エピソード47-39

国分尼寺魔導高校 2-B教室――


 撤収作業が始まった直後、静流はふと何かに気付いた。


「そういえば、『自画像』って売っちゃって良かったのかな?」

「先輩がサラちゃんに都合付けたんだから、大丈夫でしょ?」

「でも、取り敢えずサラに知らせておこう」


 静流はサラに念話を繋いだ。


〔サラ、今大丈夫?〕

〔はうっ、し、静流様? 大丈夫、です〕

〔実は、サラに用意してもらった『自画像』、オークションに出す事になったんだけど、問題無い?〕

〔え?あの絵がオークションに!? はわわわ、 私の唯一の楽しみが……はぅぅ〕


 少しの間無言が続いたので、静流は心配になった。


〔楽しみって? ひょっとして……マズかった、かな?〕

〔だ、大丈夫です。睦美さんとも話は付いていますし。あの絵を可愛がってくれる人に渡ってくれる事を願ってます〕

〔それならイイんだけど。もし収入があったら、サラに何か買ってあげないとね〕

〔そ、そんなの、イイです。 代わりにお願いが……〕

〔何だい? お願いって〕

〔私を……『コミマケ』に、連れてって下さい!〕

〔コミ、マケ?〕


 サラが発したワードに、そう言えばそんなイベントもあった事を、静流は思い出した。


〔僕も実際に現場に行った事無いんだよな……イイよ。視察がてら一緒に回ろう〕

〔ほ、本当ですか? 嬉しい、です! ふぁうう〕

〔楽しみにしてて。それじゃ〕ブチ


 不愛想にとっとと念話を終わらせてしまう静流。


「ちょっと困った声してたけど、売ってイイみたい」

「そう。で、報酬にサラと『コミマケ』デートするんだ?」

「デートって、そんな大袈裟な、っていうか、聞こえてた?」

「『コミマケ』ってワードが漏れてたのと、あとは推測。静流? 一応デートなんだから、やっつけ仕事じゃ済まないわよ?」


 何故かイラついている真琴に責められ、静流は困惑した。


「大丈夫だよ。ヨーコとかとは違って、サラは聞き分けのイイ子だから」

「はぁ、コレだもんね……サラちゃん可哀そう」





              ◆ ◆ ◆ ◆





ダーナ・オシー駐屯地内 第九格納庫 ――


 ココナの機体についてはいろいろあったようだが、メルクの分身であるリアが、後を引き継ぐ事で落ち着いたようだ。


〔最初からウンと言っておけば良かったんじゃ。つまらん時間を取らせおって!〕

〔記憶の並列化、忘れるでないぞ?〕

〔わかっておる。ではの〕パァァ


 そう言うとメルクは消え、USBメモリーのパイロットランプが点滅した。 


〔おいブラム! このメモリーを向こうの機体に挿してくれ〕

「ほーい、オッケー♪」


 ブラムはUSBメモリーを抜き、静流の機体の方に向かう。

 静流の機体は、全高6mの小型の肉食恐竜に似たフォルムであり、搭乗時は頭部を地面にこすりつけている様なポーズだった。

 ブラムは操縦席に座り、USBメモリーをスロットに挿し込んだ。


 

 ピロリン♪


 

 機械音のあと、操縦席にある画面が一瞬光り、画面いっぱいにメルクの顔が出現した。


〔はぁ、よっこいせ!〕

「うわ! ビックリさせないでよメルク!」

〔おお、すまんかった。よし、全システム掌握完了じゃ! 起動するぞ!〕


 ブゥゥゥン


 頭部のコクピットが徐々に上がっていき、機体が立ち上がった。


「ほぇー、 結構高いね。 どうやって操縦するの?」

〔お主は座ったままで良い。操縦はワシがやるでの〕


 メルクは首を左右に旋回させたあと、手と足、尻尾を動かして見せた。

 すると万里から無線が入った。ピーッ


〔今って、メルクさんが操縦してるんスか?〕

「そだよ。ウチは座ってるだけ」

〔スゲェ! メルクさん、一家に一台欲しいッス!〕


 メルクはスピーカーに切り替え、音量を上げて万里と直接しゃべり始めた。


「フム。悪くない機体じゃが、まだまだ改良の余地がありそうだな」

「何から手を付けるッスか?」

「とりあえず、廃材置き場に行く。万里、付いて来い」

「了解ッス! うわぁい、楽しくなって来たッス!」


 静流の機体は、廃材置き場に向かってズン、ズンと歩き出した。

 万里は運搬用カートに乗り、そのあとを付いて行く。


 その時、事務所にいたココナたちはと言うと……。


「姫様……静流様、行っちゃいましたね?」

「仕方ないでしょ? 無理に引き留めて、嫌われたくないもん! グス」

「なにも泣かなくても……今生の別れ、と言うワケでも無いでしょうに」

「元気出して下さぁい、すぐに、また会えますからぁ……」


 がっくりとうなだれ、部下たちになだめられているココナ。

 その時、格納庫の方で物音がした。



 ブゥゥゥン



「ん? この起動音って、まさか?」


 静流の機体が動いているのに気付いたココナが、慌てて事務所から出て来た。

 その後を部下たちが追っかけた。


「誰だ!? 勝手に動かしているのは?」

「榊原中尉? はそこにいるし……誰?」


 郁はココナの機体の残骸に【復元】の魔法を掛けている最中であった。

 近くにいたアマンダがココナに声をかけた。


「メルクよ。操縦系も操れるなんて、器用なもんね」

「全く、呆れてものも言えんな。これでは静流殿に手ほどきをする必要が無くなるではないか!」

「あら? それは残念です事」


 メルクたちがこの場から去り、ココナの機体は取り残されたようにたたずんでいた。

 アマンダが操縦席に様子を見に来た。


「リアさん? こっちの様子はどうかしら?」

〔問題無い。 直ぐに自己修復プログラムを起動させる。下がっておれ少佐〕

「わかったわ」


 リアにそう言われ、アマンダはコクピットから離れた。すると、コクピットが光り出した。 



 ゴォォォン



 不思議な光景を目の当たりにし、ココナはアマンダに聞いた。


「少佐殿、一体何が始まると言うのだ?」

「この機体に最初から搭載されていた機能『自己修復プログラム』を起動したの」

「確かに万里もそのような事を言っていたが、驚く事ばかりだな……」


 アマンダは操縦席に無線を繋ぎ、リアに聞いた。


〔ついに始まったの? 自己修復〕

〔左様。 さぁ、始めるぞぃ〕


 コクピットが淡く光り出すと、格納庫のクレーンや作業用ゴーレムが動き出した。

 万里に用意させたこの機体の残骸を拾い、てきぱきと組み上げていく。

 アマンダは、次々に組み上がっていく機体を見て感心している。


「へぇ。 大したもんね。そこにある物を最大限に生かしてる。 動作にも無駄が無いわね」

〔あとは足りない物を調達すれば、ほったらかしでも作業は終わるわい〕

 

 すると、郁とルリがアマンダの傍に寄って来た。


「ふぅ。【復元】はこれで終わりか? まだあると言われても、今日は打ち止めだぞ?」

〔うむ、 ご苦労であった。不足する部品は廃材置き場から調達する〕

「ココナちゃん、郁ちゃんが頑張ってくれたよ? 褒めてあげて?」


 ルリにそう言われ、ココナは照れくさそうに郁に礼を言った。


「郁ちゃん……ありがとう。そして、今までの無礼な態度、ごめんなさいっ!」


 ココナが深く頭を下げ、郁は後頭部を搔きながら会釈した。


「気にするな。私も意地を張っていたから、お相子って事だ」


 二人は見つめ合い、微笑んだ。

 二人の間に、ルリがドヤ顔で割り込んだ。


「うんうん。本来あるべき姿ね。結構結構!」

「「何を偉そうに!」」

「へぶぅ」


 ココナと郁に、同時にツッコまれるルリであった。


「こういう感じ、久しぶりだな……」

「おいココナ、ルリがおセンチになってるぞ?」

「それはそうと、ルリちゃん? 静流殿とはいつお知り合いになったの?」

「つい最近。ウチに講師で来てもらった時。それを言うなら、郁ちゃんの方がもっと仲良くしてもらってるんじゃない?」

「そ、そうなの? 郁ちゃん?」

「まぁな。ウチの隊には静流めの幼馴染の澪もいるしな」

「え? あの娘が!?」

「ウチやアスガルドの連中は、あヤツの『ファミリー』見たいなもんだ」


 それを聞いて、ココナはワナワナと震えていた。


「郁ちゃん……ズルいよ」

「仕方なかろう? 文句なら寮長に言え」

「寮長先生……ローレンツ元准将閣下からのツテか。でもズルい!」


 三人でわいのわいのやっている姿を見て、夏樹たちは穏やかな笑みを浮かべた。


「姫様、楽しそう」

「また一段とお綺麗になられた……素敵」

「私たちも、 全力であの方をバックアップしないとね?」


「「はいっ!」」

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