エピソード50-2

五十嵐家 静流の部屋――


 静流は退屈しのぎにノートPCを起動し、メルクを呼び出した。

 真琴たちにお披露目したあと、ロディが試しにアプリに入ろうとした所、やけにあっさりと成功した。


「やけにあっさり入れたね? ロディ?」

〈恐らく、『憑き物』に優しい環境なのだと思います〉

「ん? 憑き物と言えるかわからないけど、まだココにもいるよな……」


 静流は、自分の首の辺りを指さした。


〈結構居心地イイですよ? オシリス先輩も如何です?〉


 ロディは、画面からオシリスに声をかけた。

 すると今まで休止状態だったオシリスが、不可視モードを解いた。


「何? 面白そうな事してるじゃない? う~んと、ほい!」シュン


 するとオシリスも一瞬でノートPCの画面に入った。


〈どぉ? 静流、ってあれ? 元の身体に近いわね?〉

「これ、オシリスなの? ハーピーみたい。カワイイ」


 画面の中のオシリスは、緑色の髪の少女で、背中に四枚の羽根が、昆虫の様に生えていた。


「本当に、オシリスなの? 確かに前に夢で見た格好に似てるな」

 

 以前、静流が見た夢の中にいたオシリスは、画面の中のそれと同じ位の大きさで、薫たちと行動を共にしていた。


〈これでわかったでしょ? 私が元『風の精霊』だった、って事。ムン!〉


 オシリスは腰に手をやり、ドヤ顔で胸を張っている。


「何か、真琴に似てるな? そう言えば前に、オシリスと中身の入れ替えっこしてたよな?」

「う、うん。お母さんがオシリスって名前、おばあちゃんから聞いた事があったとか言ってたし……」

〈確かに、真琴とはリンクし易かった。精霊族の特徴が色濃く出てるせいね〉


 ノートPCの画面が、一気ににぎやかになった。


「何か楽しそう。このアプリを携帯端末に入れて、待ち合わせ場所とかにしたらイイかも」


 美千留の提案に、メルクは大きく頷いた。


〈む、そいつはイイ。静流、お主の携帯端末に、このアプリを入れておいてくれ〉

「「えっ……」」


 メルクの言葉に、真琴たちが気まずそうな顔をした。


〈どうした? 静流?〉

「ああ、実はね、僕は携帯端末、持ってないんだ……」

〈そうなのか? 今どき珍しいのう……〉

 

 静流が気まずそうにメルクに言ったのを見て、真琴がフォローした。


「静流は昔、携帯端末を買ってすぐに、ちょっとしたトラブルがあってね……」

「あれはツッチーが悪い! しず兄の番号をみんなにホイホイ教えちゃったから!」


 大方、達也が女子たちに、静流の携帯番号を何からかの報酬をもらって教えていたのが、あっという間に広まってしまったのだろう。


「……それで、サーバーがパンク、したのよね……」

「結局通信会社のブラックリストに載っちゃって……」

「大丈夫。 僕には勾玉があるし、連絡には困らないから」


 真琴たちの気まずそうな顔を見て、静流は気にしていない事をアピールした。


「でもなぁ、やっぱ持ち歩きたいしな……ん? そうか! アレはどうかな?」


 静流が何か思い出したようで、部屋の押し入れをひっかきまわし始めた。


「静流? 何を探してるの?」

「えーっと、この辺にあったはず……あ、あった!」


 静流が探していた物は、旧型の小型ゲーム機であった。


「良かった。捨ててなかったと思ってたんだ。うは、ソフトも入れっぱなしだった! ラッキー!」

「しず兄、それって『ブンダースワン』だよね? 何でそんなもの探してたの?」


 美千留は首を傾げ、静流に聞いた。


「そりゃあ勿論、メルクの居場所を作る為だよ」

「バカなの? 大体そんな古いのまともに動くはず、無いじゃない……」


 実の兄を、ゴミを見るような目で見ている美千留。 


「ええと、電池、電池っと」


 美千留の視線はお構いなしに、静流は『ブンダースワン』の本体に電池を入れ、電源を入れた。


「南無三、えいっ」パチ


 ピュイーン♪


「やった! 起動したぞ!」


 電源を入れると、軽快な起動音と共に、液晶画面にタイトルが表示された。

 タイトルは、『ポケットクリーチャー デルタ』であった。


「へぇ。動くもんだね」

「静流って昔から、物持ちはイイもんね?」


 何年も押し入れの奥にしまっていた物が簡単に起動した事に、美千留は感心したが、真琴は特に驚きはしなかった。


「ソフトを立ち上げて……お、セーブデータも残ってるぞ!」


 静流がステータス画面の『ずかん』を開くと、様々なポケクリがズラっと並んだ。


「メルク、コイツに入る事、出来る?」


 静流は、ノートPCの画面に向けて、ブンダースワンを見せた。


〈何じゃ? 携帯端末か?〉

「これはね、ひと昔前のゲーム機なんだ。ソフトは『ポケクリ』だよ」

〈ふむ。 では、そいつがお主が言っておったゲームか?〉

「そう。コイツが使えれば学校にも持ち歩けるし、いろいろ便利なんだ。勝手な事を言ってるのはわかってるけどね」

〈フム。その通信用のスロットに、ケーブルを繋げば可能じゃろう〉

「ケーブルか……ロディ、何とかならない?」

〈お待ちを……〉シュン


 ロディがノートPCの画面から戻って来て、ブンダースワンの通信スロットを確認し、自分の手をハーネスの形状に変形させ、ノートPCとブンダースワンを連結させた。


「コレでどうでしょう」カチ

〈うむ。やってみる……〉シュン 

 

 静流が『ずかん』をスクロールさせると、確かに『メルクリア』と言う名称で登録されていた。

 静流がメルクを選択すると、静止画だったメルクが動き出した。


〈どうかの? いささか狭苦しい感じがするが……〉

「やった。成功だ! いぇーい♪」

「しず兄、ガキみたい」


 どうやら成功だったようだ。子供みたいにはしゃぐ静流を見て、真琴は嬉しそうに言った。 


「良かったね、静流」


 調子に乗った静流はそのあと、ロディとオシリスも登録しておいた。

 

「よし、コレでいつでも呼び出せるな」

〈いっちょ前に、電波を飛ばせる仕様みたいだから、登録さえ済ませちゃえばオッケーみたいね〉シュン


 ブンダースワンの『ずかん』を閉じると、オシリスは今の身体に戻り、メルクはノートPCに戻った。


「ふう。やっぱココが落ち着くわ」 

〈ワシの場合、データの中が家みたいなもんじゃから、特に変わらんな〉


 静流はブンダースワンを手に取りながら、嬉しそうに真琴たちに言った。


「よーし、明日から持って行こうっと♪」

「静流……学校に関係の無い物持ってったら、ムムちゃん先生に取り上げられるぞ?」

「休み時間とかに遊べばイイんでしょ? 大丈夫だって」

「ふう。コレだもんね……」


 真琴と美千留が顔を見合わせ、『オーマイガー』のポーズをとった。




              ◆ ◆ ◆ ◆




国分尼寺魔導高校 2-B教室――


 次の日静流は、真琴の制止を振り切り、学校にブンダースワンを持って来た。


「達也、これ見て、ジャーン!」

「お? ブンダースワンじゃねえか? 懐かしいな」

「私は止めたのよ? そんなもの学校に持って行くなんて、ガキじゃあるまいし……」


 男どもがはしゃいでいるのを横目に、真琴は朋子にボヤいた。


「急にどうしたのよ? そんな骨董品持ち出して来て」

「昨日、押し入れから引っ張り出してきて、ちょっとした騒ぎがあったのよ……」

 

 静流は早速、『ずかん』を開き、メルクたちを見せた。


「へへ。実はさ、コイツら、僕のオリジナルポケクリなんだぜ?」

「ん? ソフトに細工でもしたのか?」

「まぁ、そんなトコ。会話も出来るんだ。おい、メルク!」


〈呼んだか? 静流よ〉

「今、学校にいるんだ。友達にメルクを紹介したくてね」

〈お前、先生に怒られるって言われとったろう? 大丈夫なのか?〉

「授業中じゃなきゃ、大丈夫だよ」


 画面の中の岩ポケクリが、静流と普通に会話している。


「こりゃたまげたね。AI搭載してんの? 今の端末だって、そんなもん搭載してないのによ?」

〈お主が美千留が言うとったツッチーか?〉

「お、おう。そうだけど?」

〈静流の理解者は多い方がイイ。よしなにお願いする〉ペコ

「こ、こりゃあどうもご丁寧に」ペコ


 達也は、小型ゲーム機に向かって頭を下げた。


「きゃはは、達也がゲームキャラに頭下げてる♪」

「ああ下げるさ。なんせ俺は、礼儀を重んじる男、なのでな」キリッ


 男どもがきゃいきゃいやっている所に、割り込んでくる者がいた。


「お静、それは『ブンダースワン』か?」

「お蘭さん? そう。昨日久しぶりに起動させたんだ」


 静流がそう言うと、蘭子は小刻みに震え始めた。


「お蘭? どした?」

「げ、現役……なのか? お静?」

「いやいや、昨日数年ぶりに動かしたんだよ。いまだにポケクリやってるの、多分いないんじゃ……」

「そうか! 復帰組だな? よくぞ帰って来てくれた!」ポン


 蘭子はほんのり顔を赤くして、静流の肩をポンと叩いた。

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