エピソード50-16

桃魔術研究会 第二部室 睦美のオフィス兼カナメのラボ――


 あれから数日が経ち、いよいよ明日から本番となった。

 その日の放課後、睦美はいつも通り『あのポーズ』で各部門からの報告を聞き、最終確認を行っている。


「ブツの部数チェックは終わってるか?」

「はい!バッチリ終わってます!」

「ではブツの陳列方法は?」

「シミュレーションの末、配置が決まりました。御覧下さい、こちらです!」


 部員が数枚の写真を睦美の前に置いた。


「フム。流石だな。悪くない」

「私たち3年生は、こちらでの活動はこれが最期ですので」

「そうか……有終の美を飾れるとイイな」

「今回は心強い助っ人もいらっしゃいます! 必ず成功しましょう!」

「今日は早めに上がって、明日に備え、英気を養うのだ!」

「は! お心遣い、感謝致します!」


 部員は睦美に最敬礼し、ホクホク顔で部室に帰っていった。


「桃魔たちの準備は万端のようだな。残るは、と言うと……」


 睦美が端っこをチラッと見ると、モニターにかじりついている者たちが見えた。


「おーし!フォーメーションは頭に入ったな」

「まぁな。あとは野となれ山となれってな」

「いかにゾーンに追い込んで広範囲攻撃を食らわせるか、ですよね?」

「そうです素子先輩! お静、この作戦、お前にかかってるんだからな?」

「う、うん。わかってる」


 達也と素子が作戦の確認を行っていた。


「俺たちが静流を守りながら、相手をゾーンに追い込む。それで?」

「僕が攻撃を適当に受けて、技ゲージを溜めるって事でしょ? ちょっとメンドいよね?」

「だな。こんだけ強いのを連れてくんだ。個々で撃破したってイイんじゃね? なんなら『無敗』のシズム師匠にお願いするのもアリだよな?」

「ツッチー、手抜きは良くないゾ?」

「クックック、バレたかぁ~」


 達也たちのやり取りを見て、蘭子は溜息をついた。


「ふぅ、ったくよぉ。お前たちにはわかんねぇか? 勝負の美学が」

「美学? ただ勝つんじゃダメなのかよ?」

「それじゃあつまんねぇだろ?見てるヤツがよぉ」

「お客さんを喜ばすなんて、そんな余裕ないよ」


 蘭子の無茶ぶりに、顔を見合わせ、首を傾げる男二人。 


「要するに、勝負にも『落ち』が必要なんやね?」

「そうなんだカナメ先輩! わかってるじゃんかよ」

「確かに、その方が盛り上がりますよね」


 蘭子と先輩たちは、勝手に盛り上がっている。


 すると、ノートPCの画面からメルクが話しかけた。


〈問題無い。いざとなったらワシらがハッキングして暴れてやるわ〉

〈ちょっとそれはマズいんじゃない? ねぇ、ブラムちゃん?〉

「ブラムってまさか『ブラッカラム』か?」


 達也が画面に注目すると、いつもよりもう二体多かった。

 

「コイツが『ブラッカラム』? お!『ブルーアイズ』もいるぞ!」


 静流が連れて来たポケクリが全て揃っていた。


「無事に顔出せたんだね。お疲れ」

〈明日が本番ですね? 静流様〉

「うん。頼むよロディ、ブラムも」

〈ほーい。でも、ちょっと気に入らない所があるの〉

「何だよ、気に入らないって?」


 画面の中のブラムは、頬を膨らませて拗ねていた。


〈何でウチの昔の名前がゲームにあるの? その名前はかなーり前に使わなくなったはずなんだけど?〉


 そんなブラムに、睦美が話しかけた。


「それは多分、キミが伝説のドラゴンだからだろうね。古文書とか地方の昔話とかに残っている名前が、正にソレなんだろう」


〈そう言えばブラムちゃんって昔はかなりヤンチャだったらしいもんね?〉

〈ああ。用意された供物が不味いと、村に疫病を流行らせたりしとったのう〉


 睦美の言葉に反応したのは、オシリスとメルクだった。


「うわ、それは流石に引くなぁ……」

〈違うの静流サマ、ちょっと悪戯しただけ。 それにもう時効なの!〉


 ドン引きの静流に、あたふたと言い訳を始めるブラム。

 

〈まぁ、それで旦那様に懲らしめてもらって、改名したんだもんね?〉

〈そうなの! アイツは根っからの悪なの!〉


 改名前の事は自分には関係ないと言いたげなブラム。 


「じゃあそう言う事で、明日からよろしく、レジェンド様?」

〈か、かしこまりぃ、なの!〉ビシッ


 静流にそう言われ、気を付けのポーズをとったブラムであった。




              ◆ ◆ ◆ ◆




聖アスモニア修道魔導学園 アンドロメダ寮 白百合の間―― 


 校舎から寮に戻り、ティータイムをいつものメンバーで過ごした。


「いよいよ明日か。サラ、『塔』で体内時計の調整、ちゃんとしておくのよ?」

「わかりました。ありがとう、ヨーコさん」

「サラはオフィシャルな口実があるんだから、堂々としてなさいよ、先生?」

「か、からかわないで下さい」


 サラがコミマケに行く事について、色々とアドバイスを与えるヨーコ。

 アンナとナギサも、サラをいじり始めた。


「デートなんだから、精一杯おしゃれしないとね?」

「アタシたちの分まで、思いっきり甘えて来るんだよ?」

「そ、そんなぁ……今から緊張しちゃいます」ポォォ


 顔を真っ赤にして照れているサラを見て、作り笑いを浮かべるヨーコ。


「そう言えば、カチュア先生が医療スタッフで参加するって言ってたわね?」 

「保健室覗いてたら、ルンルンで下着選んでたわよ? 面倒起こさなきゃイイんだけど……」




職員室――


 職員室では、カチュアが外出許可の書類を作成していた。

 ジル神父がそれに気づき、話しかけた。


「おや先生? 外出されるのですか?」

「ちょーっと、日本までね。ムフフ」

「な、なん、ですって!? 日本?」

「勘違いしないでよ? 私はオフィシャルな件で静流クンに頼まれて行くんだから」

「この時期にオファーとはまさか、アノ祭典ですか?」

「そうみたいね。私はそう言うの興味無くって、静流クンに会えるからOKしたんだけど。ムフ」


 カチュアがそう言うと、ジルは引きつりながら言った。


「では、ジルが静流様のご武運を祈っております、とお伝え下さいな」

「伝えとく。覚えてたらね。ヌフフフ」


 書類を書き終えたカチュアは、手鏡で自分の顔を見出した。


「さぁて、エスメラルダ先生にアレ、借りなくちゃ♡」


 カチュアは軽いステップで職員室を出て行った。


「ぐぬぬ……はっ、いけません、鎮まれ……私の中の醜い欲望よ……」


 一瞬動揺したジルは、何とか自分を落ち着かせる事に成功した。




              ◆ ◆ ◆ ◆




アスガルド駐屯地 魔導研究所――


 レヴィはデスクに頬杖を突き、心ここに在らずといった表情で、ため息をついた。


「むっはぁ、いよいよ明日かぁ……」


 デスクに突っ伏していたリリィが、レヴィに話しかけた。


「そっか『コミマケ』か。レヴィにとっては恒例行事だもんね? 夏と冬両方」

「当然ですとも! 年二回の祭典ですから。 ムフゥ」 

「アクティブなオタクたち、尊敬するわ」

「特に今年の冬は、とんでもないことになりましたので」ハァハァ

「静流クンが販促に駆り出されるらしいね。スレ見たよ」

「アノ件が少なからず関わっていると思いますから、他人事じゃありませんよ?」

「資金繰りについては、GMたちを頼る他無いもんね。ガンバだよ、静流クン!」


 リリィはそう言って手を合わせた。

 するとレヴィが、何かを思いついたようだ。


「そうだ! 【グループ念話】してみましょう」


 レヴィはユーザー仲間である佳乃、ルリ、みのりに念話を繋いだ。


〈お疲れ様です、皆さん〉

〈これはレヴィ殿、如何なされたのでありますか?〉

〈お疲れ様です。大方見当が付きます。明日の事でしょう?〉

〈察しがイイですね。そうです! 明日からのコミマケの事です!〉

〈少尉殿はオフィシャルで行かれるとか?〉

〈もしもの時の医療スタッフとして参加します。静流様直々にコスプレをなさるとしたら、状態異常を起こす方も当然いるでしょうから。かく言う私も、正気を維持出来るかどうか……〉

〈確かに。流石はGM。目の付け所が違いますな〉

〈とにかくそう言う事ですから、みのりさんにも手伝ってもらうかも知れないから、そのつもりでいてね?〉

〈わ、私、ですか?〉

〈静流様に恩を売っておくチャンスですよ? さすれば、思わぬ報酬が……ムフフフ〉

〈な、何です? 報酬って?〉

〈とーってもイイ事〉


 それからレヴィが当日の予定などを説明し、念話を終わらせた。


〈それでは同志たち、『塔』でお会いしましょう〉




              ◆ ◆ ◆ ◆



ダーナ・オシー駐屯地―― 


 デスクでPCを見ているココナ。


「やはり静流殿は、私が護らねばならんな……」


 ぼそっとそう言ったココナに、夏樹は怪訝そうな顔で聞いた。


「姫様? どうかなされましたか?」

「夏樹、壱号機は出撃可能か?」

「え、ええ。いつでも飛べますが?」

「明朝、出撃する! 準備しておけ」

「りょ、了解!」


 こうして、コミマケ前日は終わった。

 これから来る嵐の前の、静かな夜だった。

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