね……」

「シズベール君、キミもかなりイタいぞ?」

「シズミって、小学生くらいの時の僕そっくりじゃん」

「目線が低くて、なかなか面白いよ」


 確かにそれぞれが自分の思った事を言い合っている様に見えた。


「これは、想像以上の成果だ……」


 流石に面食らっている睦美に、シズルーに扮したレプリカが話しかけた。


「そう言えば先輩、確かダッシュ7のリクエストもあるって聞いたんですけど?」 

「ああ。そう言う変則的なオーダーもあるみたいだね。対応は出来そうかね?」

「問題無いです。みんな、イイかい? せーの」パチン


 静流のレプリカたちが顔を見合わせ、同時に指パッチンすると、四人共ダッシュ7に変身した。  


「「「「こんな感じで、どうです?」」」」


「う、うむ。非の打ち所がない。完璧だ!」


「「「「いよっしゃぁ!」」」」


 四人のダッシュ7が、輪になってクルクル回っている。

 それを見て驚いている睦美の横に、オリジナルの静流が立った。


「凄いでしょう? 実はね、それぞれのレプリカをモニターする事も出来るみたいです」

「なんと!? リアルタイムでのモニターが可能とは……」


 静流が珍しくドヤ顔で睦美に自慢していると、ロディが話しかけて来た。


「静流様、常時使用はあまりお勧め出来ません。魔力の消費が甚大ですので」

「わかった。気になった時だけにするよ」


 仲良く回っていたダッシュ7が、急に二対ニに別れ、刀を抜いた。



「はぁっ!」ギィィィン!



 睦美の前で、ダッシュ7同士の鍔迫り合いを見せる静流。


「このノリで、サムライレンジャーそろい踏みってのもアリかも」


 オリジナルの静流が、顎に手をやり、そんなことを呟いた。


「クックック……イケる。イケるぞ!」


 【複製】の成功を確信した素子は、レプリカたちに告げた。


「さぁ皆の者、仕事再開だ!」



「「「「えい、えい、おぉ~!!」」」」



 四人のレプリカたちは、刀を天井に掲げ勝どきを上げた。

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