エピソード47-20

ワタルの塔 4階 医務室――


 ココナの『エターナル症候群』を治療する策として、ココナの夢を何らかの方法で改善し、この症状から脱する案が考案された。

 忍は腕を組み、暫く黙考していたが、何か思い付いたようだ。


「夢を見せるだけではダメ。実際に夢に入り込んで引きずり出す」

「そんなサイコドクターみたいな事、本当に出来ると思って?」


 自信満々な忍に対し、慎重な態度をとるアマンダ。


「もしかして、睡眠カプセルを使うの?」

「そう。わざと混線させて、夢の中に割り込む」


 つい先日、ジェニーやルリが体験した、夢を共有する裏技を使って、今回のミッションを行うつもりのようだ。


「シチュエーションは? シナリオを準備する時間が惜しいわ」


 アマンダは忍にそう言うと、忍は顎に手をやり、ぼそっと呟いた。 


「仕方ない。私の『夢コレクション』を使うか……」

「『夢コレクション』?」

「うん。こういう事もあろうかと、いくつかテンプレの夢を用意しといた」

「そんな事言ってるけど、自分が楽しむ為でしょうに」

「フッ、バレたか」

「それで、誰が夢の中に入るの?」

「それは勿論、シズルー。アナタよ」ビシッ


 忍はシズルーを指さした。


「そう来るとは思っていたが、何分経験が無いのでな……」

(うわぁ、マジですか?)


「大丈夫。みんながモニターしてるし、私が外から指示を送るから」 

「見られていると、余計やりにくいな」


 シズルーにしては、頼りない返事であった。


「大尉、大丈夫ぅ?」

「頑張ってくださいね、大尉殿!」

「姫様を、お願いしますっ!」

「わかった。やってみよう」


 部下たちに気遣われてしまったシズルー。すると、


「困っているようだな、ドラゴンスレイヤー殿?」


 いつに間にか起きていたメルクが、自信たっぷりにシズルーに言った。


「ワシがサポートしよう。あ奴の本体まで連れてってやる」

「メルク、頼めるか?」

「うむ。乗り掛かった舟じゃ。協力しない理由はないじゃろう」

「ありがとう。助かるわ」


 方針が決まり、アマンダは手をポンと叩いた。


「じゃあ、各自準備を始めて!」


「「「了解」」」





              ◆ ◆ ◆ ◆





国分尼寺魔導高校 視聴覚室――


 静流たちの順番が来て、視聴覚室に入る。

 視聴覚室は前面にスクリーンが設置され、40人程が座れる固定式の椅子があり、スライドや動画を観る為の教室である。

 絵は左端に置いてあり、垂れ幕がかかっている。その前にビデオカメラが三脚で固定されており、その映像をスクリーンに映し出す仕組みらしい。

 絵に近付いて細部を観る事が出来ない等を配慮した為であろう。


「うひゃあ……昨日より、かなり大事になってる」

「フム。この設備なら、学校単位で来られても大丈夫そうだな」


 順番に座席に座る。

 左端に達也で隣が静流。後はシズム、ヨーコ、アンナ、ナギサ、サラ、そしてニニちゃん先生であった。


「随分凝った演出ですね」チャ

「それだけ、静流様の絵がとんでもないって事ですかね?」

「ま、見てのお楽しみっ、てね」


 あっという間に座席が満員になった。

 静流はみんなに一言告げた。


「あんまり期待しないで欲しいんだけどなぁ」

「期待するなって言われると、余計期待しちゃうな」


 そうこうしている間に、係の女生徒が絵の前に立った。

 絵の下にあるプレートには、『メテオ・ブリージング』『作:アーネスト・ボーグナインJr.』と読める。


「はーい。お待たせしました。『メテオ・ブリージング』ご堪能下さい。 尚、観覧時間は3分間です。では、どうぞ!」バッ


 そう言って女生徒は、絵に掛かっていた垂れ幕を一気にまくった。

 照明が落ち、部屋が暗くなる。ビデオカメラが捉えた映像がスクリーンに映し出された。パァァ



「「「「「はっふぅぅぅん!!」」」」」



 映し出された絵は、桃色のまばゆい光を放ち、見ている者を魅了した。

 目が慣れてくると、絵の全貌が明らかになった、

 その絵は、中央に立っている女神シズルカが、両手を前に突き出し、親指と人差し指を合わせた『気功波』を放っている様なポーズを取っている。

 シズルカの周りは、桃色を基調に絶妙なグラデーションが施されていた。 


「ブリージング……正に【祝福】……くはぁ」

「絵から、物凄いエナジーを感じるわ」

「何だろう……あれ? 自然と涙が……」


 見ている者たちが、次々に感想を述べていく。

 この中で、何も異常をきたしていないのは、静流とシズム、美千留だけであった。


「はーい、3分経ちましたので、退場お願いしまぁーす!」


 係の女生徒が、時計を確認するなり絵に垂れ幕を掛けた。ファサッ


「う、うう。ここは、ドコ?」

「もう、終わってしまったのですね……」


 部屋が明るくなり、客が眉間の辺りをつまむ仕草をしている。


「カナ子、大丈夫?」

「はひぃ。ら、らいりょうぶ」


 カナ子の頭の上を、星がクルクルと回っている。


「えー、速やかにご退場下さーい。 再度ご観覧の方は、一旦出て整理券を取ってくださぁい!」


 係に促され、客たちがすくっと立ち上がり、ゾロゾロと列をなして退場していく。

 静流たちもそれに追随して、視聴覚室から出た。


「ふう。何回見ても、やっぱスゲえな」

「そ、そう? みんなは、どうだった?」

 

 視聴覚室から少し離れた廊下で、静流がみんなに感想を聞いた。


「そうですね。確かにゾワっと来ましたね」

「まぁ、アタシたちは、生の【弱キュア】を浴びたクチだから、体感的には十分の一、位かな?」


 学園に短期留学していた時に、静流はシズルカに変身し、生徒たちに『施術』を行った事がある。

 その効果は、個人レベルで規模の大小はあるが、『奇跡』といっても過言では無かった。

 ニニちゃん先生は、生徒たちの感想を踏まえ、持論を展開した。


「実際の『施術』とは程遠いですが、視覚からのみで得られた効果は、特筆すべきものがありますね……」チャ


 ニニちゃん先生がそう言った時、後ろから声をかけられた。


「アナタがムムのライバル?」

「木ノ実先生!」


 静流たちに声をかけたのは、図書室の司書、木ノ実ネネだった。


「五十嵐クン? いつもながら、やってくれたわね?」

「す、すいません。先生、こちら、学園の方々です」

「どうも。引率のニニ・フジサワです」チャ

「私は木ノ実ネネ。ムムは大学の後輩よ」


 先生同士の自己紹介が終わった。


「みんな、木ノ実先生は桃魔の顧問でもあるんだ」

「それはそれは。ウチのサラ・リーマンがお世話になっております」

「お、お世話になってます」


 静流にネネを紹介され、アンナは冗談交じりにサラをいじった。


「ああ、アナタが。『薄い本』のアノ絵から想像していた作者のイメージとは、真逆を行っているわね」

「意外、でしたか?」

「気する事は無いわよ。趣味趣向は人それぞれ。時には開き直りも必要よ」

「あ、ありがとう、ございます」


 ネネにそう言われ、ぺこっと頭を下げたサラ。


「五十嵐クン、一通り見終わったのよね? じゃあ生徒会室に行くわよ!」

「は、はぁ……」

「今後の対応を話し合わないとね。もう、面倒事ばっかり……ほら、グズグズしない!」

「わ、わかりましたよぉ」


 ネネに促され、一同は生徒会室に向かった。

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