エピソード47-6

ダーナ・オシー駐屯地内 診療所 ココナの病室――


 格納庫から戻って来たシズルーたち。

 アマンダにジルが話しかけた。


「少佐、夕のお祈りの時間がありますので、私はそろそろ……」

「そうですか。では神父様、明日は塔でお会いしましょう」

「わたしはまだこのクランケを塔に移送する仕事があるから、アンタ先に帰ってて」

「はい。ではシズルー様。御機嫌よう」

「お疲れ様です。ジル神父」

「明日こそは、シズルー様のお役に立てる様、このジルベール、誠心誠意……」

「早く行きなさいよ! お祈りに送れるわよ?」

「きぃっ! 邪魔をしないで頂きたいですね、全くぅ……では失礼」


 ジル神父は煮え切らない顔付で、シズルーたちに一礼をしたあと、【簡易ゲート】の方に歩いて行った。


「やっと陰気な奴がいなくなったわ。こっちもパパッとやっつけちゃいましょう。ねぇ、シズルー大尉? ムフゥ♡」


 カチュアはシズルーの顎をくいっと持ち上げ、見つめ合っている。


「先生、患者を塔に運び込む段取りは出来ているのか?」

「勿論。ぬかりは無いわよ」


 そう言うとカチュアはシズルーから離れ、アマンダの隣に立った。


「どうなの? クランケの状態は」

「今は薬で良く眠ってる。運ぶなら今ね」

「ルリさん、ストレッチャー展開」

「了解しましたっ!」ガシュン


 ルリが魔道具を展開すると、搬送用のストレッチャーが出現した。


「拘束具はどうする?」

「そうね……外しましょう」


 カチュアとアマンダがそう話していると、夏樹が口を挟んだ。


「お言葉ですが、拘束具はそのままの方が良いと思われますが……」

「さっき奴と話した時、敵意は感じなかったわ。コッチがガチガチに拘束するから、相手も身構えてしまうんじゃなくて?」

「それは、そうかも知れませんが……」

「大丈夫よ。コッチにはシズルー大尉殿がいるんだから」

「そうです! いざとなったら『アノ技』で無力化出来ますから。ヌフゥ」


 ルリは少し興奮気味にそう言った。


「少尉殿、『アノ技』とは?」

「相手を瞬時に無力化出来る、シズルー様のとっておきの技です。ムフゥ」


 夏樹は瞳と顔を見合わせ、ほぼ同時に頷いた。


「わかりました。瞳、拘束具を外すわよ」

「了解」


 拘束具が外され、あとはストレッチャーに移すだけになった。

 アマンダはココナの部下である、夏樹、瞳、ケイに声を掛けた。


「付添は、アナタたち三人でイイのかしら?」

「はい。万里は機体の調整をやってもらってますので」

「各自荷物の確認後、塔に移送します。イイわね?」

「「「了解っ!」」」




              ◆ ◆ ◆ ◆




「「お待たせいたしました!」」


 ココナの部下たちは、十分程度で戻って来た。

 夏樹と瞳は、必要最低限の装備をバックパックに詰めて来た。

 残るケイは、と言うと……。


「ひぃ、ひぃ……」

「ケイ? 何よその荷物は?」

「姫様の、大事なもの、持って行かないと」


 ケイは自分のバックパックを背負い、それとは別にスーツケースをヒイヒイ言いながら押して来た。


「ケイ、一体何が入ってるの?」

「向こうで読むものが必要だと思ったの。どれがイイかわからなかったから、全部詰めて来たの。ふぅ」

「ちょっと、見せなさい。瞳も手伝って」

「ナッキー、わかった」


 三人はスーツケースを開け、読み物とやらを吟味し出した。


「読み物って、雑誌とか小説、かしら?」


 アマンダは三人を不思議そうに眺めている。


「そうね……コレとコレは外せないわね」

「あとコレも。ケイ、他のは元に戻して来て」

「え!? はい、りょーかい……」


 持って行く物が決まったようで、ケイは肩を落とし、その他のほとんどの物を片付けに行った。

 部下の準備が終わり、ココナを塔の四階にある医務室への移送が始まった。


「隊長をストレッチャーに移して固定」

「了解!」


 ふと見ると、クリス司令が見送りに来ていた。


「ココナの事、お願いしますね?」

「全力を尽くします。ま、コッチには伝説のスゴ腕医師もいるしね?」

「そこ! 何か言った?」

「いえいえ、おーこわ」


 アマンダはクリスにおどけて見せた。


「MTの開発方面も面倒見てくれるって、万里がはしゃいでたんですが……」

「あ、ソッチはほんのサービス程度。でも何とかなっちゃうと思うのよねぇ」

「控えめに期待しています。少佐」

「うんうん。それで結構」


 クリスとの会話を終え、アマンダは一同に告げる。


「じゃあ、行くわよ!」

「「「「了解!」」」





              ◆ ◆ ◆ ◆





ワタルの塔 二階 娯楽室――


 留守番組の郁、忍、ジェニー、そしてブラムは、シズルーたちが戻って来るまで自由時間であった。

 娯楽室は、その名の通り映画やゲーム等、あらゆる娯楽施設が充実しており、退屈な事はなかった。

 

「もうじき夕方ね。みんなが帰って来る頃じゃない?」

「そうだな。放っておけ、あ奴らに任せておけば、どうにかなるだろう」

「静流、早く帰って来ないかなぁ……」


 そんな事を話していたら、塔のエレベーターがの駆動音が聞こえた。

 

 ウィーン


 扉が開くと、誰かがこちらの方に近付いて来る。


「帰って来たみたいですね? 誰だろう?」


 こちらに向かって来るのは、ジルであった。


「皆さん、お疲れ様です」

「お疲れ様、あら? 神父様お一人?」

「私は、学園で夕のお祈りがありますので、お先に失礼させて頂きました」

「少佐たちは?」

「もう少ししたら、お戻りになると思いますよ?」

「じゃあ、搬入の準備しなきゃね」


 ブラムはそれを聞いて、ココナを受け入れる準備に入った。

 ジルはジェニーに挨拶をして、学園に帰ろうとした。 


「コホン、では、また明日参ります」

「お疲れさまー。あ、神父さまぁ」

「はい? 何でしょう?」

「時間がある時でイイから、『ジン様』の昔話、聞かせてくれません?」   

「朔也の? わかりました。とっておきのお話を致しましょう。ムフ」



 ジルが学園に帰ってから数刻が過ぎた頃、ブラムがバタバタと騒ぎ出した。


「あー、えらいこっちゃ」

「ブラムちゃん、少佐殿たちが帰ってくるの?」

「やっとご帰還か? 待たせおってからに」





              ◆ ◆ ◆ ◆





ダーナ・オシー駐屯地 正門付近――


 夏樹が警衛所で出所手続きを済ませると、両手で〇を作った、


「さぁ、行くわよ!」

「「「了解!」」」


 ストレッチャーをシズルー、瞳、ケイで押し、アマンダとルリがあとを付いて行く。


「大尉殿ぉー、ナッキー! 姫様をよろしくぅー!」


 後ろから万里が走って来て、両手を振っている。 


「万里ー! 行って来まーす!」


 一同はストレッチャーを押しながら、万里に手を振る。

 正門を出て、少し離れた所の壁をアマンダが手で確認すると、【簡易ゲート】が出現した。

 夏樹たちは、恐る恐る【簡易ゲート】の黒い穴を覗いた。


「これが、【ゲート】ですか?」

「そう。大丈夫。危険は無いから」


 アマンダが先頭に立ち、みんなを誘導する。


「さぁ、入りましょう」


「「「「了解!」」」」


 アマンダに続き、シズルーたちはストレッチャーを押しながら、黒い穴に入って行った。

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