エピソード51-33

ルームA ノーマル静流の部屋


 ルームAでは、恰幅の良い肉食系ヲタ女とロディ扮する静流が相手をしていた。 


「次は、『お姫様抱っこ』でよろしいですか?」

「うん。じゃあ失礼して、よいしょっと」ヒョイ

「うわっ!」


 このヲタ女は、自分が静流を抱っこしたかったようだ。


「軽いね。ちゃんと食べてる?」

「え、ええ。スゴい力ですね……」

「オークの血が濃いからね。でもキミ、イイ匂いがする……美味しそう」

「美味しくは、無いと思います。……そろそろ下ろしてくれますか?」

「おっと、失礼」

 

 抱っこから解放されたロディは、営業スマイルで対応した。


「ではお返しに。ほい」ファサッ


 静流より1.5倍は優にある体格のヲタ女を、初期動作もなく一気にお姫様抱っこの体制に持って行ったロディ。


「アタシをいとも軽々と……強化魔法も使っていなさそうだし……」

「人は見た目ではわからない、って事ですよ?」ニコ


「むっほぉぉぉぉ……惚れた♡♡」


 ヲタ女はロディの営業ニパを浴び、急に恋する乙女モードに変貌した。


「バアちゃんに昔言われたんだ……自分より強いオトコに嫁げ、ってね!」


 上目遣いになり、ロディの胸元を指でつついて来たヲタ女。


「ねぇ、ココだけの話、普段どこで何してるクチ?」

「すいません、そう言う質問には答えられないんです」

「イイじゃんか。何も取って食おうってワケじゃないんだしぃ……」


 諦めの悪いヲタ女に、ロディは溜息をついた。


「ふぅ……仕方ありませんね。言う事を聞かない悪い子は、こうだ!」 


 ロディは、お姫様抱っこしたまま、ヲタ女にデコピンをかまし、【忘却】の魔法を使った」


「きゃふぅぅぅん」ポゥ


 数十秒後、オタ女は目をパチパチさせ、ロディを見た。


「あれ? アタシったら寝ちゃったのかしら?」

「はい。お姫様抱っこ、終わりましたよ」ストッ


 ロディは微笑みながら、ヲタ女を優しく降ろした。


「ご利用ありがとうございました! お帰りはあちらになります」

「はーい。なぁーんか、変ねぇ……」


 首を傾げながら出口用ドアから出て行くヲタ女。

 ロディの口から、珍しく愚痴がこぼれた。


「思ったより厄介ですね。ガチ恋勢は……」




              ◆ ◆ ◆ ◆




ルームD シズミの部屋


 ルームDでは、ブラムが扮している小学生くらいの静流が、ショタコンらしきヲタ女の相手をしていた。


「ねぇねぇ、『人間イス』ってホントにこれでイイの?」

「ええ。バッチリよ。ムフゥ。イイ匂い……」


 シズミはヲタ女の膝にちょこんと座っている。

 ヲタ女は後ろからシズミを抱きしめ、髪の匂いを嗅いでいる。


「これが『あすなろ抱き』だね? って僕、何もしてないんだけど?」

「イイのよ。シズミ君は『される方』だからね……あぁ、たまんない」

「キャハハ、お姉さん、くすぐったいよぉ」

「あぁ、癒されるぅぅ……」ぎゅぅ 


 次にヲタ女は、カバンからチョコを出した。


「シズミ君、一緒にチョコ食べよっか♡」 

「うわぁい。お姉さん大好きぃ♡」ぎゅぅ


 シズミは大喜びでヲタ女に抱き付き、胸に頬ズリをした。


「あっ、シズミ君が私を求めてる……嬉しい」


 ヲタ女がシズミの口にチョコを差し出す。


「はい、あーん♡」

「あーん。甘ぁーい」


 チョコを頬張って無邪気に笑っているシズミを見て、ヲタ女は満足げに微笑んだ。


「お姉ちゃん、手にチョコが付いてるよ。勿体ない♪」ちゅぽっ 


 そう言ってシズミはヲタ女の指を口に含み、チョコを舐め取った。


「ちゅぽ。お姉ちゃんの指、おいしー♡」

「きゃっふぅぅぅ~ん♡」




              ◆ ◆ ◆ ◆




ルームC シズベールの部屋


 あのあと数人接客した静流は、余裕が出来たのかヲタ女からのオーダーを可能な限り忠実に行った。

 腕輪を装着してからは、取り敢えず失神に至る事は無くなったからである。


(次は床ドンだったな……)


 ヲタ女をベッドに寝かせ、股間の辺りに膝を立て、顔を近づける静流。


「シズベール様、下半身が……熱い……です」

「本当だ……こんなに硬くなって……僕がすぐに楽にしてあげるよ♡」 

  

 当然ながら、お互いに局部のおさわりはご法度である。


「今日あったイヤな事は、僕が忘れさせてやるよ……んむ」


 ヲタ女の唇にあと数センチという所でピタッと動きを止めた静流。


「んむぅぅぅ……へ?」


「はい♪ お疲れ様♡ お帰りはあちらでーす」


 実戦から学んだ静流は、『寸止め』を習得したのだった。


「あ、ありがとうございました!」

「はーい。気を付けて帰ってね♪」


 ヲタ女は晴れ晴れとした顔つきで出口用のドアから退室した。


「次の方、どうぞー」


 ゆっくりと流れる時間の中で、至高の時を過ごすユーザーたちであった。




              ◆ ◆ ◆ ◆




インベントリ内 仮眠室――


 仮眠室では、睡眠カプセルは常時満員であった。

 と言うのも、一度ならず二度目を所望するユーザーが少なくなかったからだ。

 部員が聞いた所によると、『他のシチュエーションも体感してみたい』との事だった。

 丁度一回分の稼働が完了した所だった。


「ピピピピピ」


 時間となり、電子音が鳴った。


  ブゥゥーン


 睡眠カプセルの蓋が開き、角度がゆっくり鋭角になっていく。


「お疲れ様でした!」


 モブ子に偽装したレヴィたちが夢を見終わった所だった。


「ふぅ……皆さん、意識レベルは保てていますね? 私はヤバかったです」

「はぁ……やはり見ておいて良かったでありますぅ……」

「ホント、この機械って脳ミソがおかしくなるよね?たまんないわぁ」

「パスするか迷ったけど、見事だったわ。忍さん、腕を上げたわね……」

「うほぉ♡ 至福の3分間でした」


 体験済みのモブ子たちは、特にダメージもなくカプセルから出て来た。


「みのり、終わったよ?」

「う、うぅ……萌? 静流様は?」

「寝ぼけてないで、本番前なんだから、さっさと穿き替えるよ?」

「穿き替える? うわっ、大変だ……」


 今回が初のモブ子たちは、紙オムツの恩恵を受けていた。


「さ……朔也ぁ……」

「神父? うっぷ……オスの匂いが……」

「ん? ひぃっ! 何という事を……聖職者の私が……」

「懺悔は後。一刻も早く処理を済ませた方が良いと思うが……」


 部員が声を張り上げた。


「意識がはっきりして来ましたら、あちらでオムツをはき替えて下さい!」

「ご希望の方、新しいオムツはコチラでーす!」

「こちらで後処理出来まぁーす! おしりふきも完備でぇーっす!」

「使用済みの紙オムツは、こちらにお願いしまーす」


 夢から覚めた者たちが次々にボックスに入り、後処理を済ませている。


「はーい。この後アクターとの交流希望の方は、こちらにお並びくださぁーい!」


 次の希望者は、整列しプレイルームの方に誘導されて行く。

 オムツを新品に穿き替え、次の戦いに望むモブ子たち。


「装備は万全。では各々方、本丸に向かいます」


 そう言って顔を引き締めたレヴィに、仁奈が聞いて来た。


「ちょっとタンマ! 四人の内、どの子が本物の静流クンなの?」

「そ、それが……リリィ殿が言うには、『極秘』らしいです」

「そんなぁ、それは無いでしょう?」

「しかも、数回毎に抜き打ちで『シャッフル』するとの事らしいです。困った事に……」

「な、何ィ……」

 

 それを聞いたココナは、一気にテンションが下がって行った。


「終わった子たちに聞いたら?」

「無理です。出口が違うので、コンタクト出来ません」

「大体、『本物』が存在する事自体、シークレットですし……」

「誰か先に入って、念話で教えて頂戴!」

「そんなぁ。少佐殿は『人柱』になれって仰るんですか?」


 モブ子たち9人が、隅っこでやいのやいの言っていると、係の部員に声をかけられた。


「そちらの方々は、団体様ですか?」

「え、ええ。そんな所よ」


 それを聞いた部員は、しめた!とばかりに提案して来た。


「只今、お隣が混み合っていまして、団体様ですと、複数人でお楽しみ頂けるのですが、如何でしょう?」


 その提案に、モブ子たちは互いの顔を見合わせ、頷き合った。


「イイわよ。時短されるよりは増しでしょうし」

「ありがとうございます!」


 良い返事をもらえた部員は、微笑んで頭を下げた。


「九名様ですと、三人3組に分けて入室されますか?」


「それだと一部屋余るわね……二人を3組と三人を1組でお願いするわ」

「はい! かしこまりました! では順番までお持ちください!」


 そう言って頭を下げた部員は、上司に報告しに行った。


「マンツーマンではなくなりましたが、致し方ないですね……」

「では、皆さんの希望はどの部屋ですか?」


 オーダーシートの項目を同時に指差した。


「せーの、ココ!」ビシ


 結果は、奇跡的に被らなかった。


 ルームA 静流           アマンダ 仁奈

 ルームB シズルー         ルリ みのり

 ルームC シズベール        ココナ ジル

 ルームD シズミ→ダッシュ7に変更 佳乃 萌 レヴィ


「事前に打合せしたかのように分かれたわね?」

「少佐、オーソドックスな静流殿を選んだようだが、安易に考えたな?」

「安易も何も、素の静流クンが一番カワイイでしょうに」

「チッチッチ。四人のアクターは、薄い本のキャラを演じているのだ。ココに素の静流殿はいない」

「う、そうよね…確かに安易だったみたい」

「シズミ君も捨てがたいのでありますが、やはりダッシュ7様がイイのであります!」


 レヴィは一同に念を押した。 


「どちらさんも、恨みっこなしって事で、お願いしますね?」 

「はーい」


 レヴィが代表して、みんなのオーダーを部員に渡した。

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